159話 対戦相手が、ケタ違いすぎた
がががぁぁぁん、どかぁぁぁんんん。
……来るなら、来る前になんか連絡しろよ。
天空から雷鳴のように響き渡る、破裂音。
間違うはずもない。
──風の大精霊、シルフィが音速を超えた衝撃波。
天井の半分が半円状に開いた、コロッセウムの上から。
シルフィが、暴風を伴って会場に降ってきた。
……約三年ぶり? なんだけど。
姿かたち、全然変わってねえ。
いや、それ言ったらオレもなんだけどね。
『公爵家の次女、シルフィ様でした! 皆さん拍手を!!』
わーっ。
パチパチパチ。
なんか、例年定番の催しだったみたいで。
アナウンスと共に、周囲から歓声が沸き起こる。
その、当のシルフィ。
ふよふよと、浮かんだまま。
観客席を、軽々と飛び越えて。
貴族席で着座してる、オレの隣に、着地。
「おはおはおは、おっはよーう、めーちゃんっ!」
「いや、起きてから結構経ってんだぞ、オレ?」
「細かい細かい細かいことはっ、気にしなーい!」
相変わらずの、けたたましさ。
まあ。
こうでなきゃ、オレの最愛の妹じゃねえか。
親父殿と、ぎゅーっと抱き合うのを横目に。
シルフィが座る席を、ささっと払う。
その椅子の背を、軽々と飛び越えて。
ぽんっと身軽に座るシルフィ。
……なんか、ご機嫌だな?
「だってだって、起きてるめーちゃん久しぶりだし!」
「じゃあ、オレとも抱き合うか?」
「んー、指わきわきはなしね?」
しねえよ、オレを何だと思ってんだ。
飛び込むように抱きついてくるシルフィを、受け止め。
……。
「薄いなあ……」
「何がでしょうか、お姉様?」
「いや、なんでもない」
肋骨が当たって痛かったとか、言わないでおこう。
で。
「カイルや他の子はどうした?」
「カイルくんは、あっちでいろいろいろいろ大変なのー」
へえ?
なんか、街が大きくなって?
ちょっとした、都市国家みたいな規模になったんで。
代官的な役職についてて、離れられなくなってるって。
それはなんか、興味あるな。
いっぺん、見に行きたいところ。
それで?
子どもたちも、大きくなったんじゃないか?
「なったよー! っていうかー、あそこに居るのののっ」
は?
って、勢い良くシルフィが指差した、先。
本戦用に、ふたつの台に作り変えられた会場。
その、片方に。
シルフィと瓜二つの、緑髪の娘が立っていた。
いや、シルフィより若干小さいか?
昔のサラムと同じくらい、かもしれん。
オレたちの姿に気づいて?
照れ笑いしながら、小さく手を振ってる。
「え? あれ、もしかしてアネモイか?」
「そうそうそうっ。さーちゃんに憧れて剣士になったのー」
アネモイは、確かシルフィの長女。
次女のヴァーユと一緒に、オレの精霊力を吸ってたな。
子どもたち五人の中で、長女と次女が成長著しかった。
「ヴァーユも来てるけど、あの子白魔道士タイプだから」
「あ、ほんとだ。セコンドについてるな」
って。
負傷の緊急時に備えて?
各戦闘台の下に、治癒術士が待機してるんだけど。
アネモイが立ってる台の下に、ヴァーユが居るのはいい。
姉妹だしな。
双子みたいに、アネモイとそっくりだなあ。
シルフィと並んだら、三姉妹に見えるかもしれん。
それは、ともかく。
隣の台。
よく見なくても、すぐ分かる。
白ローブに金糸をあしらった豪華な衣装。
しゃなり、と煌めく音を立てる、錫杖。
……大地母神の大神官にして、大司教の証。
ラスティ?
なんでおまえ、そこに居るかな?
治癒術士なのは、知ってるけど。
お前、神殿でいちばん偉い人だろう。
オレと同じく、普通なら席で見守る立場だろうが。
そして。
なんでオレに、延々拝礼してんだよ。
審判さんや選手さんたち、困惑してんじゃねえか。
軽く手を振ったら、立ち上がったけど。
試合そっちのけで、オレを見てる。
これは、後で会って話しないとダメかなあ?
そして。
アネモイが居る台に、登場した相手。
そこで、びっくりしてしまう。
え、そういう組み合わせ?
だって。
そこに現れたのは、マミちゃん。
……やっべ。
セバスさん直々に鍛え上げられた、剣士だから。
そこら辺の相手なら、苦戦しないと思ってたけど。
アネモイ、あれでも精霊だから。
持久力の限界が、たぶんない。
スタミナが弱点な、マミちゃんの天敵になり得る。
反応速度も、地力が桁違いだし。
「てか。精霊が出るって反則なんじゃないのか……?」
「でもでも、さーちゃんも三年前から出てるしー?」
う。
それもそうか。
ていうか、現剣聖の、カイオンさん。
大精霊なサラムより、強いんだもんな。
あと、セバスさんもか。
しかし。
マミちゃんが勝てるかどうか。
これは、判らなくなって来たな。
ううむ。
オレは、ここからじゃもう、手伝えないけど。
が、がんばれマミちゃん!?




