螺旋階段の別れ
「お前なんか、消えて無くなってしまえばいいっ!!!」
俺はそう捨て台詞を吐いて駆け出した。どこへ行くのかさえわからないのに・・・。
6月。梅雨に入ろうとしている曇り空を横目に俺は海岸を歩いていた。何も考えず、波がきれいー。砂がさらさらー。バカみたいだ。
昨日友達と喧嘩した。殴り合いの警察沙汰の。そのせいだ。俺はいつもこんなんじゃない。もっと知的でクールでモテモテのいい男・・・、やっぱりバカになってる。
日が俺にサヨナラを言い始めたぐらい。渡り鳥が堤防の上に降り立った。あ、怪我してる。その鳥は足が少し変な方向に曲がっていた。いつもの俺なら何も思わなかったが何故だかわからない。助けなきゃ。心の何処かで思ってしまった。
そいつについて行った。崖の下の茂みの方へあいつは逃げた。俺も見失わないよう急いで追いかける。無我夢中で帰ることも考えずただひたすらに走った。あいつは弱い。俺がなんとかしないと、という無責任な気持ちで。
あいつの白い硬そうな羽根が霞むぐらい暗くなったとき、俺は我に返った。なんだ、これは・・・。思わず声が漏れた。今まで見たことの無いようなずっと上。天に突き刺さっているようなサビかけた古い螺旋階段がそびえ立っていたのだ。
はっとまた気がつくと完全に日は暮れ、星々が輝いていた。思わず見入ってしまった。そういえばいない。本来の目的を忘れるところだった。周辺を探してみたが、見当たらない。しまった、逃してしまった。・・・、でもこれは気になる。どうせ家に帰っても誰も俺を歓迎してはくれない。少し見てくか。
軽はずみな考えで螺旋階段を登り始めた。初めは順調だったが、周りの木々が同じ目線になろうとしていたときこれ、登ってどうする?終わりがあるのか?抑えきれない不安が俺を支配した。なのにもかかわらず、足は止まらない。今なら引き返せる。そう思っても振り返る気にはならない。前に進むだけだ。無駄にポジティブになってしまっていた。
足元を覗くと遥か彼方に地表がある。なんだこれ。俺が登ってきたのか?無心になって淡々とここまできてしまった。・・・・・、これ落ちたら死ぬ。さっきは何とも思わなかった恐怖に今度はすぐに反応した。足が止まり、どっと疲れが出てきた。段に座り込んで膝を抱えた。俺、何してるんだろう。どうすればいい?年頃の男子なのに泣きそうになった。俺は女子か?情けねぇ。
ブルッ。風が冷たい。何もする気が起きずただただ丸まっていた俺は死んでもいいと思った。今、階段を下りれば家には帰れる。だが帰っても俺が求めている生活は送れない。ならいっそ死んでしまった方が楽なんじゃないか?もう一度人生をやり直せば・・。そんな甘ったるいことを考えていたとき。
「そこで何をしている」
久しぶりの人の声。懐かしい、知らず知らずのうちにそう感じていた。何もしてねぇよ。何故螺旋階段に他にも人がいるのか深く考えもせず返事をした。
「お前は死にたいのか?」
唐突にそう聞かれた。ああ、死にたいよ。こんなクソみたいな世の中居たくも見たくもない。消えてしまえばいい。俺なんか・・・。自分で言っている本当に果たしてそうなのか?と疑問がでてきた。
「ならば私が殺してあげようか?」
はぁ?何言ってんだこいつ。マジで言ってんのか。そう思い、後ろにいるはずの奴を見るため振り返った。・・・あれっ?俺が見た景色は夜風ばかりが通り過ぎ人気など全くなかった。よく考えれば螺旋階段に登ってきて待ち伏せしているなんておかしな話だ。
ブルッ。俺はまた違う意味で震えた。今俺は誰と話していたんだ?確かに聞こえた。高くも低くもない男の声が。おい、いるなら出てきてくれ!!お前は誰なんだ!
「ここに居ますよ?探さなくても」
また聞こえた。次はもっと上だ。とっさに階段を駆け上がる。どこだよっ!!いねぇじゃねぇか!叫びながら走っていたら急に頭が冷静になった。あれっ?もしかしてこれハメられてる?よく考えれば上に登ってきてる。わけわかんねぇ。とりあえず階段に座り空を仰いだ。・・・月が全く動いてない。時間が進んでない?俺はなぜここにいるんだ?進まない時のなかでただただひたすらに階段を登り続けるのか?疑問が次々に出てきた。
よしっ。やっぱり帰ろう。家に帰ってもクソみたいな奴らしかはびこっていないが、俺には愛すべき親友がいる。仲直りをすればきっとまた、前のように、そうだよな、きっと。しんみりとした気持ちになっしまった。柄じゃねぇ。そうと決まれば帰り道。階段を下ればいいだけだ!
「いいのか?今、この柵を乗り越えて宙に身を任せれば一瞬だぞ?」
「体験したことのない素晴らしい景色が見えるぞ?」
だから何なんだよっ!!俺は死ぬ訳にはいかないんだよっ!
「未来のためにはな。今俺が死んだら人生はリセットできるが、今の俺。俺の未来はここで終わる。俺が明日を生きることは許されない。でも今死ななかったら明日も、何年も先まで生きられる。もし、人1人の生まれ変われる回数が決まっていたら一回一回の人生、長く生きた方が得じゃないか?俺はなそう思ったんだよ」
かっこつけてしまった。だが、これは俺の本心だ。1分1秒を大切に、よくある言葉だが結構いい事だと思う。あいつには悪いが俺は帰らせてもらうぜ。初歩的な手にはのらねぇよ。
「・・・。わかった。そう言うなら仕方がない。同意がなくても力強くで」
!?やばいっ。ドス黒い殺気を感じた。逃げなきゃやられる。身体が本能的に動きだした。階段を駆け下りる。耳に当たる風が冷たい。俺を凍らせて足止めをするかのようだ。
「待て、今お前をやらなきゃ次のターゲットはいつ来るかわからない。私も元の世界へ戻りたいのだ」
微かに聞こえてくる声はどことなく悲しく助けてあげたくなるそんな感じがした。・・・、でも。今の話が本当なら捕まってはいけない。俺があんなんになってしまうのだろ?
そろそろ足元がもつれてきそうになった時。あっ!地面が見えてきた。これでやっと帰ってこれた。ほっと息をついたら、
「やっと・・追いついた・・・次はお前の番だ。死ねぇっ!!!」
ガキッ。鈍い音が夜空に響いた。とっさに目を瞑ってしまった俺は恐る恐る目をあける。痛みがない。どう言う事だ?そこにあった光景は、俺をここまで連れてきた張本人。白い渡り鳥だった。今はあいつのせいだろうか。背中から首筋にかけてじわっと赤く染まっている。その小さな瞳には強い覚悟が宿っていた。
「ありがとう。お前がいなかったら俺はどうなっていたか。助かった。」
感謝を述べて思いだした。赤が広がっていく。許さない。こいつは俺を変えさせるきっかけを作ってくれた。お前が殺していい命なんかじゃない!!!
うぉぉぉお!!と言いながら突進して行く。あいつは呆気に取られたようにぼぉっとしている。瞬時に体当たりをし距離をあけ死にそうになっている渡り鳥をしっかりと抱きかかえた。ありがとう。きっと天に登れるよ。俺の目から涙が溢れた時、こいつの瞳が森の奥を見た。そこには大小様々な仲間たちがこっちを見ていた。きっと空を飛んで帰る途中だったのだろう。こいつが群れから離れてここにきたのを追いかけてきたのだろう。どいつもこいつも追いかけられてばかりだな。
悲しみをぶち壊したのはあいつだ。
「まだだ。諦めてはいないぞ!!!」
こりもなくまたこっちに向かってきた。馬鹿な奴だな。悟りを開いたのか知らないが落ち着いて攻撃をかわす。そんな俺の腕の中で渡り鳥は死んでいった。動かなくなったこいつは悲しくも自身に溢れた満足な顔をしていた。こいつの為に俺は死ねない。帰らなきゃ。そっと地面に下ろしてやると仲間が駆け寄り囲まれて見えなくなった。
俺は決意の宿った目であいつを見た。殺気が身体中から出ている。だが俺は負けない。だって戦わないんだから。あいつの不意をつき多分帰り道であろう方向の森へ走っていく。どこに行けばいいのかわからない。でも確信している。俺は俺だ。身体が感じたままに走っていけばやがて辿り着くだろう。俺が道望んでいる故郷と言う場所に。
読んでくださりありがとうございます!!いかがでしたか?だらだらとしたまとまりのない話だったでしょうか?それとも素晴らしい、褒め称えたいぐらいの話だったでしょうか?人それぞれ解釈はありますが心のどこかに響いていると幸いです。
"やす ゆうや"でしたー!!!




