126話 リルをとろけさせてやった
「ふぃぃ。極楽である」
おっさん臭い?
中身おっさんですから、褒め言葉です。
──深夜、寝静まった女子寮。
源泉かけ流しな大浴場を、満喫ちぅー。
広々、無人っ。
いやぁ。快適ー。
……。
昨日は。
みんな入浴してる時間に、目隠しなしで入りましたら。
──湯船が、朱色に染まったんだよなー。
この眼力、割と自分が不便なので。
なんとか、したいところです。
「なんかアイデアないか、リル?」
『こっち見ないでよ、バカぁ!!』
湯船にぷかりと浮かぶ、銀色のスライム。
液体金属状態の、リル。
それ、内側に空気溜めてんの?
見た目は水銀っぽいから、なんか毒素持ってそう。
『毒なんかないわよ、失礼ね!』
「そーかそーか。初い奴め、近う寄れ」
『アンタのせいで、人型に戻れないのよ!』
はっはっは。
オレのお目付け役だから、つって一緒に入浴したリル。
目隠しなしの、素顔で。
目が合った途端に、液化しやがった。
なんか?
腰が抜けた状態と、同じらしい。
意外な弱点を見たぞ、リルよ。
問題は。
素顔を晒すと、リルは元より大多数が鼻血吹くことで。
まあ。
リルは同室だから。
風呂上がり。
寮内の部屋に戻ったら、また溶けることになるな。
『アンタ、目隠し外しちゃダメって言われてるでしょ!!』
「人目があるときはなー。お前は家族だから」
『かっ……!? リルはまだ、アンタを認めてない!』
んー。
警戒心全開な野生の小動物みたいで。
可愛いな、リル。
てか。
水銀なら、オレの権能の影響下なはずなんだけど。
どれどれ?
『きゃあっ!? 触っちゃダメぇ!?!?』
「おお。お湯で温まってるのか? 生暖かいな」
『どこに指入れてんのよ!? そっ、そこはダメっ!』
「どこって判別つくわけないだろ、スライムなんだから」
『はぁぅっ! ダメよ、ダメダメっ……!!』
何がダメなのやら。
液体金属なスライム状態なのに?
普通に触感、あるっぽい。
でも。
液体金属だから。
体に手を入れたら?
するするっ、と手の隙間から溢れてくんだよな。
溢れてくというか、必死で逃げてるっぽい。
けども。
スライム状態だからか、普段より動きが鈍い。
捕まえるのは、簡単。
……やべ。
これ、楽しい!
『アンタ、リルをどうする気ッ……、なのよぅ!』
「いやひたすらに楽しい。おお、体に流しても流れる」
『だから、アンタは地力が……、ああ、もうダメぇ……』
どうも?
オレのたれ流しな精霊力に、てきめんに反応してるぽい。
魔力感応液体金属、つってたっけミスリル。
濃縮魔力状態な、精霊力を手指から直に受けたら。
ひとたまりもなかったらしい、リル。
びくんびくん。
湯船に沈んだスライムリル、表面が痙攣してるみたいに。
これもこれで、ちょっと面白いが。
とりま、回収、回収っ。
さあ。
一緒のベッドで、仲良く。
朝までぐっすり寝ような、リル。
『アンタと一緒に寝るのは二度とやらないわ!』
昨日は腕枕してやった仲じゃないか。
『アンタが体中触るから、こっちは寝た気がしないのよ!』
ええ?
でも昨日は、全身痙攣させて堪能してましたよね。
『その指は凶器よ、凶器! 全身凶器ー!!』
ひでえ言われようだ。
しかし。
この警戒心全開な子を、屈服させる喜び。
ふふふ。
姉妹は全員、オレの指を受ける運命がだなっ。
『もう! パラケルスス様に、言いつけるんだから!』
「ごめんなさい、もうしません」
それをやっちゃあ、おしめぇよぅ、べらんめぇっ。
親父殿に怒られる事態は、全力で避けたい。
……既に結構やらかしてる気がしなくもないが。
だ、大丈夫さっ。
親父殿、普段からあんまり怒らないし!
で。
……リルが人型に戻るまで、更に一時間ほどを要した。
長湯にも程がある。
さあ。
ぐっすり寝たら。
明日も学校だー。
──二日目で既に行きたくないんだけど。
なんかこー。
もっと楽に授業こなせる方策、ないですかね。
て、いうかー。
明日は追試なんだよなー。
ああ、本気で嫌だなあ。




