115話 女の子に壁ドンしたら泣かれた
「デメテル様ぁー!」
なんか、ごっつい野太い男臭い声で、呼ばれた。
世界樹の広場、交流の場。
どうやら?
オレらが、迷宮に入ってる間に。
ドワーフのおっさんたちが。
線路を引いて、蒸気機関車を走らせたらしい。
おもちゃみたいな、小さな機関車が。
鉱石輸送用だった、トロッコを引いていた。
……いや確かに?
蒸気機関を、与えれば。
そういうモノを作れるんじゃないのかな。
と。
思いはしたけど。
──。
昨日の今日ですよ?
早くね??
そのトロッコに、むさいおっさん、ガン積み。
全員、にこやかにオレに両手を振っている。
くすっ。
あっはっは。
全員これでもかってくらい、汚れまくって、ひげもじゃ。
ドロドロの職人さんたちが、口々に。
出来た、出来た、って。
あんな喜んでるの見ると、微笑ましく思ってしまう。
ああ、オレの教えた技術、役立ったんだなあ、と。
今後は。
ティーマがオレの権能、地脈経由で鉱脈を生成して。
そちらから、地系の素材は新規供給可能、だから。
オーガ族とドワーフ族で、協力して。
いろいろと、新技術、実用化お願いしまっす!
……オレ、技術系は素人だからっ。
機構や作り方なんて、詳しいことはさっぱりなのよっ。
そして。
「何故倒れる、エルフ女子よ。ついでにダークエルフも」
「あんたが野放図にそこら中で笑顔見せるからじゃないの」
素早く片手で目線を覆った、ラティーナちゃんが隣に。
いや?
なんか、御母君が。
『あなた達、学園に行ったら同じクラスなんだからね』
今のうちから、仲良くしなさい、って。
ワンセットで、追い出されてしまったのだ。
て、いうか。
オレにやたら突っかかる、ラティーナちゃん。
オレと一緒に、冒険者ギルド建設予定地に居ると。
なんか、空気ギスギス感がずっとあるので。
……原因二人を、纏めたかったんじゃないですか御母君。
まあ。
オレも、ラティーナちゃんとは仲良くしたかったから。
別に、いいんですけどね。
と、いうわけで。
まずは、お互いを知ろうっ。
「ラティーナちゃんっ!」
どんっ。
「ひ、ひえぇっ!? な、何よ!? 何なのよ!?!?」
……あれ。
アプローチ、間違えたかな?
おもむろに、壁ドン。
いやここ、壁がないから。
近所の世界樹の幹に、ドンっ。
今。
伸ばされたオレの両手の、間。
今までで最接近な、超絶至近距離。
なんか妙に狼狽した、ラティーナちゃんが。
あたふた、あたふた。
うわ睫毛長ぇ。
薄化粧の下に、うっすらとそばかす。
若い証ですねぇ。
何も塗ってない唇は真っ赤。
ついでに、お目々もぱっちり。
ほんっとーに、美少女だよなあ。
……これが。
コルトさんの愛娘さんだとは、到底信じられず。
「ちょっと! あんたの顔は凶器よ! 近づけないで!!」
「がーん。オレ、凶器……」
「主語をすっ飛ばさないの! 顔よ顔!」
「顔? こんな顔だよー」
「きゃああ!? やめてってばぁ!!」
じわじわと、上から覗き込むように顔を近づけるオレ。
徐々に、その場にへたり込むラティーナちゃん。
……。
やべえ。
楽しい。
と。
仲良くやってたら。
最後に、渾身の膝蹴りを股間に頂きました。
割と見事に、入りまして。
オレが男性の体だったら、ばっちり潰れてただろうなと。
が。
女性でも。
……痛いのは、普通に痛いんですよ。
「武闘家なお父さん直伝の膝蹴りなんだからね!」
「確かに。ソレだけ練度が半端なかった」
「練度。そう、練度なのよ……」
おや。
なんか、急に落ち込み。
いつも『虚勢を張ってる』感じが、半端ないので。
原因は。
場馴れ、してないからなのかな、と。
と、眺めていたら。
きりっ、と睨まれた。
その。
目の端に。
きらり、と。
光る、涙。
「公爵令嬢で、黒白双方の大賢者の娘だなんて! 反則!」
「いやそんな言われても」
「あんたにだけは、負けないんだからね!!」
「オレ自身が悪いんでせうか?」
……。
あ、いや。
オレが悪いことに、していいから。
さめざめと、泣かないで欲しい。
ど、どうすれバインダー。
助けてシルえもーん!




