163話 マミちゃんの、大健闘
「胸を借りるとは言いません。勝ちますよ、サラ!」
「負けないもんね!」
試合開始直後の、二人の台詞。
まさに、その通りの試合運び。
瞬速の接近戦で押すサラムと。
肉を切らせて骨を断つ、マミちゃん。
開始、五分で。
マミちゃん、あっという間に傷だらけ。
「降参しなよ、マミ!」
「それは出来ない相談です!」
……。
なんでいきなり、降伏勧告?
って。
ああ。
斬ってるサラムの方が、痛そうにしてる。
そうだよな、親友なんだもんな。
手加減は出来ないけど、斬り刻みたくもない。
武人同士って、複雑だなあ。
試合自体は。
もう、素人でも丸わかり。
明らかに、マミちゃんの分が悪い。
変幻自在に、瞬間移動じみた動き方をするサラム。
オレらは精霊だから、目が追いつくけど。
マミちゃんの方は、殆ど避けられてない。
けども。
避けられないからこそ。
自分に攻撃が当たる、その瞬間を狙って。
カウンターを取って。
傷を受けながら、そのまま倍返し。
そんな、むちゃくちゃな戦い方。
何ていうんだっけ、ああいうの。
ノーガード戦法というか。
両手ぶらりというか。
うわっ。
今の、骨逝ったのでわ?
マミちゃん、全身にどんどん傷が増えていく。
鮮血が、武舞台に飛び散りまくり。
見ていられない。
けど。
マミちゃん、まだ一度もティーマの指輪を使ってない。
目も、闘志が光ってる。
あれは、まだ何も諦めてない目だ。
そんな、マミちゃんが。
びっ!
と。
右腕一本で構えた宝剣を、サラムに向けて。
──左腕は、どうやら骨折したらしい。
だらりと垂れ下がった腕から、鮮血が滴っている。
その、宝剣を向けられたサラム。
オレが贈った、大小二刀を両手に。
戸惑ったように、マミちゃんを見つめている。
「サラ! 最後にしましょう。全力で、行きます!」
「……っ! わ、わかった!!」
右肩に、宝剣を担ぐようにしたマミちゃん。
左腕、激痛だろうに。
満身創痍の体で、サラムに向かって走り出す。
お世辞にも、速いとは言えない。
バランスも崩れて、前傾姿勢というよりも。
もう、転びそうなくらいの足運び。
対するサラムは。
……戸惑ってんなあ。
どう対処しようか、考えてる感じがする。
そのサラムが、取った対処は。
距離のあるうちに、ってか?
目の前で交差させた二刀を、構えて。
その二刀が、真っ白に輝く。
渦巻く、精霊力……。
──精霊魔法だ!
……はっ。
マミちゃん、言ってたっけ。
ええと。
一発だけ、防ぐことが出来る……、って。
マミちゃんの口元に、浮かんだ笑み。
その理由が分かるのは。
たぶん?
オレと。
……どこかで見てるはずの、セバスさんだけ。
「マミ、終わりだよ!」
「サラ、終わりません!」
ごふぅぅぁぁぁぁああああ!!!
オレの居る貴族席まで、届く熱風。
サラムの権能は、焔。
瞬時に、マミちゃんの全身が、真っ赤な炎に包まれる。
誰もが、息を飲んだ。
あの勢いでは。
中の人間は、ほぼ戦闘不能。
むしろ。
早く、助け出さないと。
そう、みんなが思ったに違いない。
当の、サラムでさえ。
きっと。
──。
「へ? う、わぁ!?!?」
「……油断大敵、ですよ。サラ」
がぃぃいいん!!
焼け焦げた全身の、マミちゃんが。
炎を、突き抜けて。
……宝剣で。
サラムの構えた二刀を、弾き飛ばしていた。
なんと、まあ。
マミちゃん。
防御に使うんじゃ、なかったの?
たった一度だけの、ティーマの指輪。
それを。
最後の一撃の、加速に使ったみたい。
あれは。
アネモイ直伝、風の加速魔法か!
ぶはぁぁぁ。
オレ、安堵して、息を吐く。
その場にへたり込んだ、サラムを。
にっこりと笑った、マミちゃんが見下ろしている。
周囲から、慌てた様子の救護班たちが、舞台の上へ。
マミちゃん、髪から体から、まだ燃えてんだもん。
熱くないのかね?
全身、大やけどだと思うんだけど。
……サラムが、本気だったら。
マミちゃん、今頃、消し炭に変わってたはずだ。
何というか。
きっと、信じてたんだろうな、と。
自分を、焼き焦がすことはしないと。
うわー。
なんて言ったらいいか、解らんけど。
女の子同士の友情って。
そして、武人同士の戦いって。
とても凄いなあ、みたいな。
──つまり。
『マミーヤ選手、勝利です!!』
大番狂わせ。
シード選手の、サラム。
最初の試合で、敗北。
決勝に進むのは……。
マミちゃんだ!




