100話 仲間外れにしないで下さい
「子供は何人居ても、可愛いものですねメテルさん」
にっこにこ。
親父殿の、全開の笑顔って割と、珍しいかも。
いつも、糸目で薄く微笑んでるもんな。
農作業の途中で呼んできた親父殿。
腕まくりで下半身は泥でどろどろ。
なんか、農業満喫してません?
「農作業は実践の連続ですから、楽しいんですよ」
「重力魔法で畑掘り返しまくってたよね」
「あはは。エルデガルドさんが、広範囲を開墾して良いと」
地脈越しに開墾予定地まで行ったら。
昨日まで確かにあったはずの山脈が?
ぽっかり数十キロメートル四方、平野になってた。
何をどうやったら、あんな正確に山を吹き飛ばせるのか。
親父殿、やっぱり人間辞めてると思う。
山ひとつ吹き飛ばすくらいは、オレでも出来るけどさ?
正四角形の平野をいくつも並べるとか、無理です。
天才って、ほんとに桁が違うよなあ。
なお。
新しく作った畑。
エルが今、嬉々として根菜を植えてるとこらしい。
後で、オレも手伝いに行こうかな?
しかし。
そろそろ、カイルを許してあげて欲しいんですけど。
ていうか今回、カイルは悪くなくね?
「連帯責任ですよ。夫婦になるんだったら当然でしょう?」
正座させられてたシルフィ。
親父殿の一言で、ぱっと目を輝かせて。
瞬時に。
全身真っ赤の茹でタコになりやがりまして。
あっ、まぁぁぁぁい!
その向こうで。
親父殿の、真っ黒な重力球体に潰されてたカイルも。
……目を輝かせたように見えたんだけど。
親父殿ー?
カイル、悶絶したっぽいですよ。
「おや? こんなにも弱いと、許可出来ないかもですが」
「アタシがぜんぜんぜんっ、全力で鍛えるから!」
「ほう? 私に勝てるくらいでしょうか」
「うっと、無理かもだけど、とにとにとにかく頑張る!」
勢いよく立ち上がろうとして。
足が痺れて倒れ込んでる辺りが、何かシルフィらしい。
しまらねぇー。
て、いうかね?
カイルくんが鍛え上げられることが?
本人悶絶中に、確定しておりますが。
「親父殿? あんまし、いじめないであげてよ」
「何のことですかね」
くすくす笑ってる親父殿。
ただ。
くわっ、と開いた目が怖いんですよ。
娘を取られた仕返しで、スパルタ教育する気でわ?
しかも。
「あし、あしあし足がぁぁ。。。何、めーちゃん?」
「いや。あのな、カイルは普通の人間だからな?」
「う、うんっ。いつも優しくて可愛くてかっこいいの」
「甘ぇぇぇぇ! ところ構わずのろけてんじゃねえ!!」
そうではなくっ。
鍛えるのは、他人事だから別にいいけどっ。
……オレらと同じ扱いすると。
間違いなく、そっこー死ぬる、ですよカイルくん。
そこんとこ分かってんだろな、ほんとに?
「えっ? じゃじゃじゃあ、成層圏まで飛ばしたりとか」
「酸欠と気温マイナス60度で凍死するわ、どあほう」
まだ親父殿に任せた方が安心できるわっ。
……親父殿、生殺しする気満々みたいな気がするが。
まあ?
カイルも、一応は風の精霊殿信徒で。
風の精霊魔法については、それなりに知識あるし。
そっちを重点的に鍛える方向で、お願いしとこう。
……オレがお願いするのも、何か変な感じだが。
そうでもしないと?
カイルくん、成婚前に壊れそうな気がしてならないので。
で。
「ここで会ったが百年目っ、パパ、勝負!」
「そういえば、最近はサラムさんともご無沙汰でしたね」
「桜花繚乱! 疾風炎武!」
「もう少し、体幹を鍛えた方がいいですよ?」
「円撃炎鬼! 紅彩火砲!」
……サラム。
聞いてるだけで、なんか赤面して来るので。
そろそろ、正気に戻ってくれ。
姉妹の中で、唯一素直でまともに育ったと思ってたのに。
こんな、重度の厨二病に目覚めてしまうとわ。
「わぁん!? なんで、当たらないのぉ?!?!」
「当たったら私、死にますからね? サラムさん」
日本刀振り回して父親を切り刻もうとする娘。
傍から見てると、ものすごくヤバイ絵面だなォィ。
まあ、親父殿が?
体の周囲に飛ばした重力球で、刀を弾いてるから。
当たる気配、全然ないんだけど。
ってか。
親父殿、肉弾戦も相当に、強いですね?
……う、うずうず。
あの。
オレもそれ、混ざっていい?
「「絶対にダメ!」です!」
ぇぇぇ。
なんだよ二人して。
キレたら記憶が飛ぶから、ダメ?
そんな。
オレ、こんなにおとなしくて、普通なのに。
オレキレさせたら、大したもんだよっ。
だから、ね?
ちょっとだけ。
ちょびっとだけ。
「「無理!!」です!!」
ふえぇ。
家族が、いじわるだー。
しくしく。
いいもん。
エルのとこで、大人しく畑、手伝うからっ。




