144話 貴公子マークさん、爆誕
「何者なんだい、メテルちゃん……?」
「ごく普通の長女ですっ」
疲労困憊。
そんな風情の、マークさん。
無事に、王都到着でございます。
「まだ体が揺れてるぜ……」
「はい、あんよは上手、あんよは」
「なんで平気なんだ、メテルちゃん?」
え、だってオレ、地の大精霊ですから。
なんぼ走っても、地の権能のうちですもの。
──。
生まれたての子鹿みたいに、足がくがくのマークさん。
オレを精霊と、知らないから。
ものっそ胡乱な目で、見られている。
まるまる、一昼夜。
おんぶして疾走しましたからね。
辺境から、王都まで。
そろそろ、辺境の自室の衣装類。
買い足しとかないとなあ。
あっちに出現したとき、オレ、全裸なので。
……侍女さんズに発見されると?
全力で、着飾られてしまうのでっ。
お化粧や可愛い系の服辺りは、まだいいんだけど。
爪とか塗られると、生半可じゃ取れないから。
すっごい、困るるる。
でっ。
本題ですよ、マークさんっ。
「貴族ご令嬢からの依頼だろ? 請けるけど」
「報酬も内容も聞かずに、剛毅ですね?」
「いやまあ、メテルちゃん通しての依頼だし……、それに」
それに?
ああ、貴族の依頼だから。
断ると、後々面倒事になりそう?
うーん?
ユリちゃん、そんな陰湿なタイプじゃない、と思うけど。
……ああ。
ユリちゃん本人でなくても、周囲が?
それは、有り得ますねえ。
まあ。
オレは、紹介するだけなのでっ。
ていうか。
マークさんでダメだと、オレがやることになり。
──主に周囲の女性陣が、大惨事確実ですので。
マークさんっ、お願いしますよっ!
「で? 貴公子に化けるんだろ? 衣装は」
「……あっ。あの。コルトさんのお店に行くことに」
そんな。
ものすぎょい、嫌な顔しなくても。
敬愛する兄君でしょうに、コルトさん。
……敬愛なんか、してない?
むしろ、血が繋がってると思いたくない?
またまたぁ。
マークさんっ、傍目から愛がだだ漏れですよ?
……どこへ行きなさる?
帰る?
ここまで来て、それはないでしょう。
謝るので。
帰っちゃ、ダメですよ。
じゃ。
いい子にして、行きましょうね?
「ちょっ、メテルちゃんっ、なんっつー力だ!?」
ぐわしっ。
ずる、ずるずる。
はっはっは。
オレの膂力に勝てる存在なんて。
我が家のペット、成竜になったピューイでも足りません。
そういうわけで。
さあ。
マークさんのっ、貴公子衣装を見てみたいっ。
「別に兄貴の店じゃなくたって、いいじゃねーか!?」
「あそこが品揃えいいし、何より秘密厳守なんですよ」
意外や意外、上流貴族御用達なんですよね、あの店。
つまり。
変装とかやるのに、うってつけというか。
……。
オレの、従姉妹たる最上級貴族、第一王女な、リズ。
が。
お忍び用の変装やるのに、通ってるからじゃないのかと。
王都での、コルトさんの人脈。
結構、凄いのかもですね。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「お初にお目にかかります、ご令嬢。マークと申します」
「あの、メテル様……? 本当に、女性、ですよね?」
ユリちゃん、気持ちは分かる。
性別不詳っぷりで言ったら?
オレよりも、格段に格が上。
そんなレベルの、上級貴公子。
それが、今のマークさんである。
──久しぶりに会ったらしい、コルトさんと?
なんか、更衣室でぎゃんぎゃん怒鳴り合ってたけど。
普段から男装してるせいか。
そこまで大きく姿が変わった、ということはない。
せいぜい?
冒険者用の、革鎧を脱いで。
上質な仕立ての、男性貴族の衣装に変わった程度。
いつも、思うんだけど。
あの大質量の胸、どこに収納されてるんだろう。
コルセットで?
うえぇ、あれ窮屈でイヤなのにー。
慣れたら慣れる?
そりゃ、そうなんでしょうけどっ。
オレは、嫌いですよーぅ。
さすがに、実の兄妹だからか。
オレみたいに、更衣室で全裸に剥かれる、というのは。
なかったらしい。
……ちっ。
その、マークさんですが。
緊張した様子もなく。
自然体、そのもの。
……気取った所作が、キザっぽくなく。
不自然でもなく、自然な態度として見える。
優しげな笑みに、優雅な動作。
微笑んで、ユリちゃんの手を取り、軽く手の甲に。
……キス。
跪いて、片膝をつき。
ユリちゃんを見上げる目つきも、また優しい。
ほんとに、貴族の出じゃないんですよねマークさん?
正真正銘、公爵令嬢なオレよりも?
全然、所作がこなれているというか。
違和感、行方不明なんですけど。
「貴族護衛の依頼があるから、作法は身に付けてるんだよ」
「ああ。女性冒険者で戦士系は少ないですもんね」
「俺は男だ」
「はいはい」
と、いうわけで。
ユリちゃん?
マークさんで、合格ライン?
「合格というか、個人的に、お付き合いさせて頂きたく」
「待てコラ。そのメモは何の用途だ」
シグヌイちゃんも。
耳まで真っ赤にしながら、画材で怒涛に執筆はよせ。
ユリちゃんのメモ?
マークさんが覗き込んで、アタマ押さえてるので。
不穏な内容が、書いてあったに違いない。
っていうか、君ら?
今は、百合属性は、封印しなさいっ。
「げ、芸術は素晴らしいですねメテル様!」
「だから、正気に戻れと」
大丈夫なのか、ほんとに?
まあ、ともかく。
乗りかかった船なので、最後まで付き合うが。
あと。
一緒になってきゃいきゃいはしゃいでる、サラム。
この子を来週の剣技大会まで。
マミちゃんとセバスさんの、修行の場に。
近づけないように、しないといけないんだっけ。
なんか。
来週って。
オレ、めっさ忙しくない?




