14話 我が家の天使らがレベルアップしました
「…………!」
「…………!!」
無言で、オレは男性冒険者のレイドさんと握手。
力強く、握り返された。
オレたちは、確かな絆で通じ合っていた。
天使が、降臨していた。
「……ん? しーねぇ、おかえり。我。待ってた」
「めー姉、めー姉! サラムいい子にしてた!!」
ごふっ。
吐血しそうな可愛さに、目眩がする。
誰だ、こんな神衣装着せたの。
とてとて、と謎擬音を発しそうな歩幅で駆け寄る妹たち。
そのアタマには、ぴこぴこと揺れる猫の耳。
ウチの子たちが獣人にジョブチェンジしたわけじゃない。
毛糸で編まれた手芸品だ。
元々可愛い妹たちのレベルが、上位にアップグレード。
後光が差していないのが、不思議でならない。
「あ…ありのまま、今、起こった事を話すぜ!」
なるほど。
レイドさんのお話によれば。
子供へのお土産として、冒険前にギルドに預けていた品。
猫耳グッズを、ウンディとサラムに装着した。
そして、出来上がったのが神の被造物、と。
「な…、何を言っているのか、わからねーと思うが」
「オレも、何をされたのかわからなかった……」
「頭がどうにかなりそうだった…、ウチの子にゃ負けるが」
「そこは訂正しよう、可愛いのはうちの子」
ばちばちっ。
一瞬、視線で火花が散る、けど。
ふっ、とお互いに笑い合う。
喧嘩してどうする。
お互いに、それぞれの可愛さを知っていればいい。
それこそがっ、世の真理だ!
「恐ろしいものの片鱗を、味わったぜ……」
「──どこで買ったか教えて下さい。言い値で買います!」
レイドさんの呟きに、オレは秒速で反応した。
これは無駄遣いじゃない。
投資だ。
オレたちの心の安寧に対する、良質の投資。
見返りは、天使来迎。
ほら、何も間違ってないっ。
……ああ、本通りの服飾屋さんですか。
あそこ、ハンドメイドの逸品多いですよね。
親父殿に買って帰った毛糸の指出し手袋、重宝してます。
書類書くときも外さずに使えて、手が温かいって。
「めーねぇ、めーねぇ? しーねぇが、鼻から血出てる?」
「自然の摂理だ。血で汚れないようにえんがちょしなさい」
「??? 我、しーねぇをえんがちょきーったっ」
「さり気なく独占しようとしないで、めーちゃんっ!?」
ちっ、バレたか。
茫然自失だったシルフィが意識を取り戻した。
でも鼻血はほんとに拭け。
でないと、ウンディはお前には渡せないな。
ウンディはシルフィに、サラムはオレに懐いてる。
ていうか、サラムが「ボク」って言うのはオレの影響。
普段から、抱っこするのはそれぞれが担当している。
可愛いんだ、これが。何度も言うが。
小さな手足を使ってよじ登ってしがみついて来るのが。
もうね。
幸せの証? みたいな。
「あらあら。今日はもう、何も出来そうにないわね?」
「あー、そうですね。家の手伝いもあるので、明日また」
「ええ。明日は街を歩き回るから、そういう格好で来てね」
ってことで、セラさんともお別れ。
ほら、バイバイしなさい、二人とも。
レイドさんも、子守りありがとうございました。
今度、お子さんとも遊ばせて下さいね。
「いい子で待ってたか、ウンディ?」
「我、いつもいい子」
「いい子はベッドに世界地図書かないけどな」
むっと眉根を跳ね上げる、シルフィに抱かれたウンディ。
「あれは芸術。水で岩盤に穴を、溝を穿つが如き自然の妙」
「すきすきーだよねウンディ。世界中に変な地形作ったね」
「我、芸術は自然派」
「うんうんうん。アタシはあれ、好きよー」
頬ずりし合ってる姉妹が可愛いぞ。
こっちで抱いてるサラムは、もうおねむだな。
軽く額にキスしたら、むにゅむにゅ言ってる。
帰ったら夕飯まで、少し寝かせてやるか。
「ねえねえねえ、めーちゃん?」
「ん、どした?」
「ついでだから、買い物して帰らない?」
「買い物? お前、なんか用事あったか?」
「女の子の入り用は、たくさんあるのよー?」
「下着か。お前ほんっと、人間の体を満喫してるよな」
いぇいっ、と笑みを浮かべるシルフィも可愛い。
……こいつにだけは直接言わないけどな。
調子に乗ると大抵やらかす、それがこいつだ。
まあ。
肉体がなかった頃は、着飾って楽しむこともなかったし。
女性用の下着って、よくわからんのがたくさんあるけど。
下着に凝るくらい、別にいいか。
明日から稼げばいいんだし?
そう思って。
スキップしてるシルフィを引きずり、服屋に足を向けた。
……それが、オレの選択ミスだった。




