136話 親父殿を、怒鳴りつけた
「はいっ。転送、完了~……」
じゃじゃーん。
オレ、瞬時に転送完了。
シーツが被ってる石材から、まろび出る。
だって。
やることは、単純にして簡単。
自分の存在を地脈に流して、出口に出すだけ。
身体がなかった頃から?
今まで、何度もやってきた地脈移動。
至近距離と言えども、何も問題がない。
……はずだったんだけども。
「……あるぇ?」
ばさり。
シーツから顔を出し。
久しぶりの裸眼で、親父殿を見る。
そりゃそうだ。
オレが転送出来るのは、オレ自身だけ。
だから。
事前に言った通り、『こっち』のオレは、全裸。
少し肌寒さを感じながら。
白シーツを、適当に身体に巻きつける。
……で。
その作業の途中から。
──『あっち』のオレを、凝視してしまう。
「……えっ?」
「推論の通りでしたね」
親父殿、にこやかに。
石材に手を当てた姿勢のまま、直立してるオレ、を。
軽く、抱き締めて支えている。
指輪に宿るティーマも。
そちらで、あっちのオレと、こっちのオレを交互に見て。
──は?
え?
オレが、二人居るぅぅぅ!?
「前にメテルさんが地脈から出てきた際、思ったんですよ」
転送前のオレの肉体……、つまり、精霊核。
それは、どうなるのかと。
オレの感覚だと?
地脈を通して、体ごと転送されている。
──つもり、だったけども。
親父殿の推論では。
意識だけ転送されて、身体は新造されているのでは、と。
だから、今、実験した。
そして。
その通り、だったと。
なんで、そんな風に思ったかって。
精霊島で、初めて会ったとき。
オレは、親父殿の前で。
火口から水辺に、意識を転送した。
そのとき。
火口のオレは、火成岩だった。
水辺に移動してからは、砂岩。
だから。
オレの身体っていうのは。
オレの意識があることが、重要で。
オレが抜け出た後は。
……その場に残って、地脈に吸収されるのでは、と。
「こちらのメテルさんですが、ティーマさんが居るので」
《マスター、こちらの体からも、マスターを感じますが》
あ。
指輪に宿るティーマ。
厳密に言うと?
指輪を通して、オレとエネルギー的な通路を結んでいる。
だから。
オレの意識がこっちに移っても。
ティーマの指輪はあっちの体に繋がってるから。
……それで、あっちの体は崩壊しないわけね……。
「少々、邪道ですが。これが、精霊核を新造する方法です」
「ああ、なるほど……。成分は分からないけど、製法か」
少し興奮気味に語る親父殿に、近寄りながら答える。
で。
熱っぽく語り続ける、親父殿。
オレの身体を、抱いたまま。
ね、親父殿?
オレ今、ものっそ困りちぅ、なんですけども。
あ、あの。
親父殿?
その。
そっちのオレの、身体ですけどね。
……服を、脱がせないと。
こっちのオレが、着替えられない。
つまり。
裸のまま、なんですけど?
「ああ! 気づきませんでした。ええと、この帯かな?」
「わー!? 脱がせちゃ、ダメぇぇ!?!?」
あほかアンター!
姿かたち、同一の身体なんだから!!
オレの裸、見られちゃうでしょー!!!!
《マスター? この方、マスターがお眠りの間に何度も》
「そんな情報は今要らなかったわー!」
オレ今、きっと全身真っ赤だぞ。
いいから。
親父殿、皆まで言うな。
オレの狼狽っぷりに呼応して。
石材に繋がる地脈が、反応しまくり。
ずんっ。
ずず、ずぅんっ!
珍しく、オレ、力がセーブ出来ておりません。
その。
大地の大精霊たるオレの、権能垂れ流し。
の。
地脈に反応した石材が、脈動し。
そしてひび割れ。
ぱぁん!!
そんな破砕音を立てて、部屋中に吹き飛ぶ。
「は? あの、メテルさん?」
「親父殿? 娘の、着替えですよ?」
にっこり。
人間、怒り心頭になると。
笑うしかなくなる、ってほんとなんだな、と。
ぷるぷる。
震える手で、出口を指差し。
オレは、おもむろに。
叫んださ。
「とっとと、出てけー!!!!」
親父殿渾身の、超絶多重結界を。
ひとつ残らず粉砕したのは、ご愛嬌。
オレの全力権能だぞ?
その程度で済んだのは、親父殿の結界だったからで。
むしろ。
幸運を、喜んで欲しいところ。
ふーんだっ。
親父殿が、悪いんだから。
オレ、謝らないからねっ。




