127話 生徒会に、誘われた
「勧誘に参りましたの、メテル様!」
「参ったんだよー、メテル姉!」
ユリちゃんはともかく。
サラム?
お前は誰に降参したのだね。
本日は、午前自習で午後補講、放課後追試な予定。
の。
お昼時。
自室でぐーたらしてたオレを、二人が。
「って、ちょっ、メテル姉!? なんか着て!?!?」
「突然訪ねて来るからだ」
そら、今の今までぐっすり寝てたもんよ。
全裸ですよ、オレ。
肌の衣擦れがイヤで、全部脱がないと寝れないんだ。
脱ぎ散らかした下着と普段着を、適当に、着る着る。
──午前の自習?
オレの指輪持って、リルが図書館出かけてる。
あいつ魔力感応金属の精霊だからか?
魔法全般に親和性高いらしくて。
自主的に、結構な頻度で図書館通ってんだよな。
黒と白の魔法に加えて、精霊魔法まで。
文献漁って、魔法博士かってレベルで修練中。
──シルフィとウンディに訊けば最速だと思うんだけど。
それじゃ、身に付かないから、って。
あいつ、意外に超くそ真面目さんだった。
ただ。
普段の態度がオレにイガイガなのは、何でなんだろうか。
昨日一緒にお風呂してから、更に避けられるように。
ううむ?
謎すぎる。
で。
オレの指輪には、ティーマが宿ってるからして。
……ティーマがリルと一緒に記憶してくれればっ。
オレが魔法を勉強したことと、全く同じことっ。
──カンニングの罪悪感ですか?
先日窓から投げ捨てましたけども。
そういうことで。
放課後の追試まで、暇なので熟睡していたところ。
何故か?
ユリちゃんとサラムが、揃ってオレの部屋まで。
「てか、よく迷わず来れたな?」
「朝から出たのに、ユリがあっちこっち迷走して」
「それは言わなくていいでしょう、サラ!?」
はっはっは。
ユリちゃん、方向音痴属性か。
オレと同じだ、仲間ー。
まあ。
ここの女子寮、元が高級旅館なんだっけ?
増改築繰り返して建物が無秩序に並んでるから。
慣れてても、分かりづらいよね。
オレもティーマの助けがなかったら、屋内で迷子必至。
そして。
オレ、休学してたので。
リルと一緒に、一年生棟に入ってるんだけど。
ユリちゃんとサラム?
寝てる間に年次を抜かれてしまい。
……妹を先輩と呼ぶって、なんか変な感じ。
二年先輩だから、ふたりは二年生棟に居る。
だから?
確か、敷地をぐるっと回って反対側だったっけ。
直線で見えない位置だし、迷う気持ちは分かる。
──行きたい方向に、道がない。
方向音痴にとって、それは試練であり、障壁。
こんど、シルフィにGPS作って貰おうかな。
あいつの権能、大気圏外まで行けたか知らんが。
超希薄だけど、衛星軌道上にも空気分子はあるんよね。
「で? 勧誘って、部活動か何か?」
「いいえ、メテル様? 生徒会に、入られませんか?」
相変わらず、見事で優美で優雅な挨拶。
ユリちゃん、さすが正真正銘の貴族令嬢。
右腕でサラムに関節技極めてるのは、見なかったことに。
「ちょっ、ちょぉっ、ユリ、極まってる極まってるぅ!」
「あんまり騒ぐと、落としますわよサラ?」
「わぁぁん!? ユリはボクが寝てると変なことするー!」
ちょっとしたスキンシップじゃありませんか。
ころころと笑うユリちゃん。
なんか、邪悪が透けて見えた気がした。
あの。
ウチの妹を、そっちの道へ誘わないで?
既に、いろいろ手遅れ感あるので。
属性、もう盛らなくていいのよ?
そして。
「生徒会……、なんて、存在したんだなあ」
「学園は生徒を尊重して、学内は自治されているのですよ」
ユリちゃん、滔々と説明。
ふんふん?
学校内では生徒会、女子寮では寮長と副寮長が。
それぞれで、自治を担当してるそうで。
通常業務としては備品の管理や施設の維持、だけど。
国内外の貴族が集まる魔法学園だから?
意外と、外交関係や貴族同士での摩擦があって。
そういう政治関係な処理?
通常なら、当然ながら国際問題になるところ。
学園内に限っては、政治や身分も含めて?
ありとあらゆる生徒間の問題については。
学生同士の、平穏解決を望まれている。
……らしい。
「お話は理解したけど。……なんで、オレ?」
「貴族のサラブレッドじゃございませんか、メテル様!」
さらぶれっど?
はい?
何の勘違いでせうか、ユリちゃんや?
って。
王族、国王な叔父上の姪で。
第一王女殿下、リズが従姉妹。
王国最高宮廷魔術師が、御母君。
王国最大辺境伯が、親父殿。
帝国の第三皇女、コチョウと知己。
精霊大陸に、太いパイプがあり。
四姉妹長女で、姉妹は全員最高レベルの精霊使い。
貴族としては、全員公爵令嬢。
ついでに、絶世の美少女。
……誰のことだ、と思って聞いてたが。
もしかしなくても。
オレか。
そ、そうか。
オレ、他人から見ると、そういう風に見えてるのか。
ごく普通の、一般人だという意識なんですけども。
「これは生徒会にお誘いしないわけには、行かないと!」
「行かないとー!」
サラム、可愛いけど。
お前、ぶっちゃけ何の誘いか全然理解してないだろ?
「ユリに任せとけば、間違いはないから! ──方向以外」
「要らんこと言うお口は、ここですか?」
「いふぁい、いふぁいユリぃ、引っ張っちゃらめぇ」
よく伸びるほっぺだな、サラムや。
ううむ。
お誘いの理由は、理解したが。
なんか?
面倒事が待ってる気しか、しないのは気の所為かしら。
「生徒会役員には、特権がありまして」
「ほう? 詳しく」
正当な生徒会の理由があればっ。
追試、ある程度まで免除されるんですってー!
わぁい、一にも二にも生徒会、ばんざーい!
「ふふふ。公爵令嬢、陥落ですわ」
「なんか言ったか、ユリちゃん?」
「いいえ、何も? では、生徒会本部までご一緒に?」
「行く行くー! いやあ、持つべきものは友だよなあ」
いいこと尽くしじゃありませんか、生徒会っ。
……先頭を颯爽と歩く、ユリちゃん。
背中が妙に煤けてるように見えるのは、何故だらう。
いとふしぎ。




