171話 招かれざる、お客さんたち
「敵襲、敵襲ー!!」
怒声と同時に。
周辺一帯が、すんげえ勢いで?
騒がしく、なったんですけど。
「貴様ら、どうやって檻を出た!?」
「お話あとあと! 敵襲って何?」
「知れたことを! 豹人族だ!」
メルちゃんが、言ってる間に。
全身を黄色に黒の、まだら模様の獣毛な獣人さんたちが。
村の防護柵を押し破って、森から入って来る。
「んと。師匠? オレ、加勢していいです?」
「魔法なしじゃぞ」
「はぁい!」
ん、でも。
リル?
檻を破った、精霊刀じゃなく。
鈍器で、よろしく。
《力加減に気をつけてよ? 何でもすぐに壊すんだから》
えええ?
オレ、そんなに粗忽者では。
……あるかもしれない。
と、とりあえずっ。
両腕に、ミスリルの棍棒っ。
えい、やっと。
ずどん!
《……飛んでっちゃったじゃないの》
「獣人さんだから、きっと大丈夫!」
生きてると、信じたいな。
ちょうど目の前に躍り出て来たので。
反射的に、胴体をぶん殴ったら。
軽く、五~六メートルは吹っ飛んで行かれた。
獣人さん。
軽いですねえ?
《人間だったら肋骨粉砕してるわよ、あれ》
「過ぎたことは気にしない!」
ちょっとは気にしなさい、って怒られた。
いや、っていうかー。
侵入者なんだもん?
多少は、手荒に行って良くない?
で。
残りの檻を開放するのを、師匠がやってくれてるので。
そちらは、お任せして。
オレ。
豹人族の集団が侵入して来る?
破られた、柵の方へ。
隣に、メルちゃんも付いて来る。
……。
兎人族の戦士、って。
少ないんだな?
メルちゃんの他に、何人か弓持った兎人がいるけど。
多く見積もっても。
十人くらいしか、人数が居ない。
それも。
全員、若い女性ばかり。
男性って、居ないのかしらん?
そして。
対する、豹人さんたち。
鎧を付けないのが、民族的なアレなんだろうか。
兎人と同じく、局部を申し訳程度に布で覆う程度。
まあ。
獣人で、自前の獣毛があるから。
着込むと、暑いんだろうな。
そちら。
軽く、四十人以上は居るような。
自前で爪や牙を持ってる、関係で?
近接戦闘に、長けてるのか。
兎人と違って、武装している豹人は、居ないぽい。
ただ。
兎人から盛んに弓で、射掛けられてるけど。
夜行性で目がいいのか?
軽々と、爪で叩き落としながら。
兎人を襲うでもなく、村の奥へ向かって走ってく。
「貴様! 豹人を、呼び込んだな!?」
「誤解で六階でございますぅ」
めっちゃぷりぷりしてる、メルちゃんに答えつつ。
唸りを上げて迫る豹人の爪を、軽く躱し。
ずんっ!
カウンター気味に、肩と肘を豹人さんの胸へ。
一撃でぽんぽん空に飛んでくのが?
なんかちょっと、楽しくなってきた。
「メルランディア様! お下がり下さい!」
「聞けん! この娘、逃げる気だぞ!!」
逃げませんよ。
ゴーレム馬車も、荷物も取られちゃってるんだから。
なんかてきとーに?
貢献して、返却して頂きませんとっ。
なので。
豹人さん?
誤解を解くに、ちょうどいいので。
どんどんっ、かもーん!
って。
「いかん! 奴ら、放火したぞ!」
「住民の避難を! 洞窟へ誘導しますわ!」
「頼んだ!」
わぁ。
メルちゃんの。
お付きの人が、言う通り。
ぱっ、と。
真っ赤な火の手が、あちらこちらの家々から。
火の回りが、超早い。
油か何か、使ったんだろな。
建物に向かった豹人の集団。
これが、目的だったか。
ううむ。
用事は終わったのか?
豹人さんたち。
オレらを避けて、どんどん森へ撤退してく。
オレらも。
追撃してる、場合じゃないぽい。
乾燥した木が燃えて、爆ぜる音が村中に響いている。
それに被さるように、女子供の阿鼻叫喚。
むー。
これは。
早いとこ、消火せねばなりませんな?
「えーっと、メルちゃん? 火は消すべきだよね?」
「当たり前だろう! いい加減に、大人しくしろ!」
「あー、はいはい。大人しくしますよ。……オレは」
ミスリルの棍棒を収納して。
適当に、両手挙げつつ。
頼れる妹に。
通信っ。
《こら、ねぼすけ娘。出番だぞー?》
《把握。我、手加減苦手。とりあえず、水を呼ぶ》
……。
どっぱぁぁぁぁぁぁん!!!!
概ね、海の方角から。
巨大な波が、唐突に到達。
燃えてる家々から、生活道具から。
ありとあらゆるものを、押し流して行く。
ウンディ、水の大精霊。
津波を呼ぶのも、お手の物。
とりあえず。
消火、成功ですよね?
「精霊様が、お怒りになられた……」
「やはり、先代の罪にお怒りなのです……!」
あれ?
周囲で。
兎人の女性たちが。
必死で、ヤシの木に掴まりながら。
海の方へ向かって、祈ってる。
って。
ウンディ?
お前、なんか怒ってんの?
兎人さんたち、お前に祈ってるぽいが。
《……安眠妨害。我、とても不機嫌》
だから。
何十時間寝るつもりなんだよ、お前。
そのうち、目が腐るぞ?




