145話 冒険が、降って湧いた
「どういう風の吹き流し?」
「吹き回し、な」
メテル姉が買い物付き合ってくれるなんてっ。
なんて、大はしゃぎのサラム。
コルトさんのお店を出て、王都の往来。
まあ、知ってる店は少ないんだけど。
周囲にさり気なく同行してる、執事軍団。
そちらに任せれば、問題はなかろうっ。
──いや。
今の時間だと?
離宮に戻ると、たぶんセバスさんが。
マミちゃんに、みっちり修行つけてるはずなので。
サラムが戻ると、かち合ってしまうからな。
なので。
適当に、時間つぶしというか。
マミちゃんのために、実態を知られてはならぬっ。
「で? 買い物って、何を買うんだ?」
「んとね、市場で材料が欲しいの!」
……何の?
お料理?
え、お前、何も作れないだろ。
──オレの丼物で、調理に目覚めた?
いや、それは女の子らしいというか。
喜ばしくは、あるけど。
女子寮の、厨房って。
耐爆性、あったっけか?
「爆発なんか、しないもん! ディーじゃあるまいし!!」
「あいつの爆発っぷりは耐爆結界でも足らんぞ」
権能の関係で。
ウンディの場合、割と頻繁に水素爆発してるからな。
水を電気分解しやがるから。
あいつがもし、錬金術を使えたら?
毎日が核爆発の危険と、隣り合わせに違いない。
……あれ?
オレの場合、精霊核に刻まれた錬金術の印を使ってる。
ので。
やろうと思えば?
姉妹全員、錬金術が使えてしまうのでわ?
「へ? やり方、知らないよボク。殴るんだよね?」
「殴るわけじゃないんだが……。シルフィを呼んでみるか」
シルフィを、呼ぼうとして。
あっ。
ティーマの宿った指輪がない。
マミちゃんの修行中、貸し出しっぱなしだから。
あれがないと、精霊大陸の方に連絡がつかないな。
後で、いいか。
「で? 何を作る気なんだ、サラム?」
「んとね、丼物と、ケーキとか!」
「食い合わせ大丈夫なのか、そのチョイスは」
食い合わせの概念が分からないらしいサラム。
きょとーんとしてる表情も、美少女になったよなー。
いや、元からウチの妹は超絶だけどっ。
……周囲の視線が痛い、というか。
そうか、オレも割と、注目される外見だったな。
往来で立ち止まってると、いい衆目環視の的だ。
さくっと、市場に行こうかサラム。
──と。
「麗しきお嬢さん方? なんでこんなとこに迷い込んだ?」
おぜうさん?
え、どこに?
きょろきょろ。
いつの間にか。
見知らぬ薄汚れたおじさんたちに、取り囲まれている。
人混みがなくなって。
オレらしか居ない。
よく見たら。
周囲、なんかすっげ荒廃してるような。
破壊跡は、そこまで古くないけど。
元は綺羅びやかだった通路が?
人力で、徹底的に破壊された跡地。
そんな感じの、雰囲気。
あれ、こんなとこ王都内に、あったっけ?
まるで。
スラム、みたいな。
そして。
オレたちを囲むように立つ、おじさんたち。
むむっ。
お酒臭いっ。
やたら、馬鹿笑いしまくってるし。
明らかに、酔っぱらいさんですねっ?
……そんな無法者と、無法地帯みたいな。
そんな人達が集う場所って。
叔父上、国王陛下のお膝元。
王都内に、存在したかなあ?
「あ、やばっ。地霊殿の跡地だよメテル姉」
「ほえ? ああ、解体されたとか言ってたっけ」
ん?
何がヤバイのだ、サラムよ?
「解体されたとは言ってくれるな、お嬢ちゃん?」
胡乱な目つき。
凄みのある風貌。
全体的に、ボロボロの身なりだけど。
しゃりんっ!
なんて刃音を立てて抜き放った、短剣。
それだけが、妙に綺麗に研ぎ澄まされていて。
ええと。
察するに。
盗賊か、暗殺者系の。
いわゆる、裏稼業?
皆さん、そんな感じの。
ご職業で、いらっしゃいますのこと?
「普通の女の子はこの辺で、怯えるもんだけどな……」
代表格っぽい、いちばん体の大きいおじさん。
が。
とっても、困惑していらっさる。
「一応冒険者なので、オレら」
「どう見ても貴族だろ、あんたら?」
「いやだって、冒険者かっこいいし!」
「いくらかっこいいつったって、なあ?」
周囲の皆さん、苦笑しまくり。
あれれ?
てっきり。
スラムの定番イベント、盗賊の恐喝的な。
そんなのかと、期待わくわくしたのに。
「まあ、何だ。お嬢ちゃんたちが来る場所じゃない」
「ダメだぞ? 親御さんが心配するから」
「こんなとこ来ちゃ、悪いおっさんに絡まれちまうぞ」
……皆さん、口々に。
いや。
なんでそんなに、親切なんでせうか。
身なりと、全然合ってませんよ?
「公爵家の四人娘だろ? 遠目に見たことあるぜ」
「貴族様に真っ向勝負挑むほど、暇じゃないんだ俺たちは」
脅すように出してた短剣を、しまいしまい。
首領格っぽいおじさんが、ほんとに苦笑してる。
んんん?
なんか、邪魔しちゃったのかなオレら?
「ああ、帰ったら公爵様に伝えておいてくれ」
「何を?」
「地霊殿跡地の探索行、進展なしってな」
どっ、と周囲から笑いが。
ほえ?
なんで?
って。
話を聞くと。
皆さん?
御母君に雇われてる、盗賊ギルド系の密偵で。
解体中に拘束を逃れて姿を消した?
元、地霊殿大司教の行方を、探索中なんですって。
──。
え。
地霊殿の、大司教って。
もしかして。
セラさん、ですかね?
「参ってるぜ。抜け道が完全に崩落してて、出口が解らん」
「冒険者向きの仕事だが、元の地形に詳しくないとなあ」
ああ。
廃墟探索ですもんね。
ハックアンドスラッシュ。
冒険者向きですねー。
……スラッシュな、斬撃のご要望も?
「地下水脈や下水とめちゃくちゃに繋がってるからな、今」
「ジャイアントラットやスライムの巣窟だよ、危なすぎる」
おおっ。
思わぬところで、冒険の可能性がっ。
サラム?
オレ、これ行きたいんだけど。
「メテル姉が行くなら、ボクも行くー!」
ノリノリだな。
じゃ。
盗賊さん?
オレらも、探索混ぜて下さいなっ?
「え、マジかよ? 知らねえぞ親に怒られても」
「だいじょぶ。一個、弱みを握ってるのでっ」
うむ。
御母君。
オレを百合小説の主役にした件。
これで、帳消しにして貰いましょうっ。
さあ。
冒険だー!
「待て待て、お嬢ちゃん。そっちは真逆だ」
「メテル姉、かなり方向音痴なんだよね……」
「大丈夫なのかほんとに……?」
……。
こほん。
さあ、冒険だー!!




