17話 サラムもオレも、結構人見知りします
「あら、メテルちゃんひとり?」
「あー、シルフィは先に依頼請ける、って」
中央噴水公園で、セラさんと待ち合わせ。
そして。
お互いに、苦笑するしかない。
せっかちなアイツらしいと言えば、そうなんだけど。
「まあね、シルフィちゃんは冒険者並みにもう詳しいから」
「冒険者の手伝いやってたらしいですね」
「荷物持ちとかね。……で、そちらの子も?」
セラさんが小首を傾げた視線の先には。
……オレの後ろに隠れる、サラム。
この子、意外と人見知りするんだよなあ。
誰にでも懐く、大物気質のウンディと真逆の性格。
そのウンディは、親父殿の代わりに留守番してる。
呪符書けるのが、魔法得意なシルフィとウンディだから。
……うーん。
親父殿が帰宅しない理由は不明、なんだけど。
元々この街に住んでたんだし?
貴族区画に向かったんだから、行方不明とも違うし。
明日も帰宅しなかったら、地脈で探してみようかな。
今、なんでやらないかって。
だって、プライベートな用事だったら駄目だろう。
何でも見えるオレだから、そういうのは厳しくしないと。
で。
朝と夕方に二回、街の店舗の人が呪符を買いに来る。
朝は家事で忙しいオレの代わりにシルフィが応対した。
だから。
夕方には、オレが帰宅してないといけないんだ。
「あー、子守というか。夕方までに帰りたいんですが」
「小さな子がいると、大変ね。サラムちゃん、いくつ?」
こら。
人見知りしてないで、ちゃんと答えなさいサラム。
「……サラムー、じゅ、十二歳」
「──え、ほんとに? 八歳くらいかと思ってたわ」
「あー、まあ、ちょっと幼く見えちゃいますよねえ」
こんどはオレが苦笑するしかない。
精霊なせいか、人間と比べて成長が遅いんだよな。
オレらが過保護すぎるせいかも、と思わなくもないが。
だってこんなちびっ子、町中で一人に出来ないだろうっ。
可愛すぎて!
「じゃ、今日は大好きなお姉ちゃんと街巡りね?」
「……うん! サラム、一緒についてく!!」
ちくせぅ、ウチの子かわいい。
目をキラキラさせまくってる妹の手前っ。
──今日は、無様を晒さないようにオレも頑張ろう。
……。
いや。
オレ自身も、結構人見知りするんだ、実は。
家に引き籠もってる理由、そのいち。
と。
そういうわけで。
最初の行き先は、鍛冶屋だった。
……。
我が家の目の前、斜向かいなんですけど。
噴水で待ち合わせた意味って。
「女の身支度は、時間が掛かるのよ?」
単に、噴水公園の近くにセラさんの自宅があるらしい。
あの。
オレも、同じ女の身の上なんですけど?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……フンっ。新人冒険者か。何年ぶりだかのう」
「このぶっきらぼうなおじさんが、刀剣鍛冶のムギリさん」
鍛冶屋に入ったら、黙々と金槌振ってるおじさんがいた。
ひげもじゃで少し背が低い、ずんぐりむっくりな人。
でも、薄汚れた白シャツの内側は筋肉無双。
いかにも職人さん、って感じの出で立ち。
ぺこり。
セラさんに遅れて、軽く目礼しておく。
目礼ちゃんと返してくれるんだよな、ムギリさん。
……半年も毎朝目礼し合ってて、名前初めて知ったけど!
「ムギリさんは武具や防具を売ってくれる専門鍛冶なの」
「あ、それで。街にいくつも鍛冶屋あるけど……」
「冒険者が出入りするのは、ここだけでしょ?」
そういう理由なのよ、とセラさんが言えば納得。
他の鍛冶屋さんじゃ鍋や家具を扱ってるもんな。
正直、ムギリさんが何を作ってるのか、知らなかった。
「めー姉、めー姉、変なのいっぱい!?」
「あー、そうだな、武器防具な。勝手に触っちゃ駄目だぞ」
「サラムいい子触らなーいっ!」
「……なんじゃ、向かいの魔法屋の娘ではないか」
そこで初めてオレが誰か気づいたみたいな、ムギリさん。
……ねえ、なんでオレの顔を直視したら顔逸らすんです?
サラムも。
オレのケツに顔を埋めるな。
そこは隠れ場所じゃないんだから。
「うふ。数年ぶりの新人冒険者。ムギリさん、よろしくね」
「仕方ないのう、面倒じゃが」
ううう。
ぶっきらぼうで面倒がってるムギリさん、ちょっと怖い。
そんなこんなで、オレたちは。
薄暗い店の内部を通って、裏庭に案内された。




