123話 先生にいじられてしまった
「つまり、黒魔法は物理に働きかけ、白魔法は……」
かりかり、かりかり。
周囲で、皆さん必死に。
タブレットサイズの黒板に、チョークでメモメモ。
の、中に、ぽつんとオレ、一人、座す。
いやあ。
なんかオレ?
これでもかってくらいに遠巻きにされてるんですけども。
学園って言うから、高校みたいなものを?
想像してたんだけども、なんかちょっと違った。
どちらかというと、大学の選択授業に近いかも。
時間分けしたコマに講師が来て、選択した学生が来て。
講義を聞いて、ひたすらメモメモ。
実技試験の講義やって、合格したら次の段階へ。
ここら辺は、自動車学校の仮免許試験に近いかな?
そんな感じで。
妙にシステマチックに、たくさんの学生が効率よく。
魔法に関しての、知識を貪欲に吸収ちぅ。
学生さん、つっても。
魔法が使える人間って、血筋的に貴族が多くて。
オレの周囲を遠巻きに囲んでる、坊っちゃん嬢ちゃん達。
皆さん、王国貴族の子息だそうです。
めちゃくちゃ遠巻きにされてるのに。
なんで、そんな詳しいことが分かるかって。
《マスターにメモを取らせる苦労など、させません!》
「ティーマはいい子だなあ。撫でてやろう」
《あふぅっ、羽根の付け根は弱いんですぅぅ……》
指輪に宿る、世界樹のしもべ。
ウチのティーマが、ありとあらゆる情報を。
何でもかんでも、記憶してくれてますので。
……。
これ、カンニングなんじゃねえのかな?
《マスターと私は一心同体、ですから外部記憶装置同然!》
「普通、人間はHDD持ち歩かないと思うんだ」
まあ、この世界まだパソコン存在しないけどさ。
……ティーマが代わりに記憶してくれる、っていう機能。
具体的にどうやってるのか、というと。
ある程度分類して、世界樹の年輪に刻んでるそうな。
物理的にどうこう、じゃなく魔法的な書き込みで。
それなら。
精霊と地脈のネットワークを利用して。
世界樹任せの記憶媒体を外に置いて?
ちび精霊使って情報収集したら。
──アカシックレコード。
星の全情報を収集出来そう。
《出来ますとも! 早速、エルデガルド様にも打診を!》
「いや、やってもいいけど用途が」
思いつきだったんだけどな。
ティーマ、エルを通信で呼び出して作業開始したぽい。
あの。
今のとこ、使い道がオレのカンニングしかないんですが。
……。
まあ。
あって困るものでもないし、いいのかな?
魔法的な知識に関しては?
シルフィやウンディにも頼めば。
より深い情報源……、というか、もはや魔導書並みだな。
それは、ともかくとしてだ。
問題は。
この後の、実践授業。
昨日、リルと一緒に出て。
……大失敗、したんだよなあ。
ああ、行きたくない。
「……テル様? メテル様?」
「ふぁいっ!?」
いかんっ、意識が明後日に飛んでいたっ。
気がついたら、周囲に誰も居ない。
先生、不審そうに居残りのオレを見てますね。
「皆さん、次の会場に向かわれましたが。メテル様は?」
「あ、オレも行かないと。ぼーっとしてました」
「では、ご一緒しても? 次の授業の講師に連絡事項が」
「もちろん。お手を」
「まあ、噂に違わず『紳士』でいらっしゃいますね」
うっかり手を取って先導してしまったが。
オレ、一応女子なんだから。
これ、男性がやることなのでわ。
黒魔法の講師さん、ルコア先生。
親父殿の遠戚で、弟子ではないけども同じ流派。
分家というか、家臣筋の家柄だそうです。
そして、兄妹弟子だそうで。
つまり、親父殿と師匠が同じ方。
でも、年齢は三十以上離れてるけどね。
五十代の親父殿に対し?
ルコア先生、ぴっちぴちの二十代。
黒一色のローブの上からでも分かる、ばんきゅっばーん。
大人の魅力、むんむんですねー。
で。
王国北方の出身なんだとか。
北方つったら、オレの大本、精霊石があったとこ。
地域的に割と話が合うので、授業以外でも仲良く。
……むしろ。
今んとこ、オレに話しかけてくる唯一の学校関係者さん。
この縁を逃したら、孤独な学校生活が続くかも。
こ、怖いっ。
前世でも、友達少なかったからなあ。
オレ、結構人見知りしますので。
話題が少ない、というか。
友達以前に、話が合いづらいんだよね。
つか。
噂って、どんな噂が流れてるんですかね。
本来、学園一期生になるはずだった、オレ。
なんか、大地母神の神像に瓜二つ、って話が広まってて。
大地母神の神殿の最上位、聖女って扱いにされていた。
……そりゃそうだろうよ、オレだもんよそれ!
女神像にされてたとか、誰に言っても信じなさそう。
オレ、寝てるとき完全に生命活動停止してるからな。
で。
新築した神殿の運営に関する諸々が忙しくて?
休学中、の扱いでした。
入学初日から休学中って、どんな状況なんだよそれ。
なお。
オレが抜け出た、神殿。
いま、女神像っていう御神体がなくなっており。
代わりに、オレを模した本物の石像、が飾られている。
……石像まで目隠しってどうなんだよ、的な。
てーいーうーかー。
オレが女神って、何の冗談なんだよちくせぅー。
聖女だとか女神の使徒だとか、変な噂が広まってるので。
オレ、学校内でひたすら遠巻きです。
誰も近寄って来ないって。
結構、辛いものが。
悔しいが。
生徒側で話するのは、……あの、リルだけだという。
リルの奴。
ミスリルの精霊、っていうオレと似た境遇なのに。
めっちゃ普通に、女子たちと仲良くなってるんだよなあ。
なんでそんなに、要領いいんだあいつ。
だがしかし。
親父殿の一番弟子な座は、絶対に渡さないんだからねっ。
「ふふ。意外に百面相でいらっしゃるのですね」
「ふえぇっ!? ……そんなに……、してました?」
「ええ、それはもう」
口元に手を当てて、ころころと笑う様。
ああ、ほんとに大人の女性だー、ルコア先生。
──うちにも一応、妙齢の女性、御母君居るんだけど。
外見が子どもだった期間が、長かったせいか?
成長した今でもなんか、妙に子どもっぽいんだよな。
アレはアレで、どこかに需要があるんだろうけど。
親父殿?
あの人は……、何というか、分かりづらいっ。
むしろ、他人を嫌うなんて想像出来ない的な。
「あら、パラケルスス様、結構な人嫌いですわよ?」
「えええ? そんなとこ、見たことないけど」
「愛されていらっしゃるのですね」
いや、そんな。
急に、変な話を振らないで欲しい、ルコア先生っ。
次の会場に着くまで、思わず。
全力で、言い訳しちゃったじゃないですかー。
ルコア先生?
意外と、いい性格してらっしゃいますねー。




