102話 エルの出自が判明した
説明回のようなもの、です。
エルデガルドの性格形成経緯、的な。
海岸へ行く途中の経路に、ダークエルフの集落があった。
ダークエルフは、水の精霊族。
新大陸にたくさんある川の付近に、集落を構えている。
ここは、そんなダークエルフ集落のひとつ。
……そして、抱っこしてるエルに、関係がとても深い。
オレらの左手に世界樹の根が、空中に張り出している。
元々は土があったのが。
根っこの脇を流れる川の滝が後退するにつれて?
自然と土も海へと流下してしまい、根が露出したらしい。
その坂を下ると、川の左右に分かれて集落がある。
川のそばなので土地がとても肥沃で、畑作が多いぽい。
川自体にも、どうやら漁をしてる様子がある。
集落の中は、当然だがダークエルフしかいない。
その男女が、それぞれの場所で忙しく働いている。
通りすがりなのに、みんなで挨拶してくれて、恐縮。
確かに、大精霊なオレだけど。
他と違って寝ぼすけ長女で、ごめんよ?
「まさか、大精霊様に、とんでもない!」
「我が子エルデガルドを連れ帰って下さった恩人ですのに」
精霊族って、見た目で年齢が判らないんだよなあ。
妙齢二十代くらいの男女、に見えるけど。
この集落を代表して、出迎えてくれた方々。
これが、エルの身体上の父母なんだろう。
なんでも、ほんとは上にもっと偉い元老院があったけど?
ウンディの采配で、どっか遠くに飛ばされたんだとか。
……飛ばされたって、左遷の意味なのか物理なのか。
まあ、ウンディの支配下種族だから。
詳しくは、聞かないでおこう。
うん。
主に、オレの心の平穏のために。
エルが移動したがったので、そっと身柄をそちらへ。
こうして甘えてると、普通の幼女なんだけどなあ。
──その正体は。
幼女の体に世界樹の権能を宿す、人工精霊。
……の、一種なんだよなあ。
いや、人体実験、って言えばそうなんだけど。
あらましは、こうらしい。
生まれてすぐに難病を罹患したエルデガルド。
水の精霊族、生命治癒術に優れるダークエルフたちが?
総力をして、直せない難病。
そういうわけで。
最終手段。
『愛娘の体に、生命力溢れる世界樹の精霊力を、直接流す』
という、暴挙。
オレとウンディの、大精霊の精霊力が、混じって。
それが大陸全土を覆うレベルで、活性化した世界樹。
その精霊力を?
いくら精霊族で、精霊力と親和性高い、つっても。
エルデガルドっていう、幼女に通すなんて。
で。
まあ。
結果論として。
成功しちゃったわけだけどね。
確かに病魔なんか存在できないレベルで身体活性化した。
ただ。
世界樹が元々育んでいた、記憶。
オレらを親として慕う気持ち。
それが、幼いエルの大半を占めて、塗り潰した。
だから。
エルは、最大の精霊力を持つオレをママって呼ぶわけね。
……世界樹と部分融合した影響であって。
君の本当のパパとママは、このお二方なんだよー?
「今は、幼すぎるので記憶が混同しておりますが」
「もう少し育って娘本人の自我が生まれれば」
自然と、記憶を整理して?
エルデガルドと、世界樹。
二者の区別がつくようになる?
そんな話で。
オレ、正式にエルを預けられる。
……いや、なんでオレがほんとの父母さん公認で育児を。
オレ、そんな要望してないんですけどぉ?
「ママは、エルと一緒は嫌い?」
「嫌いなわけないだろ」
むにむにー。
よく伸びるほっぺだなあ。
キャーキャー、子供特有の甲高い声。
叫びながら、オレに抱きつくエル。
確かに可愛いけど。
こんな可愛い盛りの我が子を、手放していいの?
「この里に居ると、利用されてしまいますので」
「私どもでは、エルデガルドを守りきれません」
ああ。
例の、人間族を攻撃しようとした実験みたいな。
未熟なテレポートで、帝国南岸にエルが転移出現した。
そっちのも人体実験だよなあ。
世界樹の分身化したエルなら?
死なない公算が、いちばん高かったんだろうけど。
実験材料として使われるよりは?
正式に世界樹の分身と認識されて。
それで、オレらの誰かと一緒に居る方が……。
エルデガルドというダークエルフの幼女にとって?
いちばん、安心なわけね。
「ママ、エルをいちばん幸せにして?」
「だから誰から聞いて来るんだよ、そういう口説き文句」
エルのおとんとおかんが、超赤面しまくっている。
ああ。
これ、もしかしなくても。
エルの父母の、日常会話的な、アレか。
エルの中でいい具合に混ざって、会話に出るのね。
てか、プロポーズの言葉っぽかったぞ?
幸せな思い出として何度も語って聞かせた?
胸や尻、揉みまくるのも。
家の中で、お父さんよくやってたんですね?
……お父さん、お母さん。
エルデガルドは確かに、あなた方の娘ですよ。
しっかり、「マトモ」に戻せるよう頑張りますね?
「ママぁ、エルのハートに火をつけるの?」
「道のりは長そうだな」
ダークエルフも、オレらほどじゃないが長命らしいし。
気長に行こう。
さあ。
海岸までは、すぐだ。
ダークエルフたちも、手伝ってくれるっていうし。
輸送艦、ぽこぽこ作るぞー。




