170話 そんじゃ、脱出しませうか
檻生活、二日目。夜。
きぃきぃ。
風に揺れる、檻の中。
熱帯気候で?
割と、蒸し暑い。
オレら精霊や、吸血鬼な師匠は全然平気だけども。
人間の面々は、きついだろうなあ。
そろそろ、出ようかどうしようか。
食料事情、劣悪だったのは?
兎人の子どもたちが、恵んでくれたので改善したけど。
その兎人たちも。
夜行性ではないようで。
今は、森の中で虫の声が響くのみ。
ひっそり、静まり返る村。
そもそもながら。
なんでこんなに、敵意バリバリなのか、と。
時折、檻の下を往復する、メルランディアさん。
略して、メルちゃんに問い質しましたらば。
『貴様らと同じ、人間が豹人を率いて襲ってきたからだ!』
……と。
「ねえ、ロックさん? どう考えても……」
「セラだよなあ」
ロックさん、即答。
ですよねえ。
王都の地下水道から、船で逃げたっぽいんですよね?
「北の山脈を貫く水道があったのも、驚きだけどな」
いやオレらは知ってましたけどね。
……それは遥か、遥かな昔。
オレとウンディが遊びで山に、穴空けた跡だし。
それはともかく。
王国の北には、この島しか生存圏がないわけで。
ここに上陸した、んでせうねー。
で。
セラさん。
と。
地霊殿の、元大司教なデブったおじさん。
が。
──純朴な島の原住民、を。
巧いことだまくらかして。
配下に置いちゃったとか。
そんな感じなんじゃ、ないのかなあ。
などと。
オレとロックさんは。
考えてる、わけですが。
──。
「暑いんですのよ!!」
「ああ、お嬢様には堪えるだろうなあ」
「お風呂を所望します! マーク様は平気なのですか!?」
「そりゃ冒険者なんだし、多少はな」
「あっ、マーク様の体臭、いい匂い……」
「だからって嗅ぐな!? こら、よだれ出てんぞ!?」
……。
あっちは。
もう少しほっとくと?
マークさんの、貞操が危機になりそうだ。
そろそろ、動きますか。
ウンディ?
「我、まだ眠い」
「何十時間寝るんだよお前。昨日から寝っぱなしか」
ウンディは実際、身体はスライムだから。
普通に檻の隙間から、いつでも出れるんだけど。
こうなったら、てこでも動かないのがウンディ。
仕方ない。
別手段で行きますか。
なるべく、穏便に。
……関係ないけど。
ウンディ、抱っこしてるとひんやり気持ちいいんだよな。
水枕みたいで。
そのうち、全身を堪能したいところ。
「??? 我、貞操の危機を覚える悪寒が」
「気のせいだ。じゃ、ここはリルに頼むかな」
ティーマが不満そうな顔してるけど。
まあ、待て。
ティーマ、結構な数の魔法を習得してるんだけども。
精霊力を供給する、オレ自身が。
……魔法の効果、よく分かってなかったりして。
なので。
うっかり?
変な魔法を、発動させてしまうと。
島が。
海に沈んだりしても、知ーらないぞっ。
的な。
《はぁ。それで? リルを、どうする気なのよ?》
《お前、なんか投げやりになってないか?》
《リルの身体を細部隅々まであんなことしといて……》
《風評被害やめて!? 普通に精霊力通しただけよね!?》
リル。
魔力伝導金属の、ミスリル精霊で。
魔力を通して、形状変化するのですけども。
特性が似てる、精霊力でも同じことが出来ます。
……。
なんか?
精霊力って、リルにとっては相当に、濃すぎるらしく。
最初にオレの身体に取り込んだときは。
きゃぁきゃぁ一日中、嬌声上げてたもんなあ。
オレの中で、びくんびくんしてたし。
そんなに嬉しがって貰って、オレも楽しかったが。
一か月も経って、だいぶ慣れた現在。
なんか。
ツンデレが、増したような。
「メテルはもう少し、精霊に優しく在るべきじゃの……」
「師匠までそんなこと言うですかー」
師匠の方も。
檻に手を掛けて、破壊準備に入ってるようで。
では、こちらも。
リル?
いつまでも拗ねてないで。
ほれ。
ちょいと、働きなさいよ。
《リルを思い通りに使えるなんて、思わないでよね!》
口ではそんなこと言いながらも。
身体は、正直だよなあ。
軽く、精霊力を導くと。
はぁんっ、なんて艶めかしい声出しながら。
ちゃんと、オレの思い通りの形を取ってくれる。
にゅりんっ!
オレの左腕から飛び出した、片刃の大刀。
これが、オレの新しい武器。
名付けるなら、精霊刀ってとこかな。
両腕どころか。
全身、至るところに生やせるんだけども。
今のところは、用事は一本で事足りる。
さあ。
脱出、しませうー!




