168話 上陸初日、第一島民発見
「やっと、到着ですわね……」
と。
一行を代表して、ユリちゃんが漏らした一言。
それに。
オレらの心情が、全て内包されている、的な。
だって。
「まさか、一か月も海底を旅するなんてな……」
これはロックさん。
馬車から降りて、ひたすら伸びぃぃ、してらっさる。
「そもそも、海底を馬車で走る自体おかしいからな?」
マークさん。
男装冒険者に戻っちゃって、ちょっと残念。
師匠と他の面々は、まだ馬車の中で寝てるかな。
で。
後ろを、振り返ると。
「めーねぇは、我の働きをもっと褒めるべき」
「あー、偉いなー、いい子だなー、可愛いなー」
おざなりすぎる、って怒られた。
いや。
ちゃんと、感謝してるぞウンディ?
海を渡って師匠の本拠地に移動する、って。
精霊大陸に戻ったシルフィに聞いたらしく。
またオレが眠らないように、って。
わざわざ、シルフィと入れ替わりで来てくれたのだ。
何のためにって。
──モーゼの如く。
海を、ぶち割りに。
「精霊ってな、ほんとに人外なんだな……」
「いやいやロックさん。オレ、至って普通の長女です!」
はいはい、って軽く流された。
何故にっ。
……まぁ。
水の大精霊ウンディが。
海を割って、道を作ってくれたので。
後は。
オレが露出した海底を、てきとーに舗装して。
親父殿に借りた、我が家のゴーレム馬車にて。
とっとことー、っと。
不眠不休で、走って来たわけであるっ。
……お刺身や海鮮丼、美味しかったなあ。
海の幸に、感謝感謝っ。
「いえ、そろそろ山の幸が恋しいのですが、私」
「ユリちゃんは割とグルメですね?」
グルメとかではなく、って力説された。
ええー?
美味しいものなら、一か月同じメニューでもいいでしょ?
だめ?
ダメなのか。
いや、全員で全力で頷かなくても。
皆さん?
普通なオレと、違って。
食通なんですねー。
まあ。
そんな感じで。
師匠の本拠地。
暗黒島、到着でございまーす。
……ゴーレムが引いてるとわいえ。
砂浜に、貴族用の馬車が、ででーんと居るって。
なんか、不思議な光景だな。
そして。
いつもの幼女姿な師匠が、馬車から。
遅れて、他の面々も、ぞろぞろと降車して来る。
師匠、めっぽう朝が弱いんだよね。
吸血鬼って、低血圧なのかしら。
朝から元気に吸血が旨い、的な。
いや、師匠が吸血したところ見たことないけども。
おっと。
なんかジト目で睨まれてるので。
そっと、目を逸しておこう。
──目を逸らしたからって。
オレの服の、裾をめくらないで下さいよ。
残念でした。
下は、いつものスパッツでーす。
つまらんとか、言わない。
そもそも、なんでオレ、めくられたんでせうか。
女の子らしい反応の修行?
全力でお断りしておきます。
「さて。儂はここでは、一般人で通すからな?」
「吸血鬼の一般人って、存在するんですか師匠」
「吸血鬼に限らず、ここは獣人など亜人種が大多数じゃ」
む。
獣人、とな?
するってぇと。
アレでございますね?
ええ。
夢の。
キャピキャピうさ耳バニー娘さんたちがっ。
きっと、わんさか!
「……何やら、認識に大きな違いがあるようじゃが……」
がさり。
草陰が、大きく揺れた。
瞬時に。
オレ、マークさん、ロックさんが反応。
師匠たち後衛な女性陣の前に、展開っ。
と。
草陰から、一斉に射出される、矢、矢、矢!?
ちょっ、多すぎ!!??
「ほれ。メテルが所望するから」
「なんでオレのせい!?」
ぱぁん!
ロックさんやマークさんには、見えなかっただろうけど。
師匠の前から膨らんだ、魔力の渦が。
半円のシールド状に展開されて。
飛来する矢を、ことごとく弾いた。
その、草陰から。
がさり、がさりと。
派手に草むらをかき分ける、音と共に。
襲撃者たちが、姿を表す。
……えっ?
「貴様らは領域を犯している! 大人しく、服従せよ!」
勇ましく、高らかに領域侵犯を注意した少女。
背後に、大勢の部下を従え。
両手に油断なく、大弓を構えて。
腰の後ろに、横向きに矢筒。
胸や股間を、申し訳程度に覆った小さな布。
明らかに、現地人の方でいらっしゃいますよね。
ただ。
オレが、ガン見しちゃってるのは。
頭上に、大きな白い耳。
全身のあちこちは、美しい純白の獣毛に覆われ。
顔つきは、獣と人間の、ハーフ的な。
どこからどう見てもっ。
うさ耳、バニーさんだー!?
「言うたじゃろ? 兎人族は基本的に、好戦的じゃよ」
「聞いてないっすー!?」
島上陸、一日目。
オレら、原住民なバニーさんたちに。
囚われちゃったんですけどー?




