138話 生徒会の女子力は行方不明
2,100ポイントだぁぁ。
こんなに評価されるなんて、びっくりですね(主に自分が。
「はい玉ねぎ薄切り、千切りさくさくっ」
「め、メテル様、速っ!?」
女子寮備え付けの、調理室。
女子力向上の一環だかなんだか、知らないが。
生徒が自分で自炊出来るように?
調理道具全部揃いの部屋が、学校にも寮にもあるんだな。
ただ。
基本ここ、貴族の子女しか居ないので。
道具全部新品同様、使われた形跡がほぼないのがなあ。
まあ。
貴族の子女が自分で調理する、って珍しいんだろうな。
普通は、使用人にやらせるんだろうし。
リズは、会食の予定があるからって護衛と共に、王宮へ。
あの子、ガチでほんとにいつも忙しそうだよなあ。
だから、寸暇を惜しんでお忍びしてるのかも。
で。
だかだかだんっ、だかだんっ。
包丁は金属、地の権能だから。
地の大精霊なオレを、傷つけられない。
なので。
前世で自炊してた頃よりも高速な、包丁さばきっ。
ふふふ。
華麗な包丁の扱いを、刮目して見よっ。
「凄いですわメテル様! いつでも奥方になれますね!」
「──いやその予定は全くなく……」
マミちゃんだけが、常識人なのだろうか生徒会って。
他の子たち、みんな「いやいやいや」みたいに首を。
いやまあ?
オレだって男性とそういうことする気、ないけども。
そんな風に、全力否定されるとそれはそれで。
うーん?
殿方と、なあ。
一応オレら四姉妹、女性の身体なんだからして。
可能性は、あるのかも知らんが。
シルフィとカイルくんがくっついたみたいに。
──オレが、殿方と?
ぽやややん。
脳裏に、親父殿と寄り添ってるオレが、ふと。
……うわぁぁぁ!?
なんでそこで、親父殿が出て来るかオレの脳内!?
親父殿には御母君居るでしょっ。
ぺいぺい、ぺいっ。
脳裏イメージ、消し消しっ。
「? どうかなさいましたか、メテル様?」
「ああユリちゃん、なんでもないよ。お米、炊けた?」
「ええ一応、教わった通りに……」
ユリちゃんの、向こう側。
ぐつぐつと湯気を泡を吹く鍋を前に。
二人して両手を組み合わせ?
恐るべきモノを前に緊張してる風な。
シグヌイちゃんと、サラム。
「め、メテル様? これ、爆発したりしませんか!?」
「メテル姉、なんか怖いよぅ!?」
……この子たちが男性に何か作ろうとしたとき。
オレは必ず監視しようと固く心に誓った。
下手すると、毒殺するかもしれんな。
さて。
このペースなら。
お米が炊きあがる頃に、こっちも準備出来るかな。
片手でボウルに、生卵をこここんっ。
片手割り、結構練習したんだよなあ、前世で。
この体になっても、覚えてるもんだな。
ボウルで卵を混ぜるのは、真剣なマミちゃんに任せ。
オレは、用意してあった豚ロースを。
びしばし! びしばしっ!!
叩け、叩け、叩けぇぇぇぇ。
おいらにゃー、獣のぉー。
じゃなくて。
「それは、何の行程なんです?」
「肉を柔らかくしてるんだよ。ユリちゃん塩胡椒よろしく」
「はいっ、お任せあれ!」
ユリちゃん、意外と真剣にやるのな。
誰か一人くらい、調理嫌いな子が居るかと思ったけど。
慣れない手付きながら。
生徒会みんな、真剣全力で。
定番、カツ丼を作りちぅ。
全力で塩胡椒まぶしてやり切った、的なユリちゃん。
から、豚ロースを受け取り。
薄力粉、溶き卵、パン粉、まぶしまぶしっ。
さあ。
ようやく出番だぞ、サラムよ。
「任せて! 劫火で焼くんだよね!?」
「やめろどあほう」
きょっとーんとお目々丸くしてるのは、可愛いが。
フライパンを熱してくれれば、それでいいんだよ。
炎の大精霊だろう、お前。
火加減、きっちり頼むぜっ?
油を注いで、待つこと数分。
そろそろ、いいかな?
でわ、豚ロースよ。
程良く、温まるが良いっ。
……じゅわぁぁぁ! ばちっ、ばちばちっ!!
「ひえええ!? メテル様ぁぁ!?!?」
「いや平気だから。そこ、魔法の盾張らない」
すんげえ詠唱速かったなシグヌイちゃん。
意外と、魔法巧いんだね?
そういえば、生徒会役員って全員冒険者なんだっけ?
「私は違います。門限がきつくて」
「ああそうか。妙齢の女子だもんなみんな」
「みょ、妙齢というわけでは……」
マミちゃん恥ずかしがるの、可愛いのう。
調理中だから、頭撫でられないのが残念。
さあ。
からっと揚がったカツを、油切り。
ついでに、さくさくと分割。
まだまだ、行くぜっ。
鍋に出汁入れて、玉ねぎを煮込む!
溶き卵を忘れるな!
調味料は、お好みで!
玉ねぎの色が変わったらっ。
出番ですよ、蓋さんっ。
蒸らし、蒸らしー。
さあ、最後の仕上げっ。
ご飯を丼によそい、よそいっ。
上に玉ねぎ、最後に刻みカツ。
オレ謹製、カツ丼っ。
完成だー!
「こ、これがドンモノ……」
「メテル様の、手料理……」
「ううう、食べるの、もったいないよメテル姉……」
「このまま保存し、観賞用に飾るのはどうでしょう……?」
いや、食えよ普通に!?
……って。
そういえば、みんな箸使えないんだった。
ナイフとフォークは、ちょっと食べづらそうだね。
箸で行ってるのは、シグヌイちゃんだけか。
「帝国料理店を経営しているのに、箸が使えなくては」
「あそこのお店、シグヌイちゃんが店主なの?」
ほぉ?
経営学とか学んでる関係で?
王都内に、シグヌイちゃん経営の店舗が結構あるらしい。
早速、丼物の販売許可訊かれたし。
いいよいいよ?
どんどんっ、王都に和食を広げてくれたまいっ。
オレが、頻繁に通いますのでっ!
「ドンモノですが……、上に載せるのは、カツ限定で?」
「いいや? そこが丼の奥深きところ」
にやりっ。
ユリちゃんに、笑ってみせる。
丼の上には、無限の可能性がだなっ?
次は。
うな丼でも、作ってやろうかな。
いや、久しぶりの自炊。
楽しかったー。
……そんな、楽しいお食事の時間。
この後君等、どうすんの?
迷宮に行く?
稼ぎまくってんな、生徒会。
王都にも迷宮、あったんだな。
郊外にあるの?
そのうち、一緒に行こうか。
オレ?
オレは、どうしようかなあ。
特にやること、ないんだけど。
迷宮に一緒に行くのは、今日は気が進まず。
「あの、でしたら!」
「ん? 何かなマミちゃん?」
と、いうことで。
マミちゃんの、門限時間まで。
マミちゃんの剣のお稽古に、お付き合いすることに。
……なんか期待しまくってるとこ、ほんっとに悪いけど。
オレ、そんなに強くないよ?
「サラに、勝ちたいんです!」
ああ、そういうことなら。
サラム、これでガチの剣の達人だからな。
ていうか、剣に限らず。
武芸百般、全部の天才。
頬にご飯粒つけまくってる姿からは、想像もつかんが。
人間の身でサラムに勝つっていうのは、厳しいと思うが。
オレ、努力する女の子、大好きです。
力及ばずながらっ。
お手伝い、付き合ってあげませう!




