117話 御母君は相変わらず鼻血を吹く
「ひっ、ひいぃぃ!? メテルちゃんっ、目隠し!?」
「変なこと、ラティーナちゃんに吹き込みましたね?」
ずい、ずずいっ。
久しぶりに素顔の、オレ。
体にぴっちり気味な、男装女騎士衣装にて。
息抜きに広場へやって来た御母君に、迫りまくり。
ラティーナちゃんは、迷宮関係の報告書整理で?
シルフィを追って、エルフの里へ。
オレも、後でサラムやウンディ連れて登らないとな。
シルフィが、本気で怒りそうだし。
「ていうか。今日は書類、妙に多いですね?」
現在は、オレと同い年くらいな御母君。
両手に抱えてた書類束が散乱したので、拾い拾いっ。
……一部、大量に鼻血が乗ってるんだけど。
まあ、許容範囲だろう。
誰が許容するのかは、知らんが。
「ダメよメテルちゃん、わたくしにはあの人がっ」
「分かってますがな、このらぶらぶ夫婦めっ」
めっちゃ赤面狼狽中の御母君の、お鼻を拭き拭きっ。
ついでに、腰抜かしたらしいので、お姫様抱っこ。
……余計、挙動がおかしくなったような。
え、目?
ああ、目隠しね。
そんな、両目でまじまじと見たくらいで、何を。
「ほんとにっ、他の子にこんな真似しちゃダメよっ!?」
「えええ? 言いつけだから、守りますけどー」
眼力光線でも、出てるのかねえ?
なんでそんなに、ぱたぱた倒れるのか不思議でならない。
いや、付けるのはいいんだよ。
でもね?
目隠ししたら、肉眼で前が見えないですやん?
なので。
常時、外部視点で自分を動かす感じになり。
気分は、プレ○テ版バイオ○ザード。
……犬の鳴き声で、ガチで表の様子を見に行ったなあ。
まあ、それはいいや。
そう、書類ですよ書類。
滞在してる王国の学者さんたちの、研究資料ですよね?
「こっちは違うの。ここに、精霊四氏族の街を作ることに」
「へえ? それぞれ、集落あるのに」
何でも。
学者さんたちが、現在エルフの集落に滞在してるけど。
エルフと違って風魔法にそこまで親和性がないので。
地上や他の集落と、往来が割と不便で?
その解消のために。
ドワーフに蒸気機関の、列車やエレベーターを頼んだと。
……ああ、アレか。
そんな依頼が、あったんですなあ。
魔法や地の精霊力を、使いまくれるから。
元の世界の中世と違って?
技術伝えたら、応用範囲半端ねえな。
エレベーター用のワイヤーとかも、錆びないもんな。
鉄の精霊が、常に精霊力満タンだから。
世界樹の枝に吊り下げて、運用テストちぅらしいが。
世界樹の枝も、そんじょそこらの鉄塔より強度高いし。
で?
理由。
それだけじゃ、ないんでせう?
それじゃ、学者さんたちの利便性しかないので。
「そうね、ここに冒険者が集うし、いずれ交易も始まるし」
交易自体は、オレが音頭取ったけど。
実質的には、水の大精霊ウンディが動かすんだよな。
交易用の船も、港湾設備の整備も。
水辺のダークエルフが、先頭切ってやってる。
……ああ。
なんか、分かった。
世界樹関係の作物の収穫は、エルがやってるけど。
場所は、この広場のずっと奥、北側。
港は広場の南側だし。
それぞれの集落の中間地点、ではあるけど。
常に、広場を通って目的地に行く状況なら?
「この広場周辺に、常在した方が楽でしょう?」
「そりゃ、そうですけどね」
広場、っていつも呼んではいるけど。
ぶっちゃけ、辺境のグレイパレス敷地面積と同等以上。
こんだけ広かったら、街のひとつも作れますわな。
ついでに?
精霊四氏族、それぞれで交流がもっと進んで。
精霊族が持ってる技術が、もっともっと進化すれば。
精霊族、今より更に栄えるんじゃないか。
そんな感じで、ウンディは構想してるらしい。
うーん。
あんなに、甘えっ子で泣き虫だったのに。
めっちゃ成長してるんだなあ、三女。
おねーちゃん、感心しちゃったぞ。
「そう? 動機は、一日中涼しい部屋で実験したいって」
上げて、落とす。
様式美ですな、御母君。
いっぺんあいつ、全身堪能してやろうかな。
自分の欲望のために。
動かすレベルが、おかしすぎる。
「あら、でも精霊族の技術力は、魅力よ? 娘様々ね」
そりゃ御母君は、王国の宮廷魔術師さんですもんね。
精霊大陸と、交易して。
作物の交換も、いいけど。
どちらかというと、技術力の交換に、着目してるのかな。
黒船レベルの巨大帆船とか。
蒸気機関に、精霊力頼みの冶金や精錬。
そこら辺は、精霊族の方が圧倒的だからね。
でも。
ただひとつ、疑問は。
……こういうのって、親父殿が真面目に働いたら。
殆ど、あの謎の魔導技術で何でも実現しそうだけど?
「あの人、ほんとうに自分の研究優先だから……」
御母君、苦笑。
解らんでもないというか。
辺境で魔法屋やってた頃も、そうだったけど。
親父殿。
金でも色気でも、全然釣れないんだもんなあ。
そういうところも、大好きだけどさっ。
「いちばん愛してるのは、わたくしよ?」
「はいはい、邪魔しませんから」
その、大いばりのポーズ。
オレと同い年くらいの姿でやると?
なんか、めっちゃ子供っぽいですよー。




