172話 腐ったバナナは、もう要らない
「私、ぜったいに馬車から離れませんので!!」
ああ。
はいはい。
予想通りの、ユリちゃんでした。
放火と津波で、てんやわんやになった兎人族の村。
村落全壊、とまでは行かなかったけども。
通常の生活が困難になる程度には、破壊されており。
……いや、ぶっちゃけオレらが原因の半分なんだけど。
だ、黙っておけばバレないはずっ。
と、まあ。
そんなわけで。
豹人族の、襲来もあったことだし。
メルちゃん率いる、兎人族。
ひとまず?
女王の保護を求めて。
島の中央。
師匠の居城に、移動することになりまして。
「数々の無礼、誠に申し訳なく。あたしの首ひとつで」
他の兎人を、助けて欲しい。
なんて。
真剣に、お願いしてるメルちゃん。
が。
他の兎人の女性たちに。
全力で、羽交い締めされております。
──。
微笑ましい、心温まる兎人たちの絆ですね。
「こら、現実から目を背けるでない」
「いや師匠の担当じゃないですかぁ」
島の中の問題なんだからー。
オレ、本来無関係ですよね?
「不用意に、精霊魔法なぞ使うからじゃ」
「使ったの、オレじゃありませんしー」
ウンディに指示したの、オレだろって。
そこを指摘されると、弱い。
なんで、精霊魔法使ったのが問題かって。
獣人さんたち。
どの種族でも、殆ど例外なく精霊術士だそうで。
種族別に、それぞれ信仰精霊は異なるけども。
精霊力の動き。
つまり。
小精霊の働きを、敏感に感知出来ると。
……。
そりゃ。
地の大精霊と、水の大精霊がセットで居るんだから。
なんか術使ったら、おっそろしい勢いで動きますわな。
と、いうわけで。
オレとウンディ。
大精霊だと、バレてしまいましたー。
「いや? オレ、そんな崇拝される筋合い、ないからね?」
「「「「精霊様の御言葉、感激でございます!」」」」
あー、もうっ。
誰か、何とかしてくれ。
昨日まで、檻の中だったのに。
今日は、周り中に女性侍らせてるオレ。
て、いうか。
兎人さんたち。
オレが一人で何かしようと、すると。
全力で先回りして、代わりにやってくれるという。
トイレにでも行こうものなら。
絵面が、とても愉快なことになるんだろうな。
いや、オレらは排泄しないんだけども。
で。
「じゃ、俺は豹人族の方だな」
「我も付き合う。馬車旅は、飽きた故」
うん。
ロックさんは、セラさんの行方を追う使命があるので。
豹人族の、動向を探る方向で。
ここから、オレらと別行動するそうで。
そもそも?
豹人族の縄張りって。
本来だと、兎人族とは遠く離れてるそうで。
で、襲ってきたときの、様子。
縄張り争いで、食糧問題なら?
略奪や殺人が、発生しそうなものが。
村に入り込んだ豹人がやったことというと、放火だけ。
ここら辺が。
通常の部族間戦争と、大幅に異なるそうで。
──セラさんが、なんか裏で糸引いてるんじゃ?
的な。
そんな感じで。
女王城に向かう組。
集落の兎人たち全員と。
オレ、マークさん、ユリちゃん、師匠。
リルとティーマはオレと一心同体だから、数えないが。
そして。
豹人族の動向を探る組。
ロックさん、ウンディ。
と。
二手に分かれることにしました。
「連絡は、ウンディちゃんを通せばいいんだよな?」
「うん。島内程度の距離なら、いつでも通話出来るので」
なら、行動は急げってことで。
ロックさん、ウンディを抱っこして。
森の奥へ、消えてった。
……こんなときでも、ウンディは自分で歩かないのか。
などと。
割と、どうでもいいことを考えつつ。
オレらも。
ゴーレム馬車で、村の荷馬車を牽引して。
兎人族の全員を、女王城へ移送しないと。
「具体的に、ここからどれくらいの距離なんです?」
「普通の馬車ならば一週間は掛かるが。これなら三日かの」
正面向いたまま、微動だにしない我が家のゴーレム馬。
その身体を、軽く撫でながら、師匠が。
この子たち、動き出したら不眠不休だからね。
普通の馬の、数十倍のパワーあるし。
だから、風呂場や調理場の貨車を引けるわけだが。
更に、兎人族全員を載せた荷馬車を追加しても。
全然、パワーに余裕ありますわな。
んじゃ。
日が暮れないうちに?
出発、しませうか。
メルちゃんたち?
忘れ物、ないですよね?
「本当に良いのでしょうか……、この御恩、どう返せば」
「ああ、じゃあ、なんか美味しいもの作ってくれると」
嬉しいな、と。
腐ったバナナ以外でね?
メルちゃんが、めっちゃ恐縮してしまった。
師匠、苦笑してないでフォローして下さいよ?
そういうつもりは、なかったんですよぅ。




