125話 みんなオレを疑いすぎだと思う
「今日はリルとペアなんだからね!!!!」
なんでそんな意気込んでるんだ、お前。
え?
昨日のアレのせい?
親父殿と御母君が、オレと同室にした意味が分かった?
ふんふん?
拝聴しませう。
──オレを監視して抑制する?
はっはっは。
四大権能使えるからって。
リル?
それは、無理筋だぞ?
「昨日確信したのよ、あんたはいつかやらかすって!?」
「そんな、ごく普通で大人しいオレが一体何を」
──周囲の人たちが一斉に全力で首を振った。
なんでやねん。
と、いうわけで。
試験科目、【魔法の矢】。
開始でございます。
──いや、オレの順番、今日は最後らしいんだけど。
昨日は初っぱなからやらかして阿鼻叫喚したもんな。
今日は、他の子たちがペアで前の方から的を撃ってる。
呪文発動して、10メートルほど先の的に当てるだけ。
なんでペアかっていうと。
この呪文、もう少し習熟すると誘導弾になるらしく。
変な魔力の動かし方したら、明後日に飛ぶので。
それを撃ち消すためにペアになってるって。
──昨日は誰も止めてくれなかったもんなあ。
おかげで、手加減が判らず。
オレの精霊力ベースの魔力弾が、無尽蔵にオレを中心に。
……何百発出たか、数えてられなかった。
「リルちゃんが見ててくれるなら、多少は安心かなあ」
「そもそも君等、なんでオレを信頼してくれないかな」
試験官、ラティーナちゃん。
随分な口を利いてくれちゃいますねっ?
そんな、ジト目で熱く見つめられると困っちゃうなあ。
……いやまあ。
最初の出会いから、あまり変わらないか。
オレが寝てた二年の間に?
持ち前の努力邁進っぷりを発揮し。
いま彼女、親父殿の助手を務めております。
念願の親父殿付き、良かったね!
……錬金術の弟子にはなれてない?
いや、ラティーナちゃんならいずれ?
きっと、オレの妹弟子になると思うよ。
──でも、実力でオレを抜かないでね!?
本来は今の時間、親父殿の講義だったらしい。
今?
賢者の石と、精霊核関係の研究で辺境の黒白尖塔城へ。
あっちの方が、実験素材が揃ってるそうで。
関係ないけど。
リルも、あそこの実験室で生まれたらしい。
里帰り先も一緒とは、いつまでオレとセットなんだ。
「いい? 詠唱、掌相、発動の三段階を経るのよ?」
「うむ。そこら辺はティーマが了解しておるっ」
「アンタが撃つのよ!?」
オレの精霊力から魔力抽出して撃つんだから。
別に、いいじゃんね?
なあ、ティーマ?
《マスターの華麗なる術式、準備万端です!》
「それで昨日失敗したんでしょうが!!」
あ。
リルは精霊だから、ティーマが見えてるのか。
一応?
ティーマは妖精さんだから。
人間でも、かなり精霊力を感知できる人しか見えない。
……あれ?
じゃあ。
オレ、ティーマと会話してるとき。
一般人から見たら。
独り言、ひたすらぶつぶつ言ってる危ない人のこと?
「アンタが危ないのは、今に始まったことじゃないっ!」
「こんなごく普通の長女を捕まえて何を」
再び。
皆さん首も千切れんばかりに、ぶんぶんと首を。
そ、そんなっ。
オレ、傷つくわあ。
「だから、精霊力や地脈に依存しないの! 普通に魔力!」
「えー? 効率悪いじゃん」
「アンタは地力がケタ違いすぎるのよ!!」
核融合反応でお茶を沸かしてるようなもん。
とか言われたけども。
オレ、核融合は苦手だぞ?
核分裂なら一回試して、失敗したけど。
……撒き散らした放射能。
シルフィとウンディが頑張って除染したって言ってたな。
持つべきものは、麗しい姉妹愛。
「ほっといたら大陸中の生物が死滅するってシルフィ姉が」
「サラム。姉の失敗を追求しないのがいい妹だぞ」
さあ、試験しよう、試験。
前の順番も順調に終わって。
少しずつ、列が前へ。
真打ち登場っ、オレの番ですねっ!
──君等、なんでそんな全力で避難するかな?
今日はティーマに全部任せるから、失敗はないよ?
そんな、皆さん一斉にシールド作っちゃって。
やだなあ、無駄足ですよ無駄足。
さあ。
外野は置いといて。
集中、集中。
……的は、10メートル先。
地面に引いたラインの手前に立って、構えて。
別にオレ、掌相組まなくても良くね?
魔法の矢、っていうけど。
的の間に、障害物何もないんだし。
矢よりも、普通に荷電粒子砲でいいような気も。
ええと。
荷電粒子だから。
電気。
砂鉄を空気中でじゃりじゃりこねて、静電気を直列に。
砂鉄……、四酸化三鉄。ええと、Fe3O4か。
【錬成】っ。
うん、出来た出来た。
「ちょっとアンタ? 今、何したの?」
「ああ、いや別に。効率を考えて」
「ちょっとちょっと、アンタが考えるとろくなことに……」
《マスター、術式終わりました。いつでも発射可能です》
「よーっし、じゃあ、一発ぶわぁぁっと!」
「待ちなさいよ! なんで全身帯電してんのよ!?!?」
きゅぅぅぅぅぅん……、ずびぃぃぃんんん!!!!!
その日。
校舎の裏庭は、更地と化した。
「メテル様、追試です」
「的吹き飛ばしたじゃんー!?」
「【魔法の矢】の試験で、新術式作るのは失格です」
とほほ。
ラティーナちゃん、容赦ない。
そして。
皆さんの遠巻きっぷりが、更に輪を掛けて酷く。
ねえ?
オレ、全然普通ですから。
皆さん、もっとフレンドリーに接してくれていいのよ?




