130話 和風庭園に、心が和む
2,000ポイント超えましたー。
ご愛顧ほんとにほんとにほんとにほんとに、ありがとーございますっ。
「さあ、堪能なさって下さいませ!」
得意満面。
シグヌイちゃんの嬉しそうな顔は、なんだか和む。
学園から我が家の馬車で、さほど遠くない場所。
そこに、シグヌイちゃんご自慢の帝国料理店があった。
王都には珍しく、小高い丘の上。
小山のような盛り上がった土地の、てっぺんに。
小ぢんまりとして、それでいて立派な風格を持つ屋敷。
一見、普通の和風家屋に見える。
けども。
暖簾のある門構えは、確かに料亭のよう。
高級料亭なのか?
どうやら、食事しながら庭を目で楽しめる造りらしい。
庭は前世で見慣れた、庭園になっている。
静水を湛えた池に、鹿威し。
白砂を波状に整形し、計算され尽くした配置の、石。
どこから見ても、必ず一個だけ見えない配置なんだっけ。
意図は知らないけど。
なんだか、前世に戻ったような気持ちにさせてくれる。
つまり。
……落ち着くー。
「メテル様? 何か、おかしなところでも? きゃっ!?」
「ああ、いや。シグヌイちゃんに、感謝しないとなーと」
帝国領に行ったときでも?
こんなに落ち着いたことはなかった。
あっちは何か、中華の影響が強い感じだったしな。
思わず正面から抱きすくめたシグヌイちゃんは。
なんだか、小動物のようにオレの腕の中で、硬直。
あー。
可愛いぞ、シグヌイちゃんや。
ほっぺ、すりすりー。
このお店、シグヌイちゃんの実家の直営だそうで。
料理人から仲居さんから、オレらの様子を見てほっこり。
いやだって。
こんな可愛い娘さん、愛でずにどうするよ的な。
あまりスキンシップに慣れてないのか?
軽く頬や頭を撫でるだけで、恥ずかしがりまくり。
この表情だけで、軽くご飯三杯くらいはイケますよ!
と。
座敷で馴れ合ってたらば。
次々に運ばれてくる、和食の数々。
わぁい!
正確には帝国料理なんだけど。
オレにとっては、和食八割、中華二割的な。
──なんか、帝国って中華の影響、妙に強いんよね。
の割には、ラーメンとか麺類なかったな?
前世と違って?
水が豊富じゃない地域が、領内にあるからだろうけど。
オレら四大精霊も、余所の世界の転生者なんだし。
もしかしたら?
帝国にも、転生者が居たのかも知らんなあ。
それは、置いといてっ。
白米だー!
お刺身だー!!
お醤油に、わさびだー!!!
「メテル様、わさびは平気なんですね?」
「わさび醤油、大好きですよ?」
美味しいお魚食べるのに、サビ抜きは邪道っ。
つっても。
王国って香辛料の類が、意外と乏しくて?
香辛料を食べられない人が、割と多いそうで。
言われてみれば?
いいとこ岩塩程度で、あまり調味料って凝ってないなと。
砂糖、塩、お酢程度は使ってるけど。
醤油もみりんもないし。
食文化的に、素材の味に依存してる感じはあるね。
「そうです! ですから、精霊大陸との交易は当たりで!」
「んあ? ああ、美味しい食材多いもんね」
ああ。
シグヌイちゃんの力説で、気づく。
王国の食文化と、精霊大陸のそれって似てるんだ。
あまり凝った調理せずに、食材そのままの味を活かす。
なるほど?
オレが大好きな、帝国料理よりも。
王国民的には、精霊大陸の味の方が親和性高いのかね。
で。
更に、バカでかい交易輸送船が投入されてるから。
元々交易してたシグヌイちゃんの実家、大儲け中と。
では?
この和風料理って、親睦のつもりとか?
商売人してますねえ、シグヌイちゃんっ。
「今後とも、我が家をご贔屓に?」
「可愛いお嬢さんのお願いだから、オレ参っちゃうなあ」
お世辞には慣れてないのかな?
営業スマイルが、瞬時に真っ赤に。
照れまくってるご令嬢を肴に食べる、お昼ご飯は。
とても、満足でしたっ。
……さて。
夕方までに、学園に戻らないといけないんだけどな。
追試の予定がありまして。
試験監督、ラティーナちゃん。
──親父殿の助手だからか、めっちゃ厳しいんだよねえ。
あれ?
生徒会権限で、試験免除出来たりしないのかしらん。
「あ、その。通常なら、大抵の科目は免除なのですが……」
シグヌイちゃん、とても言いづらそうに。
いや、予想はついてたけど。
学園って、御母君が校長だもん?
御母君って、王族で公爵家で、宮廷魔術師で。
つまり、とても身分が高くて、偉い。
ラティーナちゃんも、親父殿と御母君の肝入りだし。
生徒会が、自治してるって言っても。
学園行事の何かなら、ともかく。
試験関係については、成績に関わる重大時だし?
免除出来るわけ、ないよなあ。
いやまあ?
予想はついてたけどさ。
願望というか?
希望くらいは、してみたかった的な。
「可能性としては、生徒会顧問のルコア先生に頼めば?」
「それ行ってみようっ!」
意外なところから、意外なツテがっ。
ルコア先生も、貴族だから。
親父殿の、家臣筋だったよな。
つまり。
王都内に、確実に屋敷があるはず?
緊急時に王宮に即時集合するための、配慮なんだっけ。
それはともかく。
ええと。
北方の人で、そこまで身分高くないから?
御母君の離宮の方じゃないよな。
あっちは王族クラスの地域だし。
ううむ、貴族街のどこかなんだろうけど?
「訪ねたことはありませんが、貴族区画の外れにあったと」
「よし行くぞぅ、すぐ行くぞぅ!」
「きゃあっ!? め、メテル様、私、自分の足で!」
「いやいや、シグヌイちゃん軽いから平気っ!」
シグヌイちゃんを、有無を言わさずお姫様抱っこし!
さあ、向かうはルコア先生ん家だっ!!
何故急ぐかって。
追試の時間まで、あと数時間しかないからだっ!
「メテル様……。私、使命を忘れてしまいそうです」
「使命って、何ぞ?」
「皆まで言わせないで、下さいませ……」
胸に顔、埋められちゃったよ。
たぶん?
貴族令嬢さんだから。
ご実家繁栄のために動く使命とかなんだろうけど。
まあ。
可愛いおぜうさんに慕われるのは、冥利だねっ。
……息子があれば男冥利なのにっ、しくしく。




