01話 始まりの記憶
元男性で岩に成ってしまった主人公。
彼にはいったい、どんな世界が待っているのか。
彼の面白おかしい? 今後の身の上話を、どうぞお楽しみ下さいませー。
『……!?』
びっくりした。
そう、其れは驚愕に慄いていた。
周りは清浄な空気が漂っている。
青い空が見える。
水のせせらぎが聞こえる。
峻厳な岩場に居るらしい。
水音に混じり、遠く瀑布の音がする。
どうやら、大きな滝のそばか。
いや、それらは、今はいい。
問題が発生していた。
『……! …………!!』
何故だか、全く理解できない。
先程まで、東京と呼ばれる土地で、営業していたはずだ。
そのような記憶は、ある。
だが、それは何やら強い衝撃を身に受けて、途切れた。
気がついたら、この場所にいたのだ。
大型トラック……。うっ、頭が。
いや、頭がどこなのか分からないが。
それはともかく。
ふと。
ゲームとかいう媒体の知識が浮かぶ。
それを、脳裏……、というか、思念で言語化してみる。
『いしのなかにいる』
漢字とかいう言葉で、もう一度。
『石の中に居る』
いや、漢字にしたからどうだ、という話だ。
……どうやら。
魂だか思念体だか、そんなようなものになった自分は。
玄武岩らしき、無骨で硬く雄々しい物体に転生した。
現状を説明するとすれば、そうとしか形容出来なかった。
何しろ。
……手足がない。
──そりゃ、岩だし。
……脳みそも口もない。
──そりゃ、岩だし。
……身動き出来ない。
──そりゃ、岩だし。
自問自答の果て。
……いったい、何の冗談だ。
理由も不明ながら、岩に転生するなど。
神は居らんのか。責任を取れ、責任を!
そうして、暫し……、昼と夜が数千回巡る間ほど。
憤り、暴れ、苦闘し、全力で脱出を試みたが……。
やがて。
全てが無駄だと悟り、諦めた。
これが。
後に『賢者の石』と呼ばれた大岩。
その、始まりの記憶である。
──遠い遠い、遥か昔の記憶だった。