139話 美少女剣士を全力応援してみる
「秘剣! 脳天割りっ!!」
ひょいっ。
いや、避けますよ。
何をびっくりしてるんですかマミちゃん。
自分で言ったんじゃん、脳天狙いって。
え?
技名は叫ぶものと?
誰がそんなの教え込んだんだよ。
……サラムだろうなあ。
そして。
元凶は、オレか。
──黙っておこう、そうしよう。
それは、ともかくとして。
「寸止めしなくても、大丈夫だよ?」
「えええっ!? 刃潰ししておりませんよ、この剣??」
そうなのだ。
マミちゃんの構える、豪華な剣。
お父さんから成人祝いで贈って貰ったそうで。
訓練用の剣と重さが違って、勘が狂う。
そういう理由で、今もそれを使っている。
……当然、刃を潰したなまくら訓練用と異なり。
ばっちり、鋭い刃があります。
割と、ガチ目で。
柄とか剣身とか、かなり装飾ごてごてだけど。
切れ味に何も影響しない辺り、さすが武門の家柄。
え、むしろ切れ味を増すための装飾?
ああ、魔法剣とかそんな感じの。
ていうか、魔法剣って存在するのね、この王国。
考えてみれば。
魔導第一人者な親父殿や御母君が居る国なんだもん。
当然っちゃ、当然か。
だが、しかしっ。
金属製の剣ならば。
オレの身体に、傷をつけられないのは世の理っ。
オレ、金属はおろか、地属性全ての支配者。
これでもっ。
大地の、大精霊ですからねっ。
──って。
内緒なんだった、そういえば。
ええと。
何と言い訳しようか。
「さすがサラの姉君! かすらせもしないという自信!」
「あ、そう。そんな感じで」
格上の剣士の、胸をお借りしますっ!!
って、言われてしまいましたが。
何度も言うが。
オレは、そもそも剣士ではない。
得物を見せれば、理解してくれるかしらん?
ぶぅぅぅん。
両手の。
素手の肘から手首に掛けて、チタンを錬成。
そのまま、手首の先、一メートル程度まで細く伸ばす。
そして、適当に構える。
マミちゃん、びっくりしながらも、応対する構え。
……気をつけてやらないとな?
マミちゃん、あの剣めっちゃ大事に使ってるみたいだし。
うっかり刃から合わせたら、ぱっきり折っちゃう。
オレを、金属の剣は傷つけられないけども。
オレは、金属だろうが何だろうが粉砕出来てしまうので。
……錬金術で。
元の形に、戻せはするけど。
折れた時点のショックは、軽減出来ないからねっ。
そうして。
剣を合わせること、数十分。
「ま、参りました……」
「いや、凄い強いよね、マミちゃん」
剣を支えに、がっくり膝をつくマミちゃん。
お世辞でもなんでもなく、ほんとに強いと思う。
体力的には?
短期決戦型というか、スタミナが足りない気はするけど。
この年齢の、しかも女の子なんだから。
数十分も連続して動けて。
しかも、重い剣を振り続けられる。
それだけで、同世代の子より遥かに上を行ってる。
相手がオレやサラムでなければ?
普通に、凄腕の女剣士として、立身出世出来るのでは。
それくらいに、鋭い剣筋だった。
「ああ、これでは。来週の剣技大会が、不安で」
「剣技大会とか、あるんだ?」
自信持っていいと思うけどなあ。
少なくとも?
ここの学園内じゃ、最強に近いレベルじゃないかと。
剣技に限定すると、サラムが最強になってしまうが。
あれ、炎の権能使ってないだけで。
身体能力的には、精霊の反応速度だから。
サラムと互角に戦った上に勝利しちゃった、剣聖さん。
カイオンさんの方が、人類の常識を超えてんだよね。
って。
「え、カイオンさん、出るんだ?」
「国王主催ですから、軍民問わず強者が集まる祭典で」
ほうほう?
優勝者は、剣聖と戦う機会を得られるそうで。
そこが、マミちゃんの目標なんだとか。
あー、王国中の剣士の。
晴れ舞台、兼、最終目標的な。
こういう、スポ根な目標は?
応援したくなっちゃうよね。
マミちゃん、美少女剣士だしっ。
……え、問題?
問題っていうか、障壁?
何が?
……ああ、サラムも毎年出てると。
──そりゃ勝てないわな。
「サラの姉君に、こういうことを聞くのは反則ですが……」
「サラムの弱点、ねえ? ううむ??」
炎の権能を使わないのは、ハンデというか。
実は、威力の調整が下手なんだよねサラム。
調整しようとすると、そっちに集中しないといけない。
調理室でも、火加減に掛かりっきりだったし。
精霊魔法も使えて、剣技も絶品な最強の女剣士。
それが、ウチの自慢の末っ子です。
ただ。
一度にふたつのことが出来ない、って。
ユリちゃんも、最初に言ってたでしょ?
なので。
炎の精霊魔法……、っていうか、炎の権能。
あいつ、使わないんじゃなくて、使えないのよ。
「それは知っていますが。どうやって意識を割かせるか」
「まあ、そうなるわな」
うーん。
うーん、うーん。
サラムには悪いが。
今回ばかりは、マミちゃんの味方をしてやろうかな。
可憐な美少女剣士の、切実な悩み事だし?
普段なら、身内を応援してやるけども。
二年連続で優勝してるらしい、サラム。
今年は、マミちゃんがダークホースになるぞっ。
……たぶん。
剣技でオレ以上に詳しいヒト。
で、サラムにそこら辺、内緒にできそうなヒト。
えーと。
……。
ああ。
居たわ。
「メテル様以上に、お強い方が!?」
「いや強いって言うか? 少なくとも、サラムより強い」
是非に紹介して下さいっ!!
って、お願いされたけど。
割と頻繁に会ってますよ、既に?
いや。
そろそろ門限だから。
学園の正門に、いつもお迎えが来ますよね、お互い。
はい。
正門、到着。
おうちに断ったら、多少は門限伸びる?
では、ご一緒しませうか。
新しい、マミちゃんのお師匠になるヒト。
こちらになります。
「藪から棒になんですかな、メテル様?」
「メテル様、こちらは、公爵家執事の?」
はい。
我が家の執事筆頭にして。
サラムの師匠、先代剣聖。
セバスさんでーっす。
マミちゃん、腰抜かさんばかりに驚いてますけど。
このヒト、サラムどころか。
現剣聖カイオンさんより、強いらしいですよ?




