157話 剣技大会、開催
「ああ、怖いです……、緊張してしまいます」
青い顔で、ぶるぶる震えまくってるマミちゃん。
ここは、コロッセウムの選手控室。
今日は、剣技大会当日。
──今から、大会予選。
予選参加者、32人。
問答無用の、バトルロイヤルが始まる。
幸い、というか。
サラムは前回大会の、覇者なので。
予選免除で、シード権がある。
だから。
マミちゃんは、本戦まではサラムと当たらない。
逆に言うと。
準決勝まで進まないと、サラムとは戦えないということ。
サラム、今なにしてるか?
普通に、迷宮に行っちゃったらしい。
ユリちゃんたちが、誘導してったのもあるけども。
マミちゃんが出てるの、サラムにはまだ内緒だからな。
《マスター、準備は万端です》
「うむ。じゃ、頼んだぜティーマ」
軽く指輪に口付けして、震えてるマミちゃんの手元へ。
ぱたぱたと羽ばたくティーマ。
マミちゃんの頭の周囲をくるくると、回っている。
けど、マミちゃんには見えてないんだよね。
まあ。
ティーマの防御力は、強力だから。
魔法の直撃を食らうことは、まずないと思うよ。
ついでに。
マミちゃんを、後ろから、ぎゅーっと。
「!?」
「だいじょぶ、だいじょーぶ。必ず勝ち抜けるから」
「そ、そうでしょうか? 不安で不安で」
「いやいや。だって、セバスさんより強い人、居ないし」
「──! そ、そうですよね?」
「あれより強いのがごろごろ居たら、王国滅ぶから」
ぶんぶんっ、と首肯するマミちゃん。
……。
なんか、別の意味で別の震えが来てるような。
あの。
マジで、修行中、どんな目に遭ったの君?
「あの修行を生き残れたんです。少しは、自信を持てます」
「どんな修羅場だったんだよ」
あっ。
目が、死んでいらっしゃる。
あの爺さん。
剣を持ったら、性格ほんとに変わるからな。
そんな、こんなで。
予選、開始。
選手登録してない、オレは中に入れないので。
観客席から、見守ってるからね?
「必ずや、ご期待に添えるよう!」
「マミちゃんなら出来るって」
軽く、額にキス。
……こら、ティーマ。
嫉妬すんな。
おまじないみたいなもんだっての。
──。
両手で額を押さえて、真っ赤っかのマミちゃん。
勝ち抜けたら、もっかいしてあげるからね?
「全力を尽くします!!」
震えは、止まったみたいだけど。
早まったかな?
目が。
ラスティとか、リズとか。
オレの信者と同じ。
ねっとりしてた、気がしたんですけども。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あれ、珍しい。親父殿、観戦するの?」
「緊急事態対応のために待機しているんですよ」
王族や貴族が観戦する専用の、貴賓席。
一般の観客席の上、王族席の下。
俗に言う、二階席ってやつ。
そこの、カーテンに隠れるように。
愛用の、黒曜石の杖を持った親父殿が、居た。
……サラムが以前、やらかしたらしく。
会場を半壊させた前例から。
親父殿が、待機するように厳命されてんだって。
サラム、お前何やってんだよ、オレが寝てる間に。
で。
周囲には、観劇してる貴族たちがいっぱい。
なんか、爵位ごとに段差があるみたい。
オレらは公爵家だから、いちばん上の最後方。
家族、人数分の席が空いてる。
ので。
親父殿が、立ち見する必要なんかない、筈なんだけど。
……目立っちゃうの?
ああ。
一応、黒の大賢者で有名人だから。
いい意味でも、悪い意味でも。
普通に席に座ると、注目の的になってしまうと。
「有名人って、大変ですねー」
「メテルさんに言われるとは」
苦笑された。
え、なんで?
オレ、至って普通ですけど。
……。
あるぇ?
予選、始まってますのことよ?
一般観衆から、貴族から。
なんで、オレをガン見してらっしゃいます?
「あれが公爵家の長女……」
「なんと美しい……」
「お父様、私、学園で同級生なんですよ!」
「何としても友誼を結ぶのだぞ、娘よ!」
……。
あの。
皆さん、観戦しましょうよ?
オレのことは、置いといて。
オレ、ほんっとーに、ごく普通の長女ですからね?
期待しても?
何も出ないよ?
……くすくす、忍び笑いしないで下さいよ、親父殿。
もう。
ところで。
御母君は、救護班で下に居るんですよね。
ハクラさんたち、王宮薬師さんたちと一緒に。
リルは、どこへ?
「エリザベータ殿下の護衛で、王族席へ行ってますよ」
「ほえ? ああ。専属護衛のカイオンさんが出るからか」
ちらり。
手を額に翳して、上の席を見上げる。
王族席。
国王陛下な叔父上と、第一王女殿下なリズが。
並んで、座っている。
オレが控室に行ってる間に、開催宣言とかしてたもんな。
オレの姿に気づいたリズが、軽く手を振ってくれた。
その、横に。
澄まし顔で立ってる、リルが居る。
……こら。
舌出してんじゃねえよ。
今日の主役は、オレじゃないんだからな。
そこで、大人しく。
マミちゃんの大活躍を、刮目して見るが良いっ。
「凄いですね、あの子。タタール男爵の娘さんですか」
「うんうんっ。セバスさんが鍛えたんだよ!」
親父殿の声に、答えながら。
マミちゃんの姿を、探す。
……いた。
結構な広さの、武闘台。
正方形の石台に、32人。
バトルロイヤルな、無秩序の戦場。
その中を、素早い動きで駆け巡るマミちゃん。
どうやら?
女性の予選出場者は、マミちゃんだけ。
一際小柄で、軽装備なマミちゃん。
重装備、全身鎧な参加者の中で。
素早い動きが目立ってる。
なんか、早くもファンを獲得しつつあるみたいで。
マミちゃんが相手を落とすたびに?
大歓声が、上がってる。
ルールは、簡単。
本戦出場枠は、八人。
だから。
残り人数が八人になるまで、石台の上に立ってればいい。
「目がいいんですね。魔法詠唱を、上手く狙っている」
「そこら辺は、セバスさんの教えじゃないかなあ」
親父殿の言う通り。
マミちゃんも、多少は魔法を使える筈だけど。
敢えて、温存して。
大乱戦の中で。
端に寄って攻撃魔法を唱えようとした、敵を。
的確に、足場の下へと突き落としている。
石台の周囲は、水が満たされた堀。
さして深さはないけど。
次々に水しぶきが上がり、そのたびに観客席が湧く。
誰が生き残るか、賭けが進行中らしい。
胴元らしき人が観客席の前で、選手や客を煽ってる。
しまったな。
マミちゃんに、全賭けしとけば良かった。
そんなこんなで。
マミちゃん、危なげなく。
予選、突破しましたとさ。




