108話 迷宮の入り口って、どこだっけ
「ほーら、アネモイちゃーん? お祖母ちゃんですよー」
きゃー、きゃっきゃっ。
御母君。
全力、孫を可愛がり中。
……一応、シルフィの子供みたいなもんだから。
孫、で合ってるよな?
五つ子、なんだけども。
精霊力の溜まり具合に、個人差があるみたいで。
今んとこ。
長女のアネモイと、四女のフラカンだけが人体形状に。
他の三人は、まだエルの幹の中だ。
「いやぁん、にぎにぎしてくれるの? 可愛いー」
モロー反射ですね。
赤ん坊の手のひらに物を当てると、反射的に握るやつ。
てか。
風のちび精霊だけども。
シルフィが赤ん坊だったら、こうなるんだろうな。
ってくらいに、マジそっくり。
……全員、カイルくん要素ゼロなのが、また。
「えっとえっとえとえと、一応、二人の子……なのよ?」
フラカンを抱っこしたシルフィが、照れまくりで。
なんか、幸せ満喫中、みたいな雰囲気。
妹が幸せそうだと、オレも嬉しいぞ。
ただ。
問題は。
「こっこっこっ、困ってるんだけどアタシ……」
「シルフィちゃんはお留守番ね? 子供の世話しないと」
「ふ、ふえぇ。おねーちゃんと冒険したかった……」
いや、オレも一緒に行きたかったけどな。
さすがに、乳児ほっぽって母親を迷宮に連行は。
オレら、人非人みたいじゃないですか。
育児、自身ない?
大丈夫だ。
その道のプロっぽい、侍女さんズが到着済みだから。
……。
シルフィが子供作ったとか、知らなかったはずなのに。
その哺乳瓶とかおしめとか、どこから出しましたのこと?
有り合わせの材料で、作った?
侍女さんズ、マジぱねぇ。
しかし。
残念ながら。
その子たち、一応、風の精霊なので。
哺乳瓶は、たぶん使いませんのことよ?
……おしめは使うかもです。
はい。
では、よろしくお願いしますね。
「ちょーっ、フラカン!? おっぱい、出ないわよぉ!?」
「気合で絞ったら出るんじゃないのか?」
「絞れるほど質量が……、って悲しいこと言わせないで!」
やぶ蛇であった。
オレほどじゃないけど?
シルフィも、単独で精霊力結構持ってるし。
傍に居てやるだけで?
他の子も精霊力、溜まるんじゃないかなと。
「帰って来るまでには、全員でお迎えしたいかなあ……」
「楽しみにしてるぜ。じゃ、行って来る」
「おねーちゃん、ほんとのほんとに後衛やってね!」
何度も念押しすんな。
はい。
迷宮探索ですけども。
オレ、一応「錬金術士」の肩書きも、ありますので。
……今回は、棍棒使いではなく。
後衛、錬金術士で参加、と相成りまして。
「メテルちゃん前衛にしたら、惑星が滅ぶから」
「はっはっは。そんな御母君、大げさな」
冗談でもなんでもない、みたいな目で。
姉妹全員から注目された。
なんでやねん。
と。
そういえば。
おまけも、ついてるんですよね今回の探索。
「狼牙と真牙の見せ所が来たぁ!」
「……めーねぇ、どうしてこんなになるまでほっといたし」
いや、気がついたらそうなってたから。
お前の双子の妹だろう。
今回、ほんと変則パーティで。
前衛、戦士マークさんと剣士サラム。
中衛、錬金術士オレと精霊使いウンディ。
後衛、白魔道士御母君と黒魔道士ラティーナちゃん。
……なんと、六人中五人が術使い。
「……こんな豪勢なパーティ、滅多にない」
「事前探査だし、多少はね? お勉強も兼ねてるのよ」
うん、ラティーナちゃんや、御母君の言う通り。
冒険者ギルドに所属してないウンディやサラム居るし。
それぞれ、経験値貯める、みたいな意味があるそうで。
あと。
王国の公務ってことで。
一応、公爵令嬢なウンディとサラム。
貴族特権で?
冒険者ではないけども、探索に参加しております。
「あの人の話だと、浅い階層から精霊力が満ちてるって」
うん、そう。
魔力の数倍から、数十倍。
エネルギーにすると、そんな威力になる精霊力。
その、濃密な精霊力溜まりから発生した迷宮、なので。
……御母君が求める、良質な素材がたくさん?
あるんじゃないのかなあ、って試算でしたね。
「元々はメテルちゃんの要求だって、忘れてるでしょ!」
「いやオレもウンディも、現状困ってないので……」
「あの人の研究のためでもあるんだから!」
そういえば。
親父殿、賢者の石を作る研究してましたね。
──ご、ごめん。
完全に、忘れてた。
と、とにかくっ。
未踏迷宮、世界樹のダンジョンへ、いざっ。
「ところで。入り口は、どこなの?」
「ええと? エルに訊いた方が、早いかなあ……?」
締まらない始まりだった。




