151話 その幼女、吸血鬼につき
2,200ポイント突破でーっす。
ありがとーございまーっす。
嬉しや嬉しやっ。
「で。なんでまたルコア先生が」
「うふふ。私が知っている方が、来るんですよ」
放課後。
と言っても。
オレは親父殿から、黒魔法を禁止されちゃったので。
リルとティーマと、図書館でぼーっと暇つぶし。
放課後に待ち人と会う予定が、出来たので?
いつもなら昼食その他で移動したりするんだけど。
今日は、一日リルとティーマに、お付き合い。
まあ。
ぶっちゃけ、ほぼ寝てたけどなオレ。
そのうち目が腐るわよっ、なんて憎まれ口叩くリルを。
たっぷり可愛がったりしたりなんかして。
図書館のTPO弁えて?
声を殺して抵抗する様が、可愛かった。
……リル。
憎まれ口叩くと確実に揉まれる、って分かってる筈だが。
もしかして。
そっちの扉を、開いてしまったのだろうか。
ちらりと、目を向ければ。
オレの視線を感じただけで、妙に赤面してるリルが。
──訊かないでおこう。
それは、さておきっ。
そういうわけで?
何故か、ルコア先生が。
図書館まで、わざわざ迎えに来てくれたんだけども。
「ほぇ? ルコア先生の縁者なの?」
そうです、って。
こっくり体ごと頷いた、先生の胸元。
ぱっくりV字に開いた胸元から、大質量な谷間がちらり。
なんか妙に大胆ですね、今日の服装?
「ええ。少し、悔しがらせてやろうと思いまして」
「??? 誰を?」
今から会う人、だそうだ。
んー?
胸にコンプレックスある女性なのかな?
っていうか。
そんな風に?
体に関して意地悪するルコア先生も、珍しいような。
話の合間に?
ちょこちょこ、女性のことを話してくれるんだけど。
……なんか、昔とっても酷い目に遭わされた?
みたいな。
──恨み晴らさでおくべきか。
そんなどす黒い想念を。
ルコア先生、背中にがっつり背負っておられる。
ひっ、ひぃぃ。
こ、こわいよぅ。
ど、どんな女性なんだ、今から会う人って。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ええと。メテルさん、こちらが私の師匠です」
「うむ。儂が師匠じゃ。崇め奉え」
ものすごく困ってる風の、親父殿。
先生に案内されたのは、見慣れた親父殿の、地下研究室。
……こないだ、あれだけ粉砕したのに?
新品同様に、綺麗に片付いている。
──逆か。
あれだけ粉砕したから、完全新造したんだなコレ。
で。
親父殿?
めっちゃ汗だくだけど、大丈夫?
そして。
その適当すぎる紹介で、いいの?
その、親父殿と並ぶ、ルコア先生の、目の前。
ででーん、と。
腕組みで、超絶にふんぞり返ってる、師匠さんとやら。
あまりののけぞりっぷりで、もはや顎下が見えとるし。
……て、いうか。
どう見ても。
師匠さんとやら。
──幼女だ。
そして。
黒魔道士の証、全身真っ黒の、ローブ。
は、いいんだけど。
え?
ほんとに?
唇の両脇から伸びる、鋭い牙。
薄い青っぽくも見える、血色の悪い肌の色。
それでいて、薄暗がりの中で爛々と輝く真っ赤な瞳。
……人間じゃ、ありませんよね師匠さん?
「シルバーカリス・ファザナドゥ・ブラッドレッドじゃ」
「長いのでカリスと呼んでやるといいですよ」
「勝手に縮めるでないわ、無礼者めが!」
「いいんですか師匠? 甘いもの、送ってあげませんよ?」
「むっ……、ぐぐぐ、このろくでなし女め!」
お師匠、カリスさん。
軽口叩きながら。
ルコア先生と、瞬速の取っ組み合いというか。
ルコア先生が持ってる、ドーナツを奪い取ろうとしてる。
そこまでは、割と微笑ましいんだけど。
言い争いの、合間に。
軽口叩くみたいに、超絶の黒魔法の撃ち合い。
お互いに、発動した瞬間に対応消去、を繰り返してる。
んだけど。
余波で、親父殿の研究室が、あちこち?
球形の削り跡を残して、ごっそりと削られてく。
ああ。
だから、ここで会うことになったのか。
て、いうか。
アレ、親父殿の得意技、重力魔法だよな。
ブラックホールみたいなの。
ルコア先生も、使えたんだなあ。
「聞いておらなんだか? こやつら、双方儂の弟子じゃて」
「と、いうことは。カリスさんが元祖?」
「そうじゃ。崇め奉え」
でーん。
その遣り取り、お約束なんですかカリスさん?
そして。
「ご用件はなんでせうか、お師匠さん?」
「四大精霊に師匠と呼ばれるとは、儂、感動!」
じーん。
……マジだ、ほんとに感動してらっさる。
何というか。
喜怒哀楽、激しいですねカリスさん?
親父殿と、ルコア先生の師匠って言うんだから。
オレら精霊と同じく?
見た目通りのお歳じゃないと思うんだけど。
「師匠は吸血鬼の真祖なんですよ。四千歳でしたかね」
「4,366歳じゃ! そこな大精霊には、及びもせんがな!」
がぶり!
一瞬のスキを突いて。
カリスさんが、ルコア先生の手をがぶりっ!
え、痛くないんですかそれ?
あ、違った。
ドーナツを齧り取っただけか。
びっくりしたわ。
「何、此奴が養女を取り、それが四大精霊じゃと言うでな」
もしゃもしゃとドーナツを頬張るカリスさん。
そのままてくてく、オレとリルの回りを、くるりと。
「きゃあっ!? なんでスカートめくるのよ!?」
「なんじゃ、ぱんつは普通なんじゃな、精霊でも」
……その流れで、オレを見上げないで下さいな。
ダメですよ、親父殿の前なので。
めくったら、めっ。
まあ。
オレはたまに、履いてませんけどね。
窮屈で、嫌いなんですよ女性用って。
「ふむ? そちらの目隠しは、なにゆえじゃ?」
「ああ。裸眼見せると、なんでか女性が倒れるんですよ」
「は? なんじゃそれは。外してみてくれんかの?」
「ええ? 知りませんよ、どうなっても」
いいから、興味あるんじゃ! って。
何というか、傍若無人が服着て歩いてるような人だなあ。
あ。
人じゃないのか。
吸血鬼さんだった。
まあ。
オレ自身は、ひとつも困らないので。
別に、いいんだけど。
目隠しに、手を掛けた途端。
そそくさと物陰に隠れる、リルとルコア先生。
君ら、オレを何だと思ってんだ全く。
じゃあ。
カリスさん?
行きますよ?
久しぶりの。
伝家の宝刀。
「ほーら、こーんな顔だよー」
「……ぶほぉ!? な、何という人外の美! 女神か!?」
……さすが、吸血鬼。
七孔噴血って、初めて見たわ。
あの。
血溜まりの中に沈んだカリスさんが。
びくびくと、痙攣してるんですけど。
これ、ほっといていいんですかね?
つか。
ほんとに、何しに来たんだカリスさん?




