122話 異母姉妹が生まれていた
「まずはメテルさんに、お詫びしておきますね」
「え、何を?」
ふんふん?
親父殿、オレが寝てる間に。
なんと。
疑似精霊核を、【錬金】で作っちゃったそうで。
ティーマが宿った指輪を参考に?
賢者の石や、精霊核の材料研究とかを元にして。
……最後は割と力技で、錬成してしまったとか。
「疑似精霊核ですが……、賢者の石、と呼んで良いかなと」
「おお、ようやく完成ですねっ。喜ばしい……」
……ん?
喜ぶポイントだよね?
なんで、『お詫び』になるんだろう。
「で、【錬金】で成した賢者の石、なのですが。特性が」
──。
親父殿が、なんかちょっと焦ってる。
珍しいというか、オレが初めて親父殿を訪ねて以来でわ?
何が、どうしましたのこと?
と。
思ったら。
いつの間に現れたのか。
親父殿の腕に、がしっ、と抱きつく美少女が一人。
……。
むっ。
そこは、オレのだぞ。
いや、親父殿はオレのものじゃないけど。
特等席というかっ。
な、なんかムカつくんですけど!
こっちを見て、ふっふーん、なんて。
こまっしゃくれた、娘さんだなあ。
ええと。
親父殿?
どちら様でせうか。
「その、申し上げづらいのですが。ミスリルの精霊です」
「リルって呼んでね、オバさんっ!」
お前にオバさん呼ばわりされる筋合いは。
……ミスリルって、あの、伝説の金属的な?
「賢者の石ですが、つまり、ミスリルと同質という結果に」
「この世で最も優れた金属なんだから!」
え。
じゃあ、何ですか?
親父殿。
錬金術の、成果というか。
人造精霊を、作っちゃいましたのこと?
「作成過程のせいか、四大精霊に隷属していない精霊で」
「リルのご主人は、パラケルスス様だけなんだからね!」
……。
えー。
なんと反応したらいいのか。
本来は金属精霊なら、オレの権能の支配下に有る、はず。
なんだけど。
親父殿の研究室で生まれた、この世で初めての金属。
ミスリル。
ドワーフ族の間で、伝説だけは伝わってた、的な。
液体にも固体にもなって、硬度は史上最強。
それでいて、魔力の伝導性は超絶。
自己修復性を持っていて、質量が摩耗しない。
まさに、伝説の名に相応しい性質。
を。
親父殿が、独力でこしらえてしまいましたと。
そしたら。
必然的に、完全新規で精霊が生まれましたと。
そりゃ。
親父殿を、父と慕いますわな。
オレたち四大精霊と、体を得た過程がほぼ同じだもんよ。
え、じゃあ、なんですか?
異母姉妹、的な関係?
「厳密に言うと、金属なので地の精霊力がベースですが」
「リルは、水にも風にも火にもなれるんだから!」
言い終わらないうちに、全身を液体金属に変えたリル。
ちゅるんっ。
そんな音を立てて、体を変形させながら。
部屋中をくるくると。
飛んだり、気化したり。
なるほど、言うだけあるな。
全ての精霊力を、自在に使いこなしている。
火の権能にも親和性、あるらしいけど。
さすがに御母君の執務室内で火炎になるのは避けたと。
「それでね、メテルちゃん? ここからが本題なんだけど」
「はあ。妹が出来たのは分かりましたが」
「リルも生まれたばかりで、社会常識がないのよ。だから」
……。
あの。
この、こまっしゃくれた生意気なガキと。
一緒に、学園に通うんですか、オレ?
「女子全寮制で、同室だから! 姉妹で頑張るのよ?」
仲良くね!
って、いい笑顔ですね御母君。
……ハメましたね?
オレ、このガキのストッパー役じゃありませんか?
これだけ変幻自在だと?
大精霊級じゃないと、対応出来ないよね多分。
「リルは一人で何でも出来ちゃうけど? オバさんは??」
「お前に出来ることがオレに出来ないと思うなよっ?」
全力で地の権能を使おう、としたら。
親父殿と御母君に、切々とお願いと説教された。
なんでオレだけぇ、うえぇぇぇん。
長女って、ほんとうに辛い。




