147話 お風呂の時間を、確保しました
「前衛、抜剣! 構え! 弓隊! 放てー!!」
ロックさんの、よく通る掛け声。
前方から迫る、ゴブリンたちが効率よく排除されてく。
一応、くっついて来たオレたちだけども。
……要らなくね、オレら?
って、いうか。
「盗賊団……、だよね?」
「……そうだ。我らロック盗賊団」
ラグさん、相変わらず寡黙。
でも、答えてはくれるんですね。
でもでも、でもー?
「あはは。盗賊らしくないって言うんでしょ、お嬢ちゃん」
「オレはメテルですよー、ええと、セリさん?」
「メテルちゃんね、覚えたわ。ほら、ハンカチ使いなよ」
綺麗な顔が、台無し、って。
オレの顎を掴んで、ぽんぽんと頬の泥を取ってくれる。
ハンカチ持ち歩くとか、女子力高いですねー。
なお。
胸の谷間から出てきたのが、プラスポイントでした。
そして。
綺麗になったオレの顔を見て、赤面俯くまでが。
お約束、というか、予想通り、というか。
これ、いつまでついて回るのかしらん?
女性にのみ効くっぽい、女性キラーな顔貌。
オレのせいじゃ、ないですからねっ。
で。
セリさん。
なんか、姐さんというよりは。
お母さんみたいな、感じが。
「やめてよね? 下の子からもさんざん言われるのに」
そんなに老けて見える?
って訊かれたけど。
そういう意味では、ないと思われ。
ちらり、と。
その、セリさんの下の子たちを見れば。
サラムと一緒に、めっちゃ遊んでますね。
サラム、お前?
精神年齢、そこら辺なのか?
可愛いから、いいんだけど。
「ああ、あの子たち? 孤児だよ」
「孤児? なんでまた、こんなとこまで」
「あの子らはまだ、躾がなってなくてね」
ほっとくと、警吏に捕まってしまうから。
って。
苦笑しながら、仰いますけど。
うわあ。
ガチ孤児かー。
常日頃から、窃盗やスリとか働いてる系の。
叔父上?
王都のお膝元に、弱者が居りますよっ。
国王の失政ですね、失政。
つっても。
御母君や叔父上の、手の回らない場所。
そういうとこも、そりゃ当然あるよなあ。
王国、かなり大きいし。
なんか、オレらも手伝い出来るといいんだけど。
──親父殿は、ともかく。
御母君?
オレらを、そういうのから遠ざけようとしてる気はする。
学園通いも、そうだけども。
やっぱり?
人類滅亡を回避させようとか、そういうつもりかしら。
オレ自身は、全然安心、安全確実だけど。
姉妹が滅亡させないように、頑張って監視しないとな。
で。
話は、最初に戻る。
「盗賊にしては、すっげ統率取れてますよね、セリさん?」
「そりゃそうよ、だってロックは現役の……、って」
あっ。
みたいな感じで、片手で口元覆ったセリさん。
なんでございませう?
「言っていいぞ、セリ。この方々は、宮廷魔術師殿の娘だ」
つまり、俺たちの雇用主の身内だ、って。
何ですかね?
秘密か何か?
「ロックが言うなら……、つまり、ロックは騎士なのよ」
「はい?」
セリさんに、言われて。
抜剣済の長剣片手に、鋭く号令をかけるロックさんを。
……相変わらず、ごつい顔だ。
顔面に横一文字に走る、剣創がまた。
どう見ても、騎士ってよりは、強盗団の長みたいな。
「なんか言ったか、お嬢ちゃん?」
「いいえ何も。精悍で精強で豪快な顔立ちだなあと」
「だからな、俺は好きでここに居るわけじゃねえんだよ」
肩を丸めて、深々とため息。
あっ、ハイ。
御母君の、命令なんですね?
つまり。
騎士は騎士でも。
隠密騎士、というか。
市井に紛れて、潜入任務とかそういうのをやる、系の。
……隠密御庭番衆!
かっこいい!!
「庭番はほんとに居るぞ? あっちは暗部で暗殺専門だ」
「うわあ、怖いです」
暗殺部隊って。
叔父上?
それ、どこらへんに対抗して組織してるんでせうか。
「元々は帝国の忍者部隊に対抗したって聞いてるな」
「忍者って居るんだ、あの国……」
ほんとのほんとに和風っぽいよなあ、帝国って。
いや、まあ、それは置いといて。
「じゃ、そろそろ。お風呂したい」
「は? 何言ってんだ嬢ちゃん。アタマ、大丈夫か?」
頭は結構、頑丈ですよ。
たぶん、頭突きで柱をぶち折るくらいは、訳もなく。
いや、だってですね。
全身どろどろなんですもの。
丁度いい塩梅に、地下水が溜まってるじゃないですか。
沸かす人員も、居りますし。
「あっちの刀使いの妹さんか? 焔使いなのかよ」
「うむっ。では、ちょっとホコリっぽくなるかもー」
「って、おいおい? 何する気だ嬢ちゃん!?」
ぐわしっ。
ずりずり、ずごごごご。
ちょうど、脇に転がってた折れた石柱。
片手で掴みの、引きずりーの。
「皆さん、頑張って避けてね?」
「全員退避! やべえぞこの嬢ちゃん!!」
そんな。
オレは全然、普通の長女ですから。
つまり?
周囲に無数の瓦礫があって。
その隙間から、ずんどこゴブリンが出てくるのが、元凶。
なので。
隙間を潰してやれば、いいんですよね?
簡単ですよ。
瓦礫を砕いて、隙間を塞げば。
丁度いい重さの石柱で。
上から、ごんごんっ、ごんっ。
たんすに。
いやたんすはないよ、ここには。
そんな感じで。
目ぼしい瓦礫を、叩いて砕けば。
多少、ホコリは立ったけど。
ほら、安全地帯、確保ー!
「瓦礫の間に、大量にゴブリンが死んでるぜアレ……」
「些細な問題でせう! さあ、お風呂に入れる時間が!」
「俺たちの目的はそうじゃないんだが……」
まあ。
休憩は必要ですよね?
そういうわけで。
さあ。
みんなで、お風呂ターイム!
「いいんじゃない、ロック? どのみち休憩は要るんだろ」
「そりゃそうだが、まだ一階層だぞ?」
「でも、いつも自分も言ってるじゃないか」
そ、そうそう。
セリさんから援護射撃が来るとは、思わなかったが。
ロックさんが、常日頃仰ってるらしい、内容の通り。
子どもはいつも、清潔にするのが大事ですよっ。
と、いうわけで。
サラム?
盛大に、沸かしてくれたまいー!




