154話 リズが合流してしまうなど
「王都観光で、リズを呼ばないのは手落ちでしょう!」
「どこの世界に、下町に詳しい第一王女がいるんだよ」
ていうか。
どこから情報嗅ぎつけて来たんだか。
甘味処でケーキと紅茶してたら。
さり気なく、リズが相席して来た。
……君、また公務抜け出してんじゃないの?
大丈夫?
なんか?
あまりにも、婿が見つからないので。
女王に据える前提で、帝王学教育が始まってるとか。
「もう、外交関係から軍事から、覚えることたくさんで」
全力で、逃げたい。
とか。
リズ、しみじみ呟いてるけど。
ちらり、と視線を脇に向ければ。
給仕っぽい衣装で変装した護衛さんたちが。
全力で、首を横に振っていた。
相変わらず、帯剣してるのが面白おかしい。
実は隠れる気ないんじゃないんだろうか、護衛さん。
いや、まあ。
忠誠心全開の、護衛さんたち。
リズが国を出奔しても。
きっと、確実にリズを追って一緒に出てくんだろうけど。
──ぜったい、他所で騒動巻き起こしまくるんだろうな。
意外と。
行動力が侮れないからな、リズって。
「こちらの見目麗しきご令嬢に、紹介頂けんのかな?」
「あ、そうか。リズ? こちら、オレの師匠でカリスさん」
……だから、師匠。
名乗りからの、ででーん、はお約束なんですかね?
リズも。
ぱちぱちと、手を叩いて喜ばない。
この人。
いや人じゃなく吸血鬼だけど。
ぜったい、図に乗るんだから。
……あれ?
師匠?
あなた、吸血鬼ですよね?
血は飲まなくて、いいんですか?
「なに、メテルの破瓜の血を飲ませてくれるとうぐぐぐぐ」
いきなり何口走ってんだよアンタ。
久々の、アイアンクロー発動。
ほれみろ。
回りの女の子たち。
めっちゃ、赤面してんじゃねーか。
どうすんだ、このどうしようもない空気。
「儂くらいになると、一滴の血で数か月は持つからの」
からから。
笑いながら、師匠。
ショートケーキをぱくり。
え?
あれ?
オレの手の先に居るのは、じゃあ誰なのこれ?
「血流魔法の分身じゃ。黒とも精霊とも違う技法じゃの」
「ぉぉぉ! 師匠、マジで魔法の達人なんですね!」
何だと思って弟子入りしたのじゃ、と問われ。
いや。
強いて言えば。
……親父殿の紹介、なので。
多少無茶苦茶しても、きっと止めてくれる人かな、と。
「儂とて、大自然相手に無理を効かせるほどはないぞえ?」
「いやきっと、師匠なら大丈夫!」
無根拠だけど。
と。
そんなこんなで、話し込んでたら。
お昼過ぎになりまして。
ユリちゃん、シグヌイちゃん。
それぞれ、ご実家関係の用事がある、ということで。
いったん、ここでお別れー。
またねー。
……で。
「リズ? お前、ほんとに帰らなくて大丈夫なんだろな?」
「あ、帰りますけど。どうせですから、ご一緒に?」
何が、どうせなんだと。
思ったら。
ああ。
師匠、観光で王都巡ってんだもんな。
滅多に見られない、王宮の内部。
観光に、ご案内しましょうか、と来た。
「それは願ってもないが。立場上、大丈夫かえ?」
「ええと。破壊工作行為など致しませんでしたら」
平気かと。
って、リズ。
ずいぶん、セキュリティゆるゆるだなオイ。
護衛さん?
リズの言ってること、ほんとに大丈夫?
……渋面してる。
たぶん、ほんとはダメなんだろな。
まあ。
なんか、不味くなったら。
適当に、オレが連れ出せばいいか。
一応。
自覚はとっても薄いけど。
オレも、王妹ホリィ殿下、御母君の愛娘。
公爵家、令嬢なんだからねっ。
では。
リズの馬車に、相乗りで。
王宮に、向かいませうかー。
──師匠?
ここはテイクアウトじゃないので。
早く、残り食べて下さいよ。
「あとこれだけ、これだけは!」
「目移りするからって片っ端から注文するからですよ……」
結局。
無理言って、残ったケーキ全部包んで貰いましたとさ。
いっそ。
砂糖水を静脈注射したら早いんじゃねえのか。
そんな風に思ってしまう、オレであった。まる。




