113話 ダンジョンコアの精霊、名前はティーマ
「うーん? ママが教えていいと思うなら、いいよ?」
などと。
判断、丸投げにされてしまうなど。
餅は餅屋。
世界樹の迷宮なら、世界樹の精霊。
なので、エルを呼んでみたんだけどね。
「エルの体に、こんな場所があったのね」
「自分でも把握しとらんのかい」
「ママは、自分の頭髪の一本一本を全部把握できてる?」
言われてみれば。
精霊大陸の全土に根を這わすエルからしたら。
地中の、しかも枯死した根っこの管路なんか。
髪の毛レベルで、些細なことらしい。
むう。
しかし。
ダンジョンが形成されたからには?
ダンジョンコア、なるダンジョンを管理する核があると。
それが。
……オレらの目の前にある、輝く菱形の石なんだけども。
「めーねぇ?」
「どうしたのかね、ウンディくん」
「ネタ元が判らぬ。そうではなく」
安心しろ、オレも口をついて出ただけだ。
で。
ウンディが言うには。
──これ、精霊核の材料の一部、ではないかと。
……ああ、そんな話もあったね。
「めーねぇ?? 本気で、忘れてる?」
「大丈夫だちゃんと長女として覚えているともさ」
今の今まで、忘却してたなんて絶対に言わないから。
ていうか。
言われてみれば。
オレたちの体を構成する、精霊核と同質っぽく思える。
……同質なら。
もしかして。
オレの権能、通じますのこと?
そう思って。
軽く、手を差し伸べた。
ら。
「あっ。……めーねぇ、軽はずみ」
「は? 何がだ?」
「ママ、エルは許すから!」
「え? 何、オレ何かやらかした?」
きゅわわぁぁぁん。
びかぁっ、びかっ。
なんか急に、ダンジョンコアが明滅を始めた。
たぶん、普通の人間なら直視できないレベルの光量。
いま、普通の人間ってここに居ないけど。
漆黒の闇な、部屋の中。
オレら四人の影が、放射状に狭い部屋の中に伸びる。
と。
唐突に明滅が、止まった。
それと同時に。
くるくると回転していた菱形の核が、ゆっくりと止まる。
そして。
継ぎ目も判らない核の一部分が、ぱかり、と開き。
……小さな。
小さな、妖精のような、羽根を持った女の子が。
ふよふよと。
オレに向かってまっすぐに飛んで来たんですけど?
「めーねぇ? 人たらし、いや、精霊たらしも極まれり」
「……は? もしか、これって」
「ママこれ、世界樹の、ダンジョンコアの分身体なの」
ふよふよ、ふわふわ。
いや、顔の周りをくるくる飛ぶのは、やめて?
大きさ的には、オレの手のひらサイズかな?
エルもちびっ子だけど。
そこから更に、小さな精霊。
意識のないちび精霊と、エルの間の子、的な?
「この子はほんとに、このダンジョン内でだけ力があるの」
「ああ、ダンジョンマスターみたいな」
「ママ頭いい。そういう感じの子。でね?」
え。
オレに、恭順してますって?
なんでまた。
……。
はあ。
世界樹の精霊エルデガルドが。
そもそも、地と水の子だから。
オレの権能を通じて、地に属したと。
「我の子としても良かったのに。めーねぇは欲張り」
「いや欲張りって言い方は、違くない?」
ううむ。
一応、御母君に報告だけは、しておくけど。
……他の冒険者が?
こんな小さな子と戦う、みたいな状況は、避けたいな。
「エル? この子、ダンジョン内を改築出来たり?」
「出来るっていうか、それしか出来ないの」
「ああ、ほんとにダンジョンマスターなんだな」
持ち物が重くなったら前に投げながら進む、古典の。
……古すぎて誰も判らないよな。
いや、そうではなく。
今のダンジョンだと、魔物は多くてもほぼ一本道だから。
この子の自衛のために?
ダンジョン自体を。
割と高難易度に、作り変えた方がいいかなと。
この部屋も含めて?
ここまでの通路も、無酸素だったけども。
酸素がない状況くらいだと。
……酸素生成とか空気移動とか、そんな魔法で。
ラティーナちゃんレベルでも。
工夫したら、到達出来てしまう気がする。
「めーねぇ? 何か、面白そうな話が聞こえた」
「お前も権能、使え。ダンジョン改造、するぞー」
ふふふ。
ダンジョンに潜ることはあっても。
ダンジョンを好き勝手に改造する、とか。
そうそう、出来るもんじゃないからな。
「ところで? めーねぇ、材料については」
「あ。そうだ、御母君も素材調査って言ってたっけ」
そこんとこどうなの、ちびちゃん?
……呼びにくいな、ええと、名前。
ダンジョンマスターだから、ダンマス。
女の子の名前でそれは可哀想なので、却下。
ええと。
Dを柔らかくTに替えて。
ティーマ。
いいんじゃね?
お、喜んでくれてるな。
じゃあ、君はこれからティーマだ。
よろしくね。
《命名を了承。これより、ティーマの名を拝命します》
おおぅ。
急に流暢に喋るようになったな、ティーマ。
名付けの影響?
オレと、精霊力のパスが繋がった?
へぇ、魔法には詳しくないのでよく判らんが。
どうせ有り余ってるので、どんどん持ってっていいよ。
《マスターのご意向に沿うよう、努力致します》
うんうん。
ちょくちょく遊びに来るので。
特産物な、迷宮素材とか。
融通、してくれよー。
「めーねぇ。我、この核を持ち帰りたし」
「ああ。精霊核に似てる、つってたな」
ティーマが入ってた、菱形の核。
地の権能を流した感じ?
厳密に言うと、微妙に組成が違う感じがする。
んだけども。
水の大精霊、ウンディーネが利用すれば。
なんか、利用の用途があるんだろう。
ティーマ、持って帰っていいかな?
《マスターのお好きに》
……喋りと動きが、物凄くアンバランスだなティーマ。
だって。
妙齢の女性っぽい事務的な喋りなのに。
オレの周囲を、全力で嬉しそうに笑顔で飛び回ってる。
《マスター、お慕い申し上げております》
「メテル姉はボクのなんだから!」
オレはお前の持ち物じゃねえよ、サラム。
誰にでも嫉妬するのは、そろそろやめなさいっ。
そんな感じで。
世界樹の迷宮、踏破完了。
後は、下で待ってる御母君と合流して、帰るだけだな。




