146話 オレ、どろどろヌルヌルになる
「ふえぇ。ぱんつの中まで、びちょびちょ」
「具体的に言うなよ」
ぷええん。
だって。
廃墟の地下、入り口。
苔と地下水で、床がぬるぬるで。
オレ、一歩足を、踏み入れるなり。
──元の下水道まで、一直線。
全身ぬるぬるの、泥まみれでございます。
そして。
「……? なんで盗賊の皆さん、前屈み?」
「自分の姿考えろよ……、全く、お嬢様って奴は」
そういう首領のおじさんも、若干歩きづらそうに。
あ。
おじさん、お名前は?
「俺か? 俺はロック。こいつがラグで、こっちがセリ」
「ふんふん? オレはメテル、こっちは妹のサラム」
「令嬢姉妹で冒険者なのかよ。道楽も極まったもんだ」
苦笑するロックさんの顔が、カンテラに照らされて。
……。
きゃー、こわいー。
ロックさん、精悍な顔つき……。
いや。
凄惨な、顔つきー。
「誰が顔面崩壊だゴルァ!」
「(≧▽≦)キャー」
なんてお遊びをしながら、先を進む。
早速人見知りさんを発動したサラム。
女性の盗賊さんに構われてるみたいだ。
先頭のオレと少し離れて、後方に居る。
……前衛なお前が最後方に居て、どうする的な気が。
まあ、まだ魔物が出るような階層じゃないから?
一応、問題はないのか。
けども。
とりあえず、落ち着ける場所を探さないと。
でなきゃ、オレ?
びちょびちょの服、乾かして貰えないからな。
サラムの、火の権能。
火力については、問題ないけど。
焔なので、酸素を猛烈に消費する関係上。
オレらは、平気だけど?
開けた空間で、燃やさないと。
半自動的に、盗賊の皆さんが窒息しまする。
皆さん松明を使ってないの。
たぶん、そういうのを警戒してかな、と。
そして、オレ。
大精霊だから、風邪を引くなんてのはないけど。
ぱんつや乳バンドの中まで、苔や泥でぬるぬるなので。
さすがに、感触が気持ち悪い。
ウンディがいれば、清水でシャワれたんだけどな。
で。
簡単な紹介して貰った、他の盗賊さんたち。
ラグさんは、長身で細身。10代後半? 得物は短剣ぽい。
セリさんは、女性っぽい。20代前半? 得物は短弓。
ロックさんは、30代越えかな? 背中に背負ってるけど。
盗賊が長剣使いって、珍しいんじゃないのかな?
ロックさん、見た目は超いかついけど。
三人の中で、いちばん格上みたいだ。
その三人はそれぞれ、班をまとめてるみたいで。
数人の手下を連れて、周囲を探索している。
見た目だけじゃ、よく分からないけど。
それぞれの班で、役割分担があるみたい。
盗賊ギルドって、行ったことなかったけど。
確か、冒険者にも盗賊って、居るよね?
斥候……、レンジャーっていうんだっけ?
「ありゃ同じ盗賊でも、役割が全然違うんだよ」
「へえ? どんな違いが?」
「斥候は戦闘系で屋外か地下の探索専門、俺らは裏仕事」
「裏仕事……。傘を作ったり封筒を折ったり」
「そりゃ内職だろ、全然違うわ!」
ごとん、ごりごりっ。
適当に話しながら、道を塞ぐ落盤した瓦礫をどけていく。
ほら、オレを連れてきて良かったでしょ?
ロックさんたち。
目を見開いて、驚きまくってますね?
いやっ。
これでも、地の大精霊ですからっ。
地下は、オレの領域ですよぅ。
──似たようなことを、どこかで言ったような。
オレサマ、オマエラ、マルカジリ……。
うっ、頭が。
「そんな細っこい体で、なんっつー怪力だよ……」
「へへーん、褒めて褒めてっ」
「ああ、偉い偉い。再崩落に注意しろよ嬢ちゃん」
「嬢ちゃんじゃないよ、メテルだよー」
「ああ、偉いぞメテル嬢ちゃん」
むう。
子供扱いは、止めてくれないらしい。
そこ、セリさんたちっ。
くすくす笑わないっ。
セリさんの班は?
なんか、オレと同じくらいの年少者が多いな。
セリさんを、姉貴とか姉御、とか呼んでるけど。
家族なのかな?
ずいぶんと、姉弟多いっぽい。
──サラムも自然に姐さん呼ばわりしてるのが、また。
お前、意外と子どもに溶け込むの、早いよな。
そして。
なんか、妙に殺気立った目線が。
ラグさん?
と、班の皆さん?
後ろから投げナイフでも飛んできそうな、目つき。
ラグさんの班は、男性のみというか。
ラグさんが班の中で最年長なのは、セリさん班と同じ。
だけども。
こっちの班は、荒事に慣れた感じが凄く、する。
ヤバイ系の匂いを、放ってるというか。
ええと。
オレ、何かしましたっけ?
「──ロックに構われて、いい気になるなよ貴族め」
「……え、そっち?」
すれ違いざま、耳にぼそりと。
ラグさん、ひたすら寡黙ですが。
どうも?
ロックさんに、強烈な忠誠心ある様子で。
そのロックさんは、御母君に仕えている、というか。
御母君に、使われてるんだよね?
御母君からの仕事が嫌なら?
断るか、別の土地に移るなりして逃げられそうなのに。
なんだか。
この、盗賊団?
関係性が、不思議ふしぎー。




