143話 えっちな下着は、もう着ないのっ
「あらメテルちゃん、久しぶりね。相変わらず、そそる体」
「そそらないから!?」
あの。
コルトさん?
お久しぶりです。
お店、ちょっと広くなりましたよね。
辺境のお店が、本店?
こっちの王都側が、支店なんですか。
あちらは奥さんが経営してる?
ここはいずれ、ラティーナちゃんが?
ほうほう。
夢が広がりんぐ、ですねえ。
良いことです。
──で。
ほんとに、普通に採寸して頂けます?
て、いうか。
オレ、姿かたち、昔とぜんぜん変わってないので。
前に採寸して貰った時から?
一切、変化してないはずなんですけど。
──前回と、見る場所が違う?
胸と腰を、重点的に?
え、やだよ。
……あの。
その、怪しい手付き、怖いんですけど?
男装の注文だから?
胸周りに合わせて、割とガチ目に固める?
固めるって、何を。
ああ。
胸を固定して筋肉に見せかける、関係で。
尻や腰付近も、布地とコルセットで整形して?
逆三角形っぽい、シルエットにすると。
そ、それはすっげ興味、あるんですけど。
あのですね?
前にも、言った気がするんですけども。
「──なんでオレ、全裸にされてるんですかっ!?」
「あらやだ、相変わらず綺麗な肌ねえ」
「ひっ、ひぃぃっ!? 撫で回さないでっ!?」
「ねえメテルちゃん? こういう下着、興味ない?」
「イヤだ、オレはもう二度とえっちな下着は着ないと!!」
……やっぱり、ダメだったよ。
ほんとのほんとに、オレが着たの内緒ですよ!?
「今着けてる下着はサービスにしとくわね」
「ううう、どうやって脱ぐのか分からない……」
「お宅の侍女さんたちが知ってるわよ」
「侍女さんズ、結構ガチ目にオレで遊ぶから油断ならなく」
遊ばれるくらい反応がいいのが悪いらしい。
なんだよ、反応がいいって。
ニヒルにキメればいいのか?
──余計、おもちゃにされる気しかしない。
下着については、ともかくっ。
本命は、男装ですよ。
と、言っても。
この世界の、男装って。
そもそもオレ、正装したことがなく。
結局。
上から下まで、乳隠しも含め。
……ほんっとーに、不本意ながら。
コルトさんに、全部お任せである。
……男装ですよね?
なんで、お化粧するんでせうか。
「メテルちゃん、眼力ありすぎるのよ。だから多少ね」
「多少ってレベルじゃないですよね?」
つけまつげとか、お化粧道具が山のように。
コルトさん、お化粧まで出来てしまうのね。
美容師さんも、顔負け。
え、普段からお客さんにやってるの?
何屋なんだ、ここ。
「愛と美の殿堂、コルト服飾店王都支店へようこそ?」
「来たくて来たんじゃ、ないやい……」
筋骨隆々なマッスルさんに、全裸見られて。
その上、髪から顔から、これでもかというほどの手間暇。
コレが下心有りなら、粉砕して終わりなんだけど。
──コルトさんの、コーディネート。
本気のほんとに、凄いんだよなあ。
だって。
姿見の前の、オレ。
どこから見ても?
どっかの、王子様風の男子。
このまま王宮に登城しても。
叔父上やリズ、簡単に誤魔化せそう。
間違っても、オレとはバレないと思う。
それくらいに。
女性っぽさが、完全に消えていた。
そして。
試着室を、出ると。
待ちかねてたらしい?
ユリちゃんサラム、シグヌイちゃんが。
ほぼ、同時に。
「「「け、結婚して下さいっ」」」
「何でだよ。正気に戻れ、君ら」
戻ったら戻ったで、きゃいきゃいやかましいわ。
は、壁ドン?
いやまあ、いいけど。
じゃあ、ユリちゃんから。
どんっ。
──いきなり腰抜かしてんじゃ、ありませんよ。
「これは、危険です……、正気を失いそうに」
ハンカチで押さえた鼻が、鮮血に染まってんぞ君。
そして。
二番手争いをするんじゃない、サラムにシグヌイちゃん。
二人まとめて、抱きしめてしまうぞ?
……白目剥いちゃった、てへぺろ。
て、いうかだね?
──この計画。
致命的な、欠陥がある気がしてならないんだけど。
「ほんとに大丈夫なのか、これ? 本番は目隠しなしだぞ」
「……はっ!? だ、大惨事の予感……」
ほれみろ。
今からでも、遅くないので。
オレ以外の相手を、選んだ方がいいんじゃないのか?
「え、でも。男装女子で、秘密が守れる方って」
「……あ。居るわ」
コルトさん見てて、ふと思い出した。
ユリちゃん?
男装女子に拘るのって、恋人に見せかけるからよね?
割と、らぶらぶ風味の様子を、衆人環視で。
で。
秘密厳守っていうのは、依頼内容としてでせう?
それから。
王子よりも、物理的に強くて。
で、身分差をあまり気にしない、っていうか。
つまり、出自不明のお相手。
そして何より。
男装に、超慣れててボロが出ないような、ヒト。
オレ、ひとり、心当たりあるし?
「ど、どちら様でしょうか? 紹介頂いても?」
「ちょっと遠くに居るから、明日までに連れて来るよ」
確か、オレが寝る前?
交代が来たら、こっちの大陸に戻る、って言ってたから。
今は、辺境に居るはず。
でわ。
お迎えに、行きますよ。
元祖、男装の麗人。
コルトさんの、妹。
マークさんっ、出番ですよーぅ!




