149話 我が家で最恐は、侍女さんズ
ロックさんたちと別れて、離宮へ続く道。
元々、地霊殿は王宮に近在してたから。
それほど、遠くにあるわけじゃない。
ので。
たくさん、歩くわけではないんだけど。
その短い、道すがら。
オレ、ひたすら落ち込みちぅ。
理由は、ひとつ。
「とーばつしょーめーぶいー……」
「メテル姉、さすが! 冒険者ランクに固執しない強さ!」
……違うんだサラム。
そうじゃ、そうじゃないんだ。
「ボクもメテル姉見習って、より一層強さを探求するね!」
そんな、いかにもお姉ちゃんかっこいい、的な。
真摯、かつ無垢な妹の眼差し。
い、言えないっ。
お風呂に意識が飛んで、討伐証明忘れてたとかっ!
これで何度目だよオレ、しくしく。
誰か?
そういうことを代わりにやってくれる人を、探さねば!
……。
あれ?
オレって。
もしかして。
そういう知り合い、居なくない??
「孤高の冒険者なんだね、メテル姉!」
「ああ、うん。言い方を変えれば、そうだな……」
逆に言うと。
オレ。
基本、ぼっちなのでは。
友達とか、居ないし。
ユリちゃんたちとつるんで生徒会してる、サラムの方が。
よほど、交友関係広いですな。
──。
寂しくなんか、ないやいっ。
で。
「ホッホッホッ。良い頃合いの帰着でございますな」
「セバスさんっ、ただいまー!」
一応、挨拶を返し。
さり気なく、サラムより先に離宮内を。
地脈視点で、把握把握っ。
……。
よし。
マミちゃんは、帰った後だな。
まあ。
マミちゃんがまだ、居たら。
セバスさんが応対に出てくるわけ、ないんだけど。
「ああ、預かり物にございますよ」
「ふぇ? 何?」
聞き返すなり。
顔面に、何かがばしーんと。
オレ、さすがに予想できず。
暫し、硬直。
《マスター! 一日千秋の思いで、帰還をお待ちしており》
「……ティーマ。顔面直撃は今度から禁止で」
ぱっくり広げた両手両足で。
オレの顔面に、全力でしがみつくティーマ。
ああ。
マミちゃんに貸してた指輪が、返ってきたのか。
……指輪が自分で飛んで来るとは、思わなかったが。
あ。
薄いけど。
一応、体に凹凸はあるんだな、お前。
《マスターがご所望なら、私、頑張って大きく》
「なんでオレが妖精をご所望するんだよ。で、首尾は?」
ぽいぽい、ぽぽいのぽいっ。
適当に着てるモノを脱ぎ散らかしながら。
広間への通路を、闊歩。
後ろでセバスさんが空中で受け止めて、素早く畳んでる。
阿吽の呼吸。
これぞ、主従ですなっ。
「メテル様? 奥方様に見つかると、怒られるかと」
「地脈視点で位置把握してるから、大丈夫だもーん」
抜かりはありませんともっ。
後ろから、なんか深々とため息が聞こえたけど。
気にしなーい。
セバスさんと、ティーマの報告によれば。
マミちゃん、意外と伸びしろがあり。
数日後に控えた、剣技大会。
確実に、サラムに勝てる?
そんな断言は、出来ないまでも。
そこそこ、いい戦いくらいはするかも?
そんな風な、仕上がりだそうで。
うむ、いい報告であったっ。
……明日もロックさんとこで暇つぶしかな?
サラムを引っ張り回すって、意外と難しい。
おっと。
元々は、サラムは調理覚えたがってたっけ。
いま、完全に忘却してるぽいが。
シグヌイちゃんに頼めば?
クッキーの作り方程度は、習えるかもな。
ついでに、巻き込んだら時間を潰せそう。
女子力とか、オレは結構どうでもいいんだけど。
最近?
サラムも、そういうこと意識し出したっぽいし。
妹の願いは、極力叶えてやりたいし。
そういう感じで。
頑張って、マミちゃんの練習時間、確保してあげよう。
で。
全寮制な学園なのに。
なんで家に帰って来たかって。
そりゃもう。
理由は、ひとつしかない。
「あ、侍女さんたちー! ご飯、出来てますー!?」
にっこり微笑まれた。
準備万端らしい。
わぁい!
女子寮の食堂を使うのも、いいけど。
基本、貴族子女しか居ない、あの学園。
ご飯は帰宅してから家族と一緒に。
そういう方針な、家が多く。
……あそこ、食堂も厨房もあるのに。
食事時って、超閑散としてんだよな。
いっぺん自炊して食堂で飯ったけど。
──まるで村八分されてるみたいに、寂しかった。
まあ。
そんな、わけで。
家族が集って、一家団らんっ。
そういうのんびり時間は、超大事ですよねー。
「夜には女子寮に戻らないと、ユリがうるさいんだよ」
「へえ、なんでだ?」
「ユリはボクを抱っこしてないと寝れないんだって」
「へぇ……。それは……」
子どもっぽいよねユリって、なんて笑ってるけど。
サラム?
ほんとに、そっちの道はやめておけ?
なんか。
もう?
扉が、半開きな気がしないでもないけども。
ううむ。
まあ、サラムが選ぶことだから、仕方ないのだが。
って。
あれ?
家族、集合ですよね。
忙しい御母君や、親父殿が揃わないのは仕方ないとして。
オレと、サラムと。
セバスさんと執事軍団。
侍女さんズ。
……誰か、忘れてるような。
あるぇ?
シルフィとウンディは、精霊大陸からまだ帰ってないし。
ううむ?
誰を、忘れてるんだろう。
「──ナチュラルに置き去りにするんじゃないわよ!」
このボケナス!
なんて。
罵詈雑言と共に。
忘れ去られたミスリルの精霊が、しゅぃぃんと。
離宮の食堂に、顕現。
雑言のバリエーションが、なんか昭和だぞリル?
昭和ってなんだって?
忘れた。
今までどこで何やってたんだ、お前。
生徒会の用事で?
オレの代わりに連れ回されて?
……ひん剥かれて、デッサンのポージングさせられたと。
ああ。
芸術大爆発中の、シグヌイちゃんか。
今後とも、よろしく頼むぞリルや。
「なんでリルがやるのよ、アンタの用事でしょ!」
「オレはそんな用事を、聞かなかった。いいね?」
良いわけがないそうだ。
むぅ。
一子相伝にして奥伝。
窓から用事を投げ捨てる、という荒技を伝授したく。
え、ダメ?
意外と義理堅いというか。
融通が利かないよな、リル。
まあ、それは後回しにするとして。
リル?
そろそろ。
食卓から、降りた方がいいと思うぞ。
ほら。
あっち、見てみ?
「ひっ、ひいいぃぃ!? なんて目で見てんのよ!?」
うむ。
あれが。
目線で人を殺すかもしれない?
我が家の最恐戦力。
侍女さんズ、渾身の怒り顔だ。
侍女さんズが毎晩、手間暇かけて作ってくれる夕食。
土足で食卓にのぼったら?
そら、怒られますわな。
つまり。
……侍女さんズは、敵に回しちゃいけない。
ひとつ賢くなったな、リルや?




