超・特化能力勇者 〜分析編〜
私の名はブーン・セキ。
今は魔王城の王室。
目の前に魔王が佇む。
ここまで来るのに大した苦労はしていない。
ただし、準備は万端だ。
ここまで・・・本当に長かった。
・・・
・・・
・・・
6歳の頃、能力に目覚めた。
精霊が現れ、あなたは勇者として魔王と対峙し、この世界の平和を守らなければならない。
その使命の為、1つ、能力を与えよう、何がいいか。
ときた。
私は胸が踊った。すかさず
「いろいろなことが、ビャッとわかりたい。だったらやるよ」
と言った。
なんせ能力発動前の6歳だ。許して欲しい。
しかし精霊は意図を汲んでくれた。
満足している。
そして次は私が応える番だ。
それから、とにかく分析できる、先が読める事を最大限利用した。
チェスをしようにも、先が読めてつまらないくらい。
ただし予言ではないため、明日の天気までわかるわけではない。
・・・大体当たるが。
また、見知らぬ人も5分も話せば大体分かる。
15分話せば、悩める人生相談を2時間くらいは展開出来る。
それもどんな反論があるかも織り込んで。
8歳の頃、魔王が復活したとお触れが出た。
まだ、すぐには実行できない。
わからないことが多すぎた。
情報収集のため、1年かけて父に連れてもらって街を回ったり、魔王を見た兵士に話しかけたり。
勿論、うまく引き出すために子供の立場を利用して。
時には神の使いの真似をしたりした。
9歳になって、自分ならいけると確信した。
加えて誰の邪魔も受けない前提で。
他人がいると不確定要素が増える。
ただ魔王よりも旅立つまでに、とてつもないほどの準備と手続きが必要だった。
面倒だが仕方がない。
3年かけて息子溺愛の両親の説得だ。
既に実行済。
「僕は勇者になりたい」から「冒険者になりたい」そして「世の中を旅し、見聞を広めたい」にシフト中だ。
両親は息子の成長を願い、10歳になる頃には大いに行ってこいと逆に言われるようになった。
「完了」
私は呟く。
次は魔王城までたどり着く為の必要な知識、準備だ。人の話だけでは足りない。
12歳まで城下町の学校に通う。
図書館と学校の往復。
プラス兵士達との情報収集とコネ。
加えて王に謁見されやすい土壌を作るのだ。
厨房の人、女中長、兵士長、繋がりは上がっていった。
まだ、足りない。
私の分析では、これではうまくいかない。
魔王が倒せる事に確信しているが、分析能力以外は人並みよりちょっと上程度。
日々情報収集しながら微調整は繰り返している。
ただし、大きな変更はないが。
13歳で剣術の門下生になる。
体が出来てきた為、戦い方を学ぶのだ。
ただ、基礎訓練の積み上げと、奥義の1つを見せてもらえればよかった。
当然、無敗だった。また、勇者として認められるには無敗であり続けなければならない。
相手の構え方と一刀目で、大体の剣筋はわかった。
分析し、弱点を攻め、勝ち続けた。
また、運良く達人級の道場破りも何回か迎えられた。
おかげで師範以上の奥義も幾つか見られた。
・・・運良く?言葉のあやだ。
15歳で異例となる免許皆伝を授かる。
それと、その間に基礎魔法を学んだ。
間違いなく、魔王に魔法は1つだけでいい。
より強力にする為、独学で練り上げ、準備する。
「完了」
18歳になった時にまた呟いた。
王の謁見を賜る為、少し手をまわす。
既に城内の中心人物は知り合いばかりだ。
当時の人間関係から分析し、王政が上手くいくように、かつ自分の手駒となるよう、根を回した。
大臣はなんとなくその時になると、私に気づくように手を打っていた。
王は私と年齢が近いが、親近感はない。
王も、見下すように言い放つ。
「ブーン・セキと言う者よ、我に何の用だ」
「ナントナーク王よ、私は精霊より祝福を受けたブーンと申す。勇者の称号を私に」
「ほう、見ず知らずの訳もわからぬ貴様に」
そこでハッとした大臣が駆け寄り、何かを話す。
さすがに王様を事前に懐柔しておく事はできない。
王の部屋に入れ、だけならできるが。
しかし王はそれほど複雑な人ではない。
周りを固めれば大丈夫なのは分析済みだ。
「ふむ、貴様があの。見込みはある、と申すか」
あの、と言ってるが私を知らないはずだ。
王そのものは保身しか考えない奴だからだ。
他人の事など興味がない。
「必ずや、魔王の首を。そして我が国の繁栄を」
「あいわかった。必要なものはなんなりと申せ」
「それでは、誠に畏れ多いことですが」
私はここで書面を何通か出す。
「なんだ、これは」
「契約書など、にございます」
勇者による魔王討伐契約書
(別紙)
勇者の王への名誉譲渡書
王政不可侵宣誓書
魔王討伐後の旅行計画書(10年)
別の戸籍を手配頂く願い届
この王は私のような不可解な人間に警戒心を抱く。
このまま行けば、魔王討伐後、私の名声に嫉妬で狂い5年経過後に私を捕らえ、幽閉することになる。
それは避けねばならない。
口ではなんとでもなるので、書面を用意した。
この国の一等法務官のサイン付きだ。
「色々用意周到であるな」
「王の負担をひと匙でも軽く」
「まあ良かろう」
「ありがたき。それでは」
そうそうに城を出て出発する。
仲間に名乗り出る者、協力者などが声をかけてきたが断った。邪魔だ。
「完了」
私は城を出た後、笑みを浮かべ呟いた。
魔族の国に入る。
ここから大体知っているが、分析に肉付けが必要だ。
1年かけて魔族の国を調べた。
魔王には五天と呼ばれる配下がいる。
炎の魔人、ゴウエン。気持ちいいほど豪快。
氷の女王、ヒョウ。冷静に見えて情熱的。
風の騎士、フウ。ふざけた態度の中に悲しみ。
土の巨人、イワー。笑顔と素朴さが、みんなのアイドル。
そして闇の大司教、ダーク。正統派、ナンバー2だ。
闇の大司教は、空間を操る魔法使いだ。
コイツは自然の法則が通じない為、戦うのは厄介。
という事で、さらに1年かけて「炎氷風vs闇」の対立を成立させることにした。
魔族に扮し、魔物の街に潜入し、目的に向かって活動する。
私の魔物レパートリーは26種。
私の分析とモノマネを持ってすれば、ばれることはない。
その間に土の巨人を倒さねばならなかったが、誘い込み、誰もいない所に呼び寄せ、倒した。
頑丈なだけで単純な為、一番倒しやすいからだ。
「戦いの中で散るは本望」
すごく素朴に、純粋に笑って目を閉じたのには心が痛む。
残った五天、元々炎と氷は仲が悪く、風は無関心だった。
それを三角関係まで持って行き、炎と氷で成立させつつ、風に「振られたけど最大の理解者」になってもらった。
大司教に結婚の仲介役をさせるところまで持って行き、そこで土の巨人を倒したのは闇だとバラした。
適当に証拠を作って。
ちなみにその時までに私は魔族の大臣まで上り詰めている。
まぞは実力主義なので良い。
みんなのアイドルだった土の巨人を亡き者にしたと3人が激昂。闇がここで邪魔者を1度に消す、と迎え撃つ。
邪魔と思わせるよう仕向けたのは・・・もういいか。
戦いは4日目に突入している。
後2日で相打ちになる。
風が2人を庇い、氷が、炎の盾となる。
満身創痍の3人は奥義を持って闇を討つ。
3人は微笑みながら、手を取り合い息を引き取る。
嫌な奴らではないので、魔族の中での戯曲として残るよう、原稿を魔族出版社に投稿しておいた。
悲恋、純愛、裏切り、友情。
テーマ盛りだくさんだ。
恐らくロングランになるだろう。
文才があるかは興味がないのであまり分析してない。
そして今、魔王の前にいる。
長命の為、日常に退屈しているが、頭も良く純粋に強い。
ここまで来る間に一回だけ、分析結果から計画を変更させたほどだ。
ガイドラインに変更はなかったが、私には初めての出来事で驚いた。
今、魔王の前に立った。
魔王が口を開く。
「お前が紛れ込んでいることは知っていたぞ勇者よ」
「やはりそうか」
「して、どうする?我には敵わぬぞ。人並み程度のその力では」
「そう思ってないくせにか?」
「ふふふ、面白い。わかったか」
「どうだ?その人並みの策略を受けてみないか?失敗したら負けでいい」
「いいだろう、余興に飢えておる。来るが良い」
私は魔法式をなぞり、唱える。
「封印魔法・シール」
「ほう、封印か。使うとは予想していた。確かに転生もできず、我は封ぜられる。しかしお互い攻撃も出来ぬ。封印は半年も持つまい。その間に逃げるか?腰抜け勇者よ」
「逃げない。それと魔法が1つだけならその通りだ。しかし今日までに18万2000の魔法式を組んでおいた。それをぶつける」
魔法蓄積書を開き展開する。
魔王の目がカッと開く。
「「な、なんだと?」」
「「ふざけるな、我がそう易々と」」
魔王が自分の声じゃない自分のセリフに驚愕する。
「・・・はっ?!」
「もう20分も会話すると読める。分析通りだ」
「ま、待て」
「お前は6万までは封印を破る。その後心が折れる。なんとか抜けられるのは6000年後だ」
「くっ、この屈辱絶対に忘れぬ。名を聞こう」
「ナントナーク。ベツニ・ナントナークだ」
さらっと王の名を語る。
王はあんな紙切れでも信用しない。7年後に幽閉されるだけだ。
「ナントナークか。覚えておく。首を洗って待っておれ」
「ふははは。我はナントナーク。覚えておけ。もうお前が出る頃には死んで会えぬがな、弱き魔王よ!!勝ち逃げたナントナークが勝てぬ敵ぞ!!」
大事なので2回言う。
言い方も王に、真似ておいた。
「ほ・・ざけ・・か・なら・・ず」
あっけなく封印された。
封印魔法、シールは、どんな魔族でも封印する。ただ魔力に依存するため、必ず破られる。
それだけの魔法の為、冒険者は一応覚えるが、あまり使わないり
しかし、私ははこの魔法が重ねられる事を8歳で分析した。
それと封印の数と年数を言ったのは奮い立たせる為。
あの魔王は6年後に復活する。
ただし、力は弱体し、今の2割も出ないだろう。
これで国と魔王の力は拮抗する。
400年くらいは持つはずだ。
自分が死んだら、さすがに読めない。
でも、多分当たる。
私は魔王の錫杖を持って国に帰る。
これで王は信じるだろう。
「完了」
満足に呟く。
もちろん計画通りに旅行なぞしない。
さて、どこに行こうか。
--その後勇者がどこに行ったかはわからない。
しかし、この勇者を長年調べた歴史家が「勇者ブーンの考察」にてこう綴り始める。
"歴代の勇者から比べても、6年しか魔王を退けず、行方をくらませた勇者ブーンは最弱と扱われている。しかし私はそう思わない。彼を超える勇者を私は知らない。なぜなら・・・"
お読みいただきありがとうございます。
いかがだったでしょうか。