165話 執事が最強なんですけど
「うひぃええぇぇ!? ティーマ、防げ!?!?」
《マスター、防御魔法、既に展開しています!?》
ずぶぁぁぁぁ!!
ちょ、ちょぉぉ!?
かすった、かすりましたよ!
翻ったオレの前髪。
その、数本が。
唸りを上げて通過した、セバスさんの大剣に斬られて。
ぱらりと、宙を舞う。
って、いうか!
この人、魔法障壁を斬りましたよ!?
「ほっほっほ。いや、いい切れ味ですな」
普通の剣で、魔法を斬れるわけがない。
間違いなく、魔法剣。
そして。
普通の魔法じゃなく、精霊力ベースの精霊魔法を。
バターみたいに、易々と斬り裂けるなんて。
そんな真似ができる材質の剣なんて。
そうそう、あるもんじゃない。
……大剣の表面が、ぶるり、と揺れた。
「つーか、リル!? お前、何やってくれちゃってんの!」
オレ、びしっとセバスさんが担いだ大剣を指差す。
こころなしか?
大剣自体が、慌ててるというか。
……あ。
なんか、諦め入ってるような風情だぞ?
《お屋敷の力関係で、リルは最底辺なのよ……》
脳裏に伝わる、リルの愚痴。
やっぱりか。
セバスさんの大剣をぴったり覆ってる、蒼銀。
魔力伝導金属、ミスリル製ですのことね!
「おや、種がバレましたか。如何致しますかな?」
「速攻ッ!」
ティーマの防御魔法が、役に立たなくなったからって!
オレ自身は、金属で傷つかない地の権能あるんだから!
大剣なんか、怖く、ない……ッッッ!?
ごぉん!!
横殴りの、一撃。
つか、いつ剣振った!?
精霊のオレの、視力で捉えられない速さとか!
横っ腹に受けた剣戟を、なんとか左のチタンで受け……。
ちょっとちょっと、ちょっとぉぉぉ!?
チタン、曲がってんですけどぉぉぉ!?!?
「粘りはありますが、柔らかいですな」
「うっそだろぉぉ!?」
ミスリルが、魔導金属だからって。
強度的に鋼鉄より硬い、チタンをひん曲げるとか。
セバスさん、どんだけ剣に魔力込めちゃってんの?
考えてる間に、返す大剣が、もう一撃!
って、くっそ重てぇぇ!
あのっ。
懐に、入れないんですけどー!!
「いやいや。若い頃のようには行きませんな」
「若い頃って、どんだけの化け物だったの……」
大剣の一撃を交差した両腕のチタンで受けて。
ついでに、自分の跳躍を足して、飛び退る。
って。
考える暇もくれないよぅ。
そんな全身甲冑で、なんっつー踏み込みの速さ!
「ティーマ! 加速してくれ!」
《《身体》、《風圧》、《加護》、【移動加速】!》
自分自身になら、いいんだよねっ。
風の精霊魔法、【移動加速】!
元々でも精霊のオレ、更に魔法で加速して。
これなら、セバスさんも反応不能……。
な。
はず、だったのに。
「気配も消しませんと。非常に解りやすいですな」
がぁんっ!
渾身の力で叩きつけた左腕が。
『既にそこにあった』大剣に、簡単に防がれる。
なんで、こっちが振り終わる前に狙いが分かるの!?
「剣気も派手ですなあ。いや失礼、棍棒気というか」
「くぅぅ、どちくせぅー!」
頭、肩、胴体、足!
連続の四連撃さえ、軽く振ってる風の大剣で防がれる。
その合間にも、オレに向かって拳や肘、蹴りを入れて。
う、うええぇぇん!
全然、当たらねぇぇぇぇ!
「さて。身体も温まって参りましたし。そろそろ本気で?」
「まだ本気じゃなかったんですかい!?」
セバスさん。
にっこり。
いつもの、好々爺な笑み。
……なんか。
死刑宣告に、見えたんですけど。
と。
片腕に持った大剣の。
柄に、もう片方の手を添えた。
と、思ったら。
「速ぇ! ティーマ、予測!」
《パターン解析不能、軌道予測不能!》
ごんっ!!!
……。
「おや? 凄い技ですね。もう一度、やってみても?」
「ぜったい、やだぁぁぁ!?」
オレの側頭部に直撃した、大剣。
魔法障壁とか、防御態勢とか何の意味もなし。
その、一撃の勢いで。
オレ。
その場で、一回転しましたよ。
お腹ら辺を軸に、横方向に。
い、今、何があったんでしょうか的な。
……セバスさん?
金属で、オレが傷つかないって。
知ってて、やってますね?
一応。
服を切り刻まないのは、優しさなんだろうけど。
全撃が、顔面や腕に向かって来るのは。
かーなーり、怖いんですけどぉぉ!!
こ、これはっ。
か、勝てる手段がない?
なので。
時間切れまで、逃げ回るが吉でわっ!?
と、そんなときに。
助けが、入りましたとも!
《苦戦しとるようじゃの? 儂の助けが、欲しいかえ?》
もちのろんでございます、師匠ー!!!!




