124話 カンニングじゃないのか大きな疑問が
1,900ポイント達成でするー、ありがたやっ!
「あ、メテル姉! こっちこっち!!」
千切れんばかりに、ぶんぶんと手を振ってくる、赤娘。
……なんで学園内で赤マントなんだ、妹よ。
厨二病、治ってないんだな……、と感じてしまった。
男装の麗人ぽい、全身に張り付く黒革ラメの衣装。
その上で足元まである、真っ赤なマントですよ?
あと足りないのは仮面くらいかな、的な。
立派な厨二女子になってしまったのだな、サラム。
……映像残しておいたら?
正気に戻ったときに、悶絶するんじゃないのかお前。
映像記録媒体がないけど。
「起きたの感じたから、ボク急いで迷宮から戻って来た!」
「そりゃ有り難いが……、育ったなあ」
全力で飛びついてきたサラムを受け止め。
ついでに、くるくるーっと数回転。
いや、ほんとに重くなったな。
出るとこ出て、引っ込むとこ引っ込んで。
久しぶりに感度を確かめたいとこだけど。
オレらを微笑ましそうにルコア先生が、眺めてるので。
──後のお楽しみに、しておこうっ。
確か、同じ女子寮の別室だよな。
それは、それとして。
なんか、聞き捨てならないこと言いましたね、サラムや?
「あ、ボク15歳になったから、冒険者なったの!」
メテル姉と同じだねっ!
って、マジですか。
どんだけ寝てたんだオレ。
てか。
武術の天才なお前が、冒険者ですか。
あの、あのっ。
オレ、未だにEランクなはずなんですが。
サラムさん?
あなた、ランクは?
「ボク、いまCランク! シルフィ姉と同じー!」
「そ、そうか。C……、オレよりふたつも上……」
メテル姉が本気出したら、親父殿に並ぶから!
って、お世辞言われてもなあ。
親父殿、大陸唯一のSSSランク。
オレが並べるはずもなく。
だって。
オレ、あそこまで人間辞めてないから。
まあ。
最初から人間じゃないけどね。
精霊ですから。
「で? お友達、あっちに残して良かったのか?」
「あっ! あのね、ボクの迷宮の相棒なの!」
紹介するね! って。
駆け戻って、手を引いて連れて来る。
白ローブにワンド持ってるから、白魔道士の子かな?
サラムと同じくらいの歳の、娘さん。
礼儀正しく、カーテシー決めちゃって。
基本的に、学生ってみんな貴族の子なんだっけ?
じゃあ、この子もそうなのかな。
「ユリシーズ・フォン・ライエルバッハと申します」
公爵令嬢メテル様に於かれましては、ご機嫌麗しゅう。
挨拶、見事だー。
正真正銘の、貴族令嬢さんだー。
うわぁ。
そして、サラムほどじゃないけど、目鼻立ち整ってて。
美少女だわぁ。
サラム、どこでこんな子捕まえて来たのっ。
と、驚いていたんだけども。
「メテル様が、サラの運命の相手と聞き及んでおります!」
「……そうか、そっち繋がりか……」
ガチ百合の子でした。
サラムとの出会いから何から、根掘り葉掘り。
絵巻物を書くのが趣味で、オレらを主題に書きたいって。
全力で勘弁して下さい。
「さあさあ、そろそろ試験が始まりますよ、皆さん?」
「おっとっと。オレら行くけど……、サラム達は?」
「ボクらも、一応参加するのー!」
ほぉ?
冒険者やってるからか、黒魔法の授業は必修だそうで。
黒魔法って攻撃魔法系が多いから?
白魔道士のユリちゃんでも、覚えておいて損がないって。
でも?
サラムは火の権能使うから、別に要らないんじゃね?
「んとね、迷宮の中だとやっぱり火の精霊が弱くて」
「サラは一度にふたつのことが出来ませんので」
「あああ! 言っちゃダメなのにー!?」
ははっ。
ユリちゃんをがくがく揺するサラムが、年相応で可愛い。
仲のいい友達が、出来たんだなあ。
苦笑してるルコア先生に、背中を押されて。
さあ、黒魔法の試験だ。
──よろしく頼むぜ、ティーマっ。
《お任せ下さい、マスター。詠唱準備は、万端です》
オレは魔法さっぱり、からっきしだけど。
オレと一心同体なティーマが、代わりに詠唱出来るのだ。
つまり。
ティーマが、魔法を暗記していれば。
オレの精霊力を利用して、どんな魔法でも使える状態っ。
……ぜったいカンニングだよな、これ?
《マスターと一心同体ですから、役割分担です》
「そうか。それならいい……、んだよな?」
《私は問題ありません》
……。
なんか、釈然としないものが残るが。
校舎の裏手、土手を超えた先の、窪んだ試験会場。
その先に、他の学生たちが集っているのが見えてきた。
そこに。
一際賑やかな、女子学生の集団。
中心に、居るのは。
オレと同室、普通の女子学生を満喫してる、あいつ。
リル。
オレと目が合った途端に、鼻で笑いやがった。
こんのぉぉ。
……昨日はあいつに目に物見せてやろうとして。
めっちゃ失敗したから、なあ?
今日は、ほんとによろしく頼むぜ、ティーマっ。
《お任せ下さい、マスター。昨日の轍は、繰り返しません》
轍というか。
昨日の失敗。
黒魔法の基本、【魔法の矢】を撃とうとして。
魔力じゃなく、大地の権能をうっかり動かしてしまい。
運動場を、的ごと吹き飛ばし。
現状のすり鉢に変えてしまったのである。
「整地、どうしましょうねえ……」
「雨が降る前に後で均しておきます、申し訳無いっ!」
ルコア先生、苦笑するしかないようで。
アレのせいで。
オレ、いま地の権能使うの禁止されてんだよなあ。
とほほ。
自爆なんだけど。
リルに見下されてんのは、早急に何とかしたいのだっ。




