140話 セバスさん、膝に矢を受けたとか
「期限が一週間ですからな。びしばし行きましょう」
「メテル様、死ぬ、死にますぅぅ!?」
……なんかマミちゃんの阿鼻叫喚が聞こえるけど。
気のせい、気のせい。
いやあ。
朗らか陽気で、いい天気ですねー。
「反応速度では分がありませんので。こちらは条件反射で」
「なんで刃引きの大剣で、床石が斬れるんですかぁ!?」
それを避けてるマミちゃんも、凄いんだけど。
条件反射、ってことは。
死にそうな攻撃を延々仕掛けて?
頭で考えるより先に、反射で避けられるように的な。
そういう感じ、なんですかねえ?
──反射云々、以前に。
あれ、一撃でも貰ったら。
身体のどこか、ぶっ千切れるような勢いだけども。
おっと、髪の毛かすったかな?
セバスさんっ?
髪は女の命、ですよ。
めっ。
「これでも、相当に手加減しておりますが」
ほんとにぃぃ?
ほぼ正方形の、練武場。
我が家で、よくサラムとセバスさんが訓練してる場所。
その。
執事服なセバスさんの両手に、バカでかい大剣。
あれ、幅が人間一人分くらいありそうなんですけど。
よく、平気で振り回せますよね?
「現役時代は片手で扱えたのですが。もう歳ですな」
わざとらしく、疲れた振りしない。
全国のお年寄りに、謝りなさい。
そんなもん両手でぶんぶん振り回せる老人が、歳とかっ。
「メテル様なら、片手でいけますでしょう?」
「オレは権能で重さ感じてない、から……」
あっ。
マミちゃん、きょとんとオレらの会話を。
ええと。
何と説明したら、良いのか。
「錬金術の、効果でございますか?」
「えーと? まあ、そんな感じで」
「ご教授頂くわけには?」
「うぇ? ああそうか、魔法も使えるのかマミちゃん」
はいっ、って力いっぱい返事するのが可愛いな。
一所懸命だし、出来れば教えてあげたいが。
これ。
普通の人間には、発動出来ないらしいよ?
「サラの気を逸らすのに、最適と思ったのですが……」
「そりゃ、発動出来ればびっくりするだろうね」
……ん?
発動出来れば、いいんだから。
マミちゃんや、オレ自身がその場に居なくても、よくね?
「??? ど、どのようにして?」
「ええと。説明がめんどいので、省くけど。はい、これ」
差し出しましたるは。
指輪。
ティーマや?
出番だぞー。
《委細了解しました、マスター。見敵必殺で参ります!》
参るなどあほう。
オレの権能と、繋がってるティーマ。
マミちゃんの指に移しても?
簡単な術は、発動出来るよな?
ティーマが、ティーマ自身の判断で。
そういうことで。
さあ。
セバスさんと第二ラウンド、開始ー。
「ほう? なかなか面白い試みですな。では」
「ちょっとちょっとセバスさん。ギア上げないの」
さっきまでの比ではない、セバスさんの剣速。
流し受けしたマミちゃんの宝剣から?
ぎゃりぎゃりぎゃりぃぃぃ!!!
なんて。
凄まじい、金属音が。
セバスさん?
それ、結構大事な剣らしいですよ?
て、いうか。
セバスさん、結構楽しくなってきてませんのこと?
「なるほどなるほど。では、更に速くしてみましょうか」
「これ以上ですかぁぁ!?!?」
うわ。
セバスさん、ほんとに人間?
唸りを上げる大剣と、残像しか見えない体捌き。
あの。
なんで、現役引退しちゃったんです?
親父殿と、かなりガチ目に渡り合えると思うんですけど。
「何、膝に矢を受けてしまいましてな」
「ぜったい、嘘だー!!」
にっこり笑う、髭面のセバスさん。
汗一つ、かいてないんですもの。
ばけもの級に、強い。
これと毎日稽古してんのか、サラム。
──お前も、勝利には程遠そうだな。
《マスター? どの程度まで、権能を?》
「うーん。攻撃じゃなく、防御限定で」
了解しましたっ。
って、ティーマが嬉しそうに。
言うなり、セバスさんの大剣を受ける形で?
瞬間的に、マミちゃんの前に防護盾が展開。
あれは、砂鉄を使った地の権能の盾。
そこまで、強度はないんだけど。
剣の軌道を逸して、衝撃を静電気に変えて放出する。
帯電するのが、結構面白くて?
割と、お気に入りの技だ。
って。
「きゃんっ!? しび、しびび、しびれ……」
「……あっ」
しまった。
マミちゃん、軽装備とはいえ金属鎧、着てるんだな。
……通電してしまった。
──ティーマ? それ、禁じ手にしよう。
そうしよう。
内緒で、な?
「しばし休憩ですかな。して、メテル様? 問題がひとつ」
「ふぁいっ!? な、なんでせう?」
ほんとに息も乱してないのな、セバスさん。
どんな耐久力してんだ、あなた。
で。
問題って、何?
ああ。
サラムが、門限には帰って来るんですよね。
門限つっても、我が家の門限は超ゆるいけど。
あ、そろそろマミちゃんをおうちに送って行かないとな。
それは、置いといて?
床石に、新しい傷があるとバレる?
はあ。
修復、しておきますけど。
……セバスさんが付けたんじゃん!?
「ほっほっほ。稽古にはつきものでございますから」
「唐突に好々爺っぽく笑って誤魔化さない」
よし。
シグヌイちゃん経営の帝国料理店、御用達。
しょうゆせんべいで、手を打とう。
たっぷり醤油使って貰ってねー!
え、まだ問題が?
ああ。
これから一週間、マミちゃんに稽古つけるのか。
……その間、サラムのお相手を?
オレが、するの?
えええ。
絶対、勝てないぞオレ。
「寄る年波です故、二人を相手には出来ませんからな」
「年波が寄って来るまで、あと50年は安泰なのでわ」
笑って誤魔化さないの。
ううむ。
しかし。
サラムと模擬戦は、したことないよな。
勝てない気はするが。
それはそれで、なんか面白そうだ。
マミちゃんを、送り届けるついでに。
サラムたちが迷宮から帰るのを、迎えに行くとするか。




