129話 シグヌイちゃんを籠絡した?
「メテル様……、本名はデメテルと仰ったのですね」
「愛称でいいよー、なんか呼びづらいらしいし」
てくてく、てくてく。
学園の正門へ続く通路を、シグヌイちゃんと二人並んで。
オレ、今日は放課後の追試まで特にやることがない。
ので。
なんか適当に、腹拵えしようか、と生徒会室から食堂に。
──行こうとしたら。
シグヌイちゃんが、王都案内してくれる、というので。
有り難く、お請けしましたのことですよっ。
だって。
美味しい和食のお店、知ってるって言うんですもの。
「ワショク? は知りませんが、帝国料理ですよね?」
「そうそう、それそれ。ご飯にお刺身、天ぷら芋煮~」
めっちゃ笑われたんですけど。
ていうか吹き出しちゃって、慌てて口元覆っている。
あははは。
どれどれ、手伝ってしんぜよう。
「え、あっ! メテル様、お着物が汚れまする!」
「美少女の顔を拭って汚れるなら、服も本望だよ」
だって衣服って、体を防備する布なんだからねえ。
なんかシグヌイちゃんが、めっちゃ赤面してる不思議。
いや、だって。
実年齢は、サラムと同い年とは言え。
背丈、オレの腹くらいまでしかないんですよ?
こんな小さな子。
甘やかしたくなって、当然でせう!
と。
ついでに。
「ひゃっ、きゃあっ!? め、メテル様?」
「出口まで距離あるし。こっちの方が早い」
軽く笑いかけて。
豪華な衣類がシワにならないよう、気をつけて。
……定番の、片方の肩に担ぎっ。
肩車のが安定性高いんだけど、スカートじゃ難しいから。
貴族なお嬢様のスカートって、意外とさらさらじゃない。
まあ。
風でめくれると醜聞になるから、防御力高いんだろな。
そして。
「う、わぁぁ! メテル様、私、お父様以来ですわ!」
はっはっは。
子爵令嬢シグヌイ様に於かれましては?
お喜び戴き、恐悦至極に以下略っ。
担いだまま、のっしのっしと正門への通路を。
きょろきょろと、シグヌイちゃんがあちこちを見回して。
普段ちっこいから?
肩に乗った視点、見るもの全てなんだか新鮮だって。
「メテル様、女性キラーっていう噂、本当でしたのね」
「誰がいつどこでその噂、流布してんのマジで?」
肩に載せたシグヌイちゃん、繋いだ手の汗が凄い。
緊張してるっていうか?
むしろ、全身から発熱してるかのような。
軽く見上げたら。
なんか、照れまくってるような感じの目が合って。
恥ずかしそうに、ふいっと逸らされた。
「め、メテル様が悪いんですよ? わたし、このような」
「いやオレぜったい普通の一般人だからして」
なんか今度は、ジト目で見下されてる。
えええ?
オレ、ほんとに普通ですよぅ。
くすんくすん。
と。
二人漫才しながら正門まで近づいたら。
セバスさんと、我が家の執事衆が。
なんでだ?
って。
「正門より外は、生徒自治の圏外ですので馬車にて」
「え、そうなの? オレよく出歩いてたけど」
「公爵家は規格外集団であります故に」
「人を化け物扱いするのはやめて欲しいんですけどー?」
人っていうか。
そもそもウチの家?
人外しか居ない気がしたんだが。
そ、それはともかく。
「家の馬車を出すつもりでしたのに……、恐縮ですわ」
「ウチの馬車も、乗り心地いいからね!」
オレがお店まで普通に担いでっても良かったんだけど。
なんというか。
『目立ちすぎ』
『人様のお嬢様』
『なんか間違いあったら困ります』
的なお話でセバスさんたちに説得され。
我が公爵家印の馬車に、シグヌイちゃんと二人で。
……間違いって、何をどう?
たまに、セバスさんたちは何言ってんのか判らなく。
「う、わぁ? 室内が涼しいのは、何故でしょう?」
「ああ、こことここに風の精霊石があって、空調をね」
向かい合わせの座席。
座席の足元から出た冷たい空気が?
室内を、くるりと巻いて。
それから、天井の石に吸い出されるようになっている。
なんか、気圧とか気流を計算してある配置らしい。
そこら辺は?
風の支配者、シルフィードの仕事だから詳しく知らん。
風の精霊力を封じた、精霊石。
何のことはない。
疑似精霊核、賢者の石。つまり、ミスリル製だ。
質量を無視して魔力や精霊力を溜め込む性質を利用して。
風魔法を、何種類か石自体に刻んであるそうな。
複合魔法自体が、我が家内部で秘蔵のオーパーツだから。
これ。
今んとこ門外不出なんだよね、そういえば。
ラティーナちゃんが。
一般向けレポート、書いてるんだっけ?
御母君と、共同で。
共同研究で認可出てから、市販量販品開発に移るとか。
技術研究っていうのも、大変だな。
なんでこんな、手間暇掛けるかって。
ぶっちゃけ?
オレら公爵家の人間は全員、魔道具暴走に慣れてるけど。
一般人のご家庭でそんなことになったら。
……大惨事ですね、完全に理解しましたハイ。
つまり、そういうことですので。
「これは革命ですよ? お売りになられるご予定は?」
「今んとこ無理なので、詳しくはラティーナ先生へ」
シグヌイちゃんが目を爛々と輝かせたけど。
商売人の勘が、これは売れるって告げたんだろなあ。
でも。
今んとこ、まだ無理なのでー。
なんかもっと、別の分野で。
手伝えることなら、手伝うからさっ。
「えっ? メテル様に魔法を使わせると、大惨事になると」
「誰だ言った奴、どちくせぅめ」
「ど、どちく?」
ああっと。
女の子の口からそんな下品な言葉は、めっですよ。
その後も、食事処に到着まで。
クロスサスペンションや油圧シリンダ、その他。
馬車の装備品に興味しんしんな、シグヌイちゃんでした。
そのうち暇見て?
我が家の整備班に顔出したらいいんじゃないかな。
魔道具関係で、いろいろ実験器具や試作品作ってる部署。
最初は執事衆や侍女さんズが趣味で始めた機械化部隊。
今じゃ。
そろそろ自動車が走るんじゃね、ってくらいに技術革新。
メカ趣味に、男女の区別はないんですよ。
だって。
浪漫だからっ!
「よく分かりますわ、メテル様!」
「そうか、シグヌイちゃんもやっぱり、こっち側か!」
ぐわしっ。
両手を固く、握手っ。
同じ趣味の友情って、尊いですね!
「これ、一般化したら幾らで売れるかしら……」
シグヌイちゃんのつぶやきは聞かなかったことに。
動機はともあれ?
貴重な、女子メカニック候補は優遇して然るべしっ。




