141話 なんか知らんが、プロポーズされた
「おかえりサラムっ、さあ模擬戦しようぜ!」
「え? え、何メテル姉??」
……王都、冒険者ギルド前。
待ち伏せして捕まえたサラムたち。
──大漁だな、オイ?
「ど、どうされたんですか突然、メテル様?」
大量のモンスター素材を後ろに、ユリちゃんびっくり。
驚くことかなあ?
姉が妹を迎えに来ただけ、なんですが。
……むしろ、こっちが驚くとこだけど。
【浮遊円盤】っていうんだっけ?
魔法の浮遊する円盤数枚の上に。
迷宮の魔物から取った素材が、こんもり載っている。
討伐証明部位、だっけか?
ランク上げと、実利でギルドに卸す素材なんだよね。
──あー、オレも辺境の迷宮で取りまくっておけばなあ。
って、そういえば。
精霊大陸の迷宮でも、素材取ってないぞ?
オレ、このパターンでずっとEランクなのでわ。
や、やだなあ。
「こんなところで立ち話もなんですし、お茶しませんか?」
「おお、ユリちゃんにナンパされてしまった。行きませう」
メテル様なら自宅の寝室まで大丈夫ですよ、とか。
ものすごい可愛い笑顔で言われて、ちょっと心が動いた。
……なんか、背中にサラムの鋭い視線が刺さる不思議。
何なんですかねえ?
で。
「ところで。シグヌイちゃんは、ほっといていいの?」
「ああ。あれはいつものことですから。任せております」
ユリちゃん、苦笑気味に。
いやね?
ギルドの受付で。
どうやら買取担当らしき、男性の職員さんと。
シグヌイちゃんが。
……熾烈な、交渉なう。
「締めて金貨10枚! まかりませんよ!?」
「確かに貴重素材だが、これっぽっちで金貨は高いぞ」
「私達しか到達出来ない階層ですよ、希少価値付加です!」
「嬢ちゃんたちなら、安定供給も出来るんだろうが」
うわぁ。
ガチだ。
さすが、商売人。
オレ、あんな剣幕で値段交渉は無理だなあ。
めんどくさくなって、言い値でおkにしてしまう。
ていうか。
別に小遣い困ってないから、無償譲渡してしまいそう。
しばし、待つ。
待ってる間に。
シグヌイちゃん、巧いこと交渉を纏めたのか。
革袋に包まれた金貨を片手に、ふんっ、と大きく掲げ。
そこで、初めて。
オレの存在に、気づいたようだった。
「あっ、メテル様……。お恥ずかしいところを」
「いや拍手したいくらい、見事な交渉だったよねえ」
なでなで、ぽんぽん。
何故に赤面恥ずかしがるか。
みんな小さいから、抱え上げて褒めてあげたくなるなあ。
いや、むしろ。
やってしまおう。
「きゃあっ!? め、メテル様? 恥ずかしいです……」
「うんうん、偉い偉い。パーティの、お財布だねえ」
「そんな大層なことは、してませんよ」
「シグはね、いっつもいろいろ値切ったりしてくれるの!」
サラム、背中に飛びつくなよ。
ちょっと、びっくりしたぞ。
キャパシティ的には、全然余裕だけど。
そしてユリちゃん。
一緒に、掴まりたいなら?
腕にぶら下がっても、大丈夫ですよ?
割と膂力、あるからねオレ。
「ほんとですか? では……、わあぁ、凄い……」
「ふふふ、凄かろう。もっと褒めろ」
いや。
ネタだったんだけど。
女子三人から一斉に褒めそやされると。
なんか、くすぐったいですね。
と、とりあえず。
お茶しよう、そうしようね?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ギルドから離れて、三人で歩くこと数分。
シグヌイちゃん、御用達。
紅茶とケーキのお店、到着。
ここも、シグヌイちゃん直営店?
「そうです。王都内にあと数店舗ほど」
「ほうほう。あ、オレ、チーズケーキと紅茶ー」
店員さんにオーダー。
窓が大きく多いせいか、よく日が入る明るいお店。
窓の向こうには、大きな王宮。
見晴らしもいいし、いい物件ですねえ。
「軽食を楽しむなら、風景も楽しみませんと」
「ボクここお気に入りなのー!」
むしろ、お前が気に入らない場所ってあるのかサラム?
ガチャガチャと、音を立てる迷宮装備を外してるとこ。
オレのプレゼントな刀、大事にしてんだなあ。
「大事っていうか、これ凄いよメテル姉! 折れないし!」
「まあ、強度は折り紙付きだろうな」
どれだけ強いか熱く語っちゃうサラム。
ちょっと、落ち着きなさい。
お前は背丈が伸びても、そういうところはそのままだな。
オレが錬金術で刀剣を錬成出来ること。
ユリちゃんやシグヌイちゃん、知らなかったらしく。
二人にも、冒険用の装備を贈ることになってしまった。
いや、別にいいんだけどね。
ただ。
具体的に、何が欲しいのかな?
「では、私は出来れば鎖かたびらを……」
「おけおけ。超軽く丈夫なの、あげるからね」
「嬉しいです!」
シグヌイちゃんは、鎖かたびらね。
ういうい。
女の子だもん、サラムみたいなガチの金属鎧は重いよな。
って。
サラム、それどこで作ったん?
めっちゃ高そうだけど。
「辺境のムギリさんにー! ムギリさん、凄いんだよ!」
ムギリさん。
ああ、魔法屋の家の斜向いの鍛冶屋さんか。
確か、冒険者専用装備の鍛冶師さんだったよね。
懐かしい名前が出たな。
凄いって、何が?
え、剣匠?
って、なんだ?
王国最高峰の、武装鍛冶師?
本人も元冒険者で、Sグレード?
うっわ。
全然知らなかった。
今度帰ったら、菓子折り持って挨拶行かないとな。
って、いうか。
辺境もそうだけど。
お隣の領地な。
おじーちゃんおばーちゃんたちにも、会いたいな。
「おじーちゃん、メテル姉に会いたがってたよー」
「お前はオレが寝てる間に行ってるのか」
シルフィやウンディも、何度か戻って来てるらしい。
うわオレ、めっさ不義理やん。
時間作って?
みんなに挨拶しないとな。
……ところで。
ユリちゃん?
なんか、妙に静かだけど。
ていうか、考え事?
邪魔しちゃ、悪いかしらん?
「あ、いえ。私の希望ですよね。髪飾りでも?」
「ほえ? いやまあ、金属製であれば大抵のものは」
作れちゃいますよ、と。
自分が殆ど髪飾り類とか、装飾品使わないので。
既製品に似せる感じに、なってしまいますけども?
「構いません。あの、それで、もうひとつお願いが」
「はい? オレに出来ることなら」
──なんだろね?
妙に、切羽詰まってる雰囲気が。
サラムと、シグヌイちゃんと。
顔を見合わせ。
ユリちゃんの、次の言葉を待つ。
「あの、メテル様。私と、結婚して下さいっ!」
「……は?」
「すぐにでなくて、結構ですので!」
「……いや、待って待って」
「日取りは一週間後、その前に我が父にご挨拶頂ければ」
「……待ておい、落ち着きなさいっ!」
サラムも、シグヌイちゃんも。
赤面してないで、現実に戻っておいで。
常識で、考えてご覧なさい?
オレ、自覚めっさ薄いけども。
こう見えて、美少女ですよ?
女の子同士で結婚とか、無理。
まだこの国、そんな系統の婚姻を認めてませんよね?
「男装して下されば、バレませんから!」
「バレるだろ瞬間で」
おい、待て。
サラム、シグヌイちゃん。
熱く頷くなよ。
……え?
ガチで、マジのお話ですのこと?
ちょっとお待ちなさいよ。
詳しく、事情を訊かせて下さいませ??




