152話 オレ、弟子入りすることになった
「敬語は要らんと言うで、タメ口で行くが」
はむはむ、もぐもぐ。
──小さな口で、ちまちまと。
しかしながら、猛烈な勢いで。
甘味を口に運ぶ、カリスさん。
……なんだかハムスターに見えて来たのは、気のせいか?
殆ど使用されない、学園の食堂。
長テーブルの上に。
カリスさんが注文した甘味が、てんこ盛り。
大量に血を吐いたので、エネルギー補給、と。
その理由は、理解しますけども。
──見てるだけで、胸焼けがして来る。
食事が不要なリルは、涼しい顔してるけど。
ルコア先生、あからさまにうぇぇ、って舌出してますね。
カリスさん?
これ全部、ひとりで食べるんですか。
で。
「そこな大精霊、メテルは黒魔法を習得したいと聞いた」
「あ、オレ? そうなんだけどー、禁止されてるので」
ちらり。
答えながら。
カリスさんの後ろに控える、親父殿の顔を。
……苦笑してますね。
ご、ごめんよ?
オレも、初心者すぎて手加減出来ないんだよぅ。
ティーマに発動を任せると言っても。
制御自体は、オレがやらないとダメだし。
ティーマが全部、制御すると?
ティーマ自身が小さすぎて、流出量が全然足りない。
オレが撃つと、今度は元の出力がデカすぎて。
《至らず、申し訳ありませんマスター》
「いやティーマは悪くないから」
よしよし。
指で軽く、小さな頭を撫で撫で。
あれ、ティーマ?
お前、マミちゃんについてないとダメなのでわ?
《昨晩から、マミーヤ様とはお会いしておりません》
「あ。オレが持ったままだからだ。後で渡しに行かないと」
カリスさんの置き手紙で、すっかり忘れていた。
マミちゃん、生徒会にまだ居るかな?
と。
カリスさんの目が、点に。
なんか、オレ、ガン見されてるんですけど。
何か、しましたかね?
「それは、妖精かの? いや、何千年ぶりに見たことか」
「え? カリスさん、ティーマの姿、見えてますのこと?」
見えてるらしい。
首が落ちる勢いで、がっくんがっくん首肯してらっさる。
ほええ。
吸血鬼だっけ?
すげえな、種族特性なのかな?
そういえば。
精霊大陸の、エルフやドワーフもティーマは見えてたな。
もしかして。
人間以外の、亜人種は妖精が見えるのかしら?
「むしろ、見えんのは人間だけじゃろ」
「そりゃまた、なんで?」
「人間の持つ魔力量が、低すぎる故じゃな」
此奴は例外じゃが、と。
後ろの親父殿を、軽く親指で示すカリスさん。
まあ、確かに。
並んで立ってる、ルコア先生には見えてないもんな。
「そこでじゃ。メテルや、儂の元で修行してはどうかな?」
「ほえ? うぅっと、願ったり、ではあるんだけど」
ああ、そうか。
親父殿とルコア先生の、師匠だもんな。
黒魔法の、エキスパートって感じか。
むしろ、親父殿がカリスさんを呼んでくれたの?
うわぁ。
有り難くもあり、申し訳なくもあり。
いやっ、ここは素直にっ。
親父殿っ、ありがたうー!
そして。
カリスさんの言う、黒魔法の弟子入り。
そりゃ、覚えられるものなら覚えたいけども。
……大惨事に、しても大丈夫でせうか?
「ここではいかん。儂の元というのは、遠く離れておる」
「具体的に、どれくらい?」
「北の山脈を超えて更に北、極地に近い島じゃの」
「あ、島なのか。それなら多少無茶しても」
無茶する前提かっ、と。
からから笑いながら、カリスさんに突っ込まれた。
いや、でもね?
オレ的には、全力で放出量、抑えてるつもりでも。
出た力は、そこら辺の建造物、粉砕するには十分すぎて。
魔法巧者なシルフィやウンディも?
オレに教えるの、最初から投げてるもんな。
だが、しかしっ。
姉妹でいちばん、魔法が下手。
と、いう。
状況は、どうにか回避したいのですよっ!
「うむ、ではメテルや、これより儂を師匠と呼ぶが良い!」
「師匠っ、よろしくお願いしまっす!!」
でも。
実際に修行で学園を出るのは。
せめて、剣技大会終わってからでお願いしますね。
でないと。
マミちゃんほっぽって、行くことになってしまうので。
「何、問題ない。儂も久方振りの王国、観光してからじゃ」
「ああ。じゃあ、いいツテがありますよ師匠」
ほむ?
と。
小首を傾げる様が、可愛いな師匠。
甘味と美味を求めて三千里とか超えて来たらしい、師匠。
その欲するところは。
お食事処、ですよねっ?
じゃあ。
出番ですよシグヌイちゃんっ!
ええと。
たぶん、マミちゃんと一緒に生徒会で仕事してるかな?
「そうか。では、共に征くかの!」
「合点承知の助、師匠!」
なんでそんなに妙に気が合うのよ、ってリルが。
いや?
なんか、ノリが似てる気がするんだよ、師匠。
まあ。
身長差100センチ以上なので。
オレが抱っこして移動する感じになるのは、必然。
……師匠っていうか。
近所のませた子どもを構ってる気に、なってきた。




