156話 ユリちゃんの婿殿を、観察した
ちょっと説明回風味です。
「ほぉほぉ。アレがユリちゃんの」
「こらっ、覗き見しないの」
「ぜってーバレねえよ」
合流したリルから、早速怒られる。
師匠にスカートめくられる対策で、パンツルック。
王宮内の女性でパンツルックって、超珍しいようで。
注目されるのが恥ずかしいのか、オレの陰に隠れまくり。
で。
そのリルの肩を抱いて、叔父上の私室に移動する途中。
オレ、地脈視点で?
ユリちゃんの婿候補、という。
小国の王子様を、覗き見しとるわけですが。
……。
あの。
結婚相手というか。
婚約中、なんですよね?
地脈視点中、オレ、まっすぐ歩けないので。
リルに肩を借りてるわけだが。
その、リルが。
オレを見上げて、怪訝そうに。
「どうしたのよ? そんなに予想外だったの?」
「ああ、予想外というか。何というか、衝撃的というか」
リル、めっちゃ興味持ったみたいで。
ええと。
リルに精霊力流せば、視点共有できるかな?
どれどれ。
「きゃんっ!? ふあっ、こ、濃すぎ……」
「あ、そうか。魔力より密度が高いからか」
コスギといえば忍者。
ではなく。
ちょうど叔父上の私室に到着。
応接間に、通される。
急に来たからか?
叔父上付きの、メイドさんたち。
少し慌てた様子で、せかせかと。
急いで、お茶の準備を始めてくれている。
普通は先触れとか、使者を送って準備を待つんだよね。
ご、ごめんね?
オレらも、並んで腰掛けたので。
とりあえず、話を聞かない騎士にぶつかったり?
転んだりする心配は、なくなったので。
この間に。
リルと、この視点の先について話をしよう。
……ついでに、精霊通信も開通しておくか。
内緒話、ないしょないしょー。
《で、見た感じ。どう思う?》
《え、ほんとに? って、なんだか変な感じだわ、この声》
《慣れろ。骨伝導みたいなもんだ》
空気を震わせないので、声が違って聞こえてるらしい。
実際?
リルの首肩に回した、オレの腕から伝わってるからな。
地脈を通した声だと、更に変わるらしいが。
オレら精霊姉妹、もともと声を持ってなかったから。
あまり、違いが分からないんだよなー。
それはともかく。
本題だよ、本題。
《どう見ても……、幼児よね、あの子》
《だろ? 四歳か、五歳くらいかねえ?》
そうなのだ。
貴賓室らしき、豪華な一室で。
一心不乱に積み木を組み立ててる。
幼児には似つかわしくない、豪華な服を着た男の子。
あれが、王国に公式来訪中の。
小国の王子様……、らしい。
幼い王子ということで?
周囲は、女性の騎士や侍女が多く配置されてるぽい。
王国の鎧や服と、意匠がかなり違うので。
あれは、小国から随行して来た人員なんだろう。
あの子。
ユリちゃんの、結婚相手らしいが。
王族との婚姻で、玉の輿とは言っても。
──ユリちゃんが嫌がる気持ちが、分かるというか。
もう少し年齢を重ねれば、気にならなくなるかもだけど。
……いくらなんでも?
高校生くらいのユリちゃんと、幼児の結婚は酷いわな。
だから?
マークさんを雇って。
恋愛中の相手が既に居る、なんて風を装って。
……婚約破棄を、目指してるのかなあ?
具体的な最終目標は、聞かなかったけども。
て、いうか。
あの子の方は、結婚の意味を理解しているのだろうか。
《あれでも王族、そこらの幼児よりは賢しいぞえ》
!?
きょろ、きょろっ。
幼児姿に戻って、対面に座ってる師匠。
にやり、と。
口の端を上げて、優雅に紅茶をすすりながら。
オレとリルの方に、視線を向けて来てた。
《え、精霊通信に割り込めちゃうの? 師匠凄くね?》
《精神波のようなものを感知したからの》
セキュリティがばがばじゃな、って笑われた。
いや、セキュリティ云々っていうか。
普通の人間って、精霊力を殆ど感知できないから。
これで、困ったことなかったんだよな。
なんか、対策を考える必要が?
……。
オレじゃ無理だ。
そのうち、シルフィかウンディを呼ぼう。
専門家さん、だしっ。
そして。
《師匠? なんか、王子のことよく知ってる感じですね?》
《まあ、あの子の来訪に合わせて来たのもあるからの》
ほえ?
って。
なんと。
小国の、王子くん。
師匠の、遠縁に当たるそうで。
《数百年も前に分かれた血じゃが、孫は可愛いからのう》
にこにこ。
幼女が幼児を可愛い、と笑ってる様子は。
こう、どう反応していいものか。
って、いうか。
え、マジで?
《師匠? ご結婚、されておられますのこと?》
《旦那は島に残して来た。いずれ紹介してやろうぞ》
意外。
旦那さんのことを話す師匠。
めっちゃ、笑みが可愛いというか。
惚気まくりたいのを、堪えている的な。
うわー。
微笑ましいー。
夫婦仲、きっといいんだろうな。
そして。
《どうやって産んだんだろう……》
《この姿は魔力消耗を抑えるための、仮のものじゃぞ》
苦笑されたし。
ああ。
本来の姿は、練兵場で見た妙齢の女性なんですね。
それにしたって、四千歳だっけ?
その年齢から考えれば。
異種族なのを考えても、相当な若作りですね?
《儂の数十倍の齢を重ねた精霊に言われてもな》
それもそうか。
まあ、オレらの場合は。
仮の姿というか、本質は姿がないからなー。
と。
お茶会の準備が整ったらしく。
窓の外、テラスに案内されたので。
さあ。
叔父上と、師匠が語る、親父殿の真実。
楽しみに、お聞かせ頂こうー!




