120話 サラムに指輪を填めてやった
《これからずっと一緒ですね、マスター》
なんて、健気なこと言ってくるティーマ。
ていうか、なんか人間味増したような気がしなくも?
《敬愛するマスターのために勉強中です》
そのままでも可愛いよ。
……だから、顔の前を飛び回るのはやめて?
ものっそ、気になるから。
「ママの出港前に間に合って、良かった」
「苦労掛けたな。ありがとな、エル」
世界樹の迷宮、最奥。
以前と様子が打って変わって、普通に寛ぎ部屋みたいに。
エルがちょくちょく地脈で出てきて、着替えるからだ。
オレと一緒で、地脈経由で移動した先じゃ全裸だもんな。
──入り口からここに至るまでの、行程は。
オレとウンディが、ちょっとノリノリでいじったので。
正直?
Sランクパーティでも、到達は厳しいかも。
SSSランクな親父殿なら?
平然と。
罠や迷路を物ともせずに、到達するんだろうけどさ。
……さすがに、あんなに人間辞めてる人は想定してない。
ティーマが入ってた、疑似精霊核。
組成式は、ウンディとエルで解析済。
なので。
擬似核を小分けして、ついでにオレと結びつけてある。
オレというか、オレの地脈にね。
そういうわけで。
「これで、ママがどこに居てもいつでも捕まえられるの!」
《私はいつでもマスターのおそばに》
エルとティーマが、めっちゃ嬉しそう。
でもまあ。
エルはこっちで、ウンディと交易関係で忙しいから。
本体が王国の方に来ることは、あまりないかな。
一応?
親父殿が発見したっていう、世界樹の根っこ。
王国北方まで、ぐいぐい伸ばしてるので。
そっちから、本体が出てくることも出来るんだけどね。
……ただ。
全裸なエルが。
山奥で孤独に遭難してる状況は、全力で避けたいっ。
ティーマは、指輪に加工した擬似核に宿ってる。
これ、割とスグレモノで。
地脈と世界樹の根を結びつけてるんだよね。
なので。
ティーマの本体は、世界樹の迷宮に居るんだけど。
ここに居ながら、分身がオレに常に随行する状態。
それでいて、エルとの通信機にもなっている。
これはオレの精霊力をエネルギーにしてるから。
……ぶっちゃけ、距離無視。無制限。
あと。
オレでなくても、誰でも通信出来るんだよな。
まあ、人に貸すと、必然的にティーマも離れちゃうけど。
《私はずっと、マスターと一緒ですっ》
はいはい、拗ねないの。
基本的には?
おはようからおやすみまで、暮らしを見つめるティーマ。
そんな感じで、外す予定はないよ。
そういえば。
御母君と親父殿は、なんか専用の通信術持ってるらしい。
あれも指輪型だったな。
……あっちも、親父殿がいじったのなら。
惑星のどこに居ても、繋がるのでわ?
うわー、お熱いなあ。
「メテル姉、ボクも指輪、欲しいなあ」
「んあ? 擬似核はまだあるけど。精霊通信でいいだろ?」
これはティーマが宿ってる指輪だけど。
ティーマはオレに臣従してるから?
他人が着けても、通信用途でしか意味がない。
サラム相手なら、精霊核経由の精霊通信が使えるから。
サラムに指輪渡す意味って、あんまりないんだけどな?
「んーん、指輪も欲しい!」
「んー? まあ、すぐ作れるけどさ。……ほらよ」
「でね、でね……、ボクに、着けて?」
「はあ? 指輪くらい、一人で……」
「メテル姉に、着けて欲しいのっ!」
そんな、赤面して力まなくても。
なんだっていうんだ。
まあ。
この子が自分の欲しいものをねだるって、珍しいから。
それくらいなら、叶えてもいいんだけど。
なんてったって、可愛い末っ子だし。
……。
ほれ。
これでいいか?
いいのか。
なんでそんな、力いっぱい喜ぶのか。
左手の薬指って、なんか意味なかったっけ?
……内緒?
変な奴だなあ。
そして。
ティーマや?
それは一応、オレの妹なので。
殺意の波動を送るのは、やめておくれ。
エルも。
視線から殺気が出てますよ。
君等、一体ぜんたいどうしたっていうのだね。
「ママはほんっとに、精霊たらしだわ!」
「うふふへへへっ、ボク、メテル姉のものー!」
《マスター、私が敵は排除しますので》
たかが指輪程度で、なんでこんなに場が殺伐と。
謎すぎる。
──。
さあ。
後は。
……御母君に見つからないように、船に潜り込んで。
そして。
オレ専用の棺桶で、眠るだけだ。
オレ、地脈から離れると急速に眠くなるからな。
「メテル姉? 普通にベッドで寝てもいいんじゃないの?」
「前回それで、全力で着飾られたからな」
今回は、やらかしたシルフィは居ないけど。
……もっとヤバイ、侍女さんズが同乗するから。
向こうで起きたら、エライことになってそうな気が。
「お母さんが一緒に乗る時点で、もう諦めた方が」
「それを言っちゃぁおしめぇよぅ!」
棺桶には厳重に釘を打っておいて貰おう。
うん、そうしよう。
さあ。
王国へ、帰るぞー。




