110話 敏感肌なんだから、あまり触るな
「ふふふ。この時を、我、待ち望んでいた」
「お、お手柔らかに?」
わ、割とオレ、ドン引きなう。
……いつもの通り、お風呂は作れましたとも。
まあオレ、掘るだけだし。
水を満たしたのは、水の大精霊ウンディ。
で。
後は、火の大精霊サラムがお湯にするだけ。
だったんだけども。
「うー、やっぱり効き目薄いー」
って、サラムが言うし?
いくらなんでも、さすがに迷宮内で全員一度に入浴、は。
……危ないよね、危機管理的に。
なので。
「じゃ、メテルちゃんは向こうで入ってねー」
御母君、なんでそんなにこやかに。
……交代制、というのは分かるんですよ。
オレとウンディ。
サラムと御母君。
マークさんとラティーナちゃん。
ペアで分かれて、交代。
なんですけど。
なんでオレらだけ、湯船がないんですかねえ?
「我の権能の前には、湯船など不要」
「腕だけスライムに戻して、うねうねさせるのはやめろ」
めっちゃ、見た目が不気味だ。
……あれ?
お前、もしかして。
普段から、全裸なのか?
「裸身に近くはある。衣類の大半は、スライムの変化形」
「やーい露出狂ー」
「そうではない。我は外見を偽りの体にて」
「ねえどんな気持ち? 常時裸でどんな気持ち??」
……。
妹を、いじりすぎた。
無言で、オレの衣服の中に。
ウンディの腕が、侵入して来たし。
──。
ちょっと待てこら。
どこ触ってんだっての。
「スライムの特性は食性。粘液質の腕で汚れのみ食す技」
「だからって……、あふんっ、執拗に敏感なとこ」
「ふふふ。めーねぇが姉妹を触りまくる気持ち、共有」
いらんこと覚えんなっ。
この、服の中を暴れまくる腕が、また。
……妙に、局部を執拗に触って来やがるんだよ。
なんだか知らんが。
ぞくぞくと。
悪寒めいた刺激が、脊髄を通って上がって来る。
──変な声が、出ちゃうだろっ。
って、いうかですね。
ウンディさん?
オレ、地の大精霊だからして。
そもそもですけども。
──新陳代謝、してませんのことよ?
「うむ。新しき技の練習台に、不足」
「なんかそういう言い方されると、妙な不満が」
「めーねぇとはまた別途遊ぶ。次は……」
別途って。
オレにナニをする気なんだよ一体。
そんなわけで。
問答無用気味に?
ラティーナちゃんが、実験台になっておりました。
……。
痙攣するまで触ってんじゃねえよ。
それは、長女の特権なんだぞっ。
「ラティーナ? 気を強く持ってね……」
「はあっ、はあっ。奥方様、これは報酬を上乗せしても?」
妙なところで守銭奴気味なラティーナちゃんだった。
そして。
お風呂を作ったのは、階層を跨ぐ通路だったんだけど。
……あれ?
先に進むにつれて。
なんか?
オレの権能が、弱まってるような。
「あら、そうなの? さっきから、微妙に登ってるのよ」
「へ、へえ? ということは、枯死した根の中なのかな」
オレの言葉で、壁を調べだす御母君。
ラティーナちゃんも、助手みたいに後に続いて。
ラティーナちゃん、親父殿の弟子になりたかったらしく。
そういえば、黒魔道士だったもんね。
その流れで、御母君も尊敬してるそうで。
「……貴方みたいな、魔術の落ちこぼれとは違うのよ」
「ハイ。オレ、確かに魔術素人ですから」
うーん?
妙に突っかかる割に。
言動をスルーすると、また更に勘気に障るみたいな。
年齢、いくつだったっけ。
構われたい、お年頃なのかなあ。
と。
のんびりしてたのは、そこまで。
「警戒態勢! なんか、やべえぞ!」
マークさんの声で、パーティにさっと緊張が走る。
御母君とラティーナちゃんの居る、壁際の、先。
そちらから、ナニかが歩いて来るのが、見えた。
「樹人? いえ、でも、動きが」
「速ぇ!? 数も多いし、手数が凄え!!」
御母君が、疑問符つけながらも、後退。
場所を入れ替わったマークさん。
片手剣に盾で、素早く応戦中。
軽装備なのに、盾役させちゃって申し訳ない。
こら、ウチの妹はナニやってるですか。
「メテル姉、火の権能が動かない!?」
は?
お前、大精霊だろう。
周囲からいくらでも、精霊力奪って着火出来るだろうが。
「めーねぇ? 空間がおかしい。精霊力が、吸われている」
そういうウンディも、水の精霊力を練りにくそうな様子。
さっきまで大量に水性の魔術、使ってたのが。
今は、数本の水槍を出すのが、精一杯みたいだ。
手数が足りなくて、体の一部をスライム化させている。
あれれ?
もしかして。
オレら、急に大ピンチですのこと?
「戦線が崩壊するわよ! 中衛、頑張って支えて!!」
あ、はい。
中衛って、オレとウンディでしたね。
じゃあ。
御母君の、お許しが出たことですし。
いっちょ。
頑張ってみますかねー。
「メテルちゃん、肉弾戦禁止だからね!?」
……えー。
そんなあ。
で、でもっ。
オレだって、新技、作ったんだからねっ。




