137話 当たり前のように腐りきっていた
「メテル様、もう少し屈んで、エリザベータ様にお顔を」
「ひにゃぁぁ!? ちかっ、近すぎぃぃ!?」
何故かオレ。
リズの部屋で、リズを豪華なベッドに押し倒している。
軽く両手を掴んで、のしかかり。
至近距離。
あたふた慌ててるリズが、可愛いぞ。
いやまあ、オレが襲ってるわけではなく。
指示を出してるのは、ユリちゃん。
そのユリちゃんの前には、広げた羊皮紙。
ちらり。
……見たこともないくらいの真剣さで。
紙に向かって、全力で文字を書き綴っておられる。
その隣じゃ、両手で顔を覆ったサラムと、マミちゃん。
シグヌイちゃんも、居るのだが。
彼女は、ユリちゃんの隣でやっぱり紙に何か描いている。
どうも?
ユリちゃんは文章を。
シグヌイちゃんは、挿絵を描いてる様子。
……なんで、こんなことになったのやら。
親父殿に大変ご立腹した、オレ。
親父殿の来れないところに行こうと、女子寮へ。
と。
入り口で、ばったりリズと出会い。
話し込んでいたら、生徒会の面々がやって来て。
──有無を言わさず、リズの部屋へ直行。
そして、現状に至る。
「め、メテル様!? それ以上は、もう、もう……ッ!?」
「んちゅぅー。リズは相変わらず、可愛いなあ」
額に軽く、キス。
これ以上赤くなったら破裂するんじゃないか。
みたいなレベルで、リズが赤りんご。
どうやら約三年ぶり、17歳になってるリズ。
相変わらず、贅沢な肢体。
あと、胸回りがとんでもないことになっている。
元々、すんげえ質量あったのに、更に。
君これ、自分の足元、見えないよね?
オレの倍以上あるもんな。
で。
オレ、知らなかったんだけど。
学園に入学してたらしい。
そりゃそうだよな、貴族の子息女集めた学園だもん。
第一王女なリズが、入らないわけがない。
なので。
つまり、リズもオレの先輩になるわけか。
ただ。
リズの場合。
学科が帝王学だとか外交だとか、難しい学問の方で。
魔法主体なオレと、全然教室が別だから。
今まで、全然会わなかったらしい。
「いつ会いに来て下さるかと、心待ちにしてたのですよ?」
「悪かった、起き抜けでいろいろ手続きがな」
ぼそぼそ、ぼそぼそ。
姿勢を維持したまま、必死に顔を背けるリズと内緒話。
いや、別に内緒にしなきゃいけない理由はないんだが。
ユリちゃんたちがね?
「メテル様、もっと真剣に!」
「そうです、締切が近いんですから!」
「いや君ら、そろそろ説明をして欲しいんだが」
あと。
これ以上ガチでやると?
たぶん。
……リズの鼻が、耐えられないだろう。
いやだぞ?
こんな豪華天蓋付きベッドが、鮮血に染まるの見るの。
と。
ユリちゃんにシグヌイちゃん、一瞬きょとんと。
そして。
顔を見合わせ、そういえば、なんて感じに。
「失礼しました。学園のサークル活動でして」
「学園内で回覧している私小説を、合作しているのです」
ほぉ?
連載小説を描いているらしい。
描いているというか。
ユリちゃんが文章担当。
シグヌイちゃんが挿絵担当。
で。
学園内で大人気なヒット小説で?
週刊ペースで、大河ドラマ的に進行していると。
実在の人物も、名前そのままで出てる?
あの。
それ、もしかして。
オレも?
むしろ、オレが主人公?
オレ、許可した覚え、ないんだけど。
──御母君が、許可出した?
ていうか、御母君が購読者第一号?
売ってるのかよ。
生徒会の運営費になってんの?
商魂逞しいですね、君たち。
で。
ああ、ありがとう。
手渡して貰ったこの本が、先週号なわけね?
……リズとこういう格好させられてる時点で。
ものすぎょい、嫌な予感しか。
だって。
学園内。
男子生徒も一応居るけど。
隠れキャラかってくらいに、男子少ないんだよね学園。
男子は普通、騎士学校に行っちゃうから?
わざわざ、学園には来ないそうで。
なので。
女子校ではないけど。
事実上、ほぼ女の園。
その。
女子率高い学園内で、大人気小説って。
……。
ぺらり。
ぺら、ぺら、ぺららら。
「先週号はベッドイン寸前の焦らすメテル様が、悪辣で」
「オレそんな悪いヒトじゃないから!」
……予想、通り。
というか、予想の斜め上72度。
文字通り。
腐ってやがる!
なんでオレ、会う娘さん片っ端から口説いてるの!?
「「「「「事実そのまま」」」」」
「全員で口揃えて言うなやー!!」
オレはそんなに、女たらしではないっ。
……たぶんっ。
きっと。
──女の子口説くのは、面白いけど。
と、いうわけで。
事実と異なるので。
協力、してあげないー。
「そうですか。こんな手段は取りたくなかったんですが」
物悲しそうな、シグヌイちゃん。
どきり。
悲しそうなのに、口の端が笑ってるシグヌイちゃん。
こ、怖いっ。
「女子寮に搬入しているお米ですけど、協力頂けないと」
くっ。
き、汚い。
胃袋から攻めて来るなんて!?
シグヌイちゃんのご実家が、お米を王都に輸入している。
ので。
シグヌイちゃんの、ご機嫌を損ねると?
オレ、学園内で、っていうか王都で?
お米を食べる機会を、失うってことでせうか!?
確かにお米、寮で消費してるのオレだけらしいけど!
お米、炊いたらとっても美味しいんですよ!?
広まれ、お米の魅力!!
丼物に、もって来いの美味しさ!!!!
「ドンモノって何、メテル姉?」
「よしいいところに食いついた妹よ。調理して進ぜよう」
そしてこの魔窟から疾く離れよう。
さあ、いざ共に行かん、調理室へ!
「メテル様? 夕食後、またモデルお願いしますね?」
「……はぁい……」
しくしく。
生徒会、所属するだけでいいって言ったじゃんー。
約束が違うぞ、ユリちゃん。




