16話 消えた親父殿
「うっわ、おねーちゃん……、か……、かっこいい!」
「我、めー姉の美貌に絶句」
「ボクの姉様、びじょうしょー!」
三人で褒め称えないで欲しい。
ちょっと、所在なくなってしまう。
そしてサラム。
びじょうしょじゃなくて美少女な。
舌っ足らずも可愛いぞ。
「てか。じ、じろじろ見んな」
さすがに、往来で姉妹にも注目されるのは恥ずかしいわ。
で。
日は少し傾いて、昼過ぎ。
昼食には遅いし、間食したら妹たちが眠るの確実。
では、どうしようか?
「夕方も近いな。市場、寄って帰るか」
「あ、うんっ。って言っても、豆スープだけどねー」
「それは言うなっ。みんな、貧乏が悪いんだっ」
明日からうーんと稼ぐねっ!
とか気合入れてるシルフィが微笑ましいが。
──お前も浪費してる原因のひとりなんだぞ?
とは、言わないでおこうか。
べっ、別に、服買う機会が出来て、嬉しかったとかでは。
……ない、はずだ。
た、たぶん。
「あ、こら。ウンディ、サラムー? 走ると転ぶぞ」
「「きゃー、あははは!」」
店員さんに遊んで貰ったからか?
元気いっぱいで可愛いぞ。
アタマの猫耳が揺らぐ様子は、それだけでご飯が進む。
ウチの子、可愛いっ!
と。
遠く、往来の先の道へ、見知った後ろ姿が見える。
「……あれ?」
「……ね、ねねね? めーちゃん、あれ」
シルフィと、顔を見合わせ。
頷くしか、ないよな?
どう見てもあれ、親父殿だ。
すっぽりフード被ってはいるけど。
あの微妙に猫背で軽く蛇行する頼りない足取り。
間違いないだろう。
ただ。
疑問しかないんだが。
「なんなんなんで、あんなとこに?」
「なんか、知ってるか?」
「知ってるって言えばばばっ、知ってるけど」
シルフィの怪訝そうな、回答。
オレもそれを聞いて、首を傾げる。
しがない魔法屋、なんだよな親父殿?
……その道の先は、貴族街。
領主とその家臣の一族が住んでる区画。
平民のオレらには、関係しようがないはずだぞ?
「ねねね、ねぇ、めーちゃん?」
「却下。夕飯の買い出しが優先」
「えー。めーちゃんけちぃー」
「やかましい。なんか依頼かもしれないだろ」
仕事中なら、邪魔するのは本意じゃない。
半年も一緒に住んでるけど。
親父殿が店の外に出歩くのは、とても珍しい。
が。
服を頼んで貰った恩、オレは忘れない。
う、嬉しかったからじゃ、ないんだからねっ。
……まあ。
何の用事かは、夕飯時に話してくれるだろ。
隠し事じゃなけりゃ。
いや、押しかけ姉妹だから、隠し事あってもいいけど。
そう、思ってはいたんだが。
「めーちゃん、お腹すいたぁ……」
「……しょーがねえな。先に、食うか」
「「いただきまぁす!!」」
一応、夕飯は全員揃ってから。
そういうルールがあったんだけど。
親父殿はその日、とうとう帰宅しなかった。




