大掃除、しようか。
めちゃくちゃ久しぶりですいません。とりあえず、四月まで集中して終わらせます。
というか、ドロワに家中の掃除をさせる方が先か。
「先に家の掃除して」
「えー、ノアくんが綺麗にしてんじゃん」
ぶーと、頬を膨らませて、ドロワは拒絶した。
………人の苦労を、なんだと思ってんだ、この主は。
「なんで僕が、家の掃除させられてるか、分かってるの?
………ドロワが一向に片付けないからだろ?」
図星を突かれて、ドロワはうっ、と言葉に詰まる。今現在も、彼女の部屋は、先程まで僕で(・・)、遊んでいた小道具達で溢れ返っている。
これの後片付けまで、僕にやらせるつもりであったのだろうか?
……もしそうなら、今日の夕飯は、ドロワが嫌いな野菜をたっぷり使うこととしよう。
「わかったよぉ…………。ノアくんはベットでじっとしててね?」
ドロワが唯一、綺麗にしているデスクの上から、20cmほどの水色の棒を取り上げる。それの先端にあるのは、星に翼の付いた3cmほどのオブジェ(?)だ。
これがドロワが魔法を行使する際に用いる、彼女だけの杖である。
彼女は、そのままとぼとぼと家の中心に向かっていった。
………やっとやる気になったか。取り合えず、ティーセットを片付けた。
そして、僕は壁に取り付けてある小さめの鏡を取り外して、ベットに置き、再び猫に戻る。
≪Make up magical mirror et reflect DOROWA ' s performance≫
ん?文法とか、綴りが微妙に違う?
魔法言語って、曖昧なのが多いんだよ。違っても、問題がでないのが遣い魔の魔法なのだ。僕らは基本的にイメージで作ってるからね。
ま、andを使うのは格好悪いという慣習から、etが好まれるのだ。気にしないで。
さて、僕の魔法によって、鏡には今現在のドロワの動向が表示される。
イメージでは、水鏡と言う奴だ。日本古来からある伝統的手法だが、今回は簡易的にただの鏡で代用してる。
鏡に写る彼女は、家の中央に描いてある、正円に六芒星の魔方陣に必要なルーンを描いていた。
家に関わる魔法に必要な陣は変わらないから、という自堕落な理由で、絨毯の下に隠されていたものだ。
…………普通に魔法を使っても、贔屓目無しに実力は人並み以上なのに。勿体無い主である。
さて、書き終わったのか一通り見直して、小さく頷いた後、彼女は陣の中央に立つ。魔力を高めているから、彼女の髪がふわりと宙を漂う。……そろそろか。
「La Clemio Holl HOmE」
なんとなく、字面や、会話内容から理解できているだろうけど、家中を綺麗にする魔法だ。
正直、ドロワがこの魔法を見付けてきたときには、戦慄を禁じ得なかった。ドロワみたいに、面倒臭がりな魔法使いがこの魔法を編み出していたのである。いや、皆思考は同じなんだよね。
さて、魔方陣がドロワの魔力と同じ、淡いオレンジ色の光を放つ。
それと同時に、家の至る所からガタガタガタ、という音が鳴り響く。とは言え、魔力を制御しているドロワは微動だにしない。
僕が頭を抱えてしゃがむと、僕が魔法を行使している鏡以外の物が、オレンジの光に包まれながら凄い勢いで飛び交う。
書棚には散乱していた本が飛んできて、ととととっと、作者やあいうえお順に並びながら収まる。
勿論、遊んでいた小道具達も、元々入っていた棚の近くに集まり、棚が魔力によって開くと所定の位置に着く。
こんな光景が、家の至る所で起こっているのだ。音が鳴るのも当然である。
一通り、物が片付くと、契約してる精霊達の出番となる、第二フェーズに移行する。
と、僕の周辺の魔素濃度が高いな。仕方ない、魔力を瞳に集める。
精霊は魔素の塊だからね。魔力を持った人にしか見えないし、声も聞こえないのだ。
………案の定、僕の横に二人の精霊が立っていた。
《はぁーい、ノア。お元気?》
《久しぶりね、ノア。ドロワちゃんは相変わらずみたいね》
彼女達は、ドロワと契約を結んでる風精と水精だ。二人とも、前回来たときは、ドロワと大して変わらなかったのに、大人になっている。ということは…。《全く、自分で始めから綺麗にしていれば、慌てずにすむんだよ。
ところで、二人して、大分成長してるようだけど?》
そう尋ねると二人とも、歌い出しそうなレベルで話し出した。………正直、面倒臭い。
《そうなの!!漸く上級精霊になれたのよ!!》
《長老も溜め息吐きながら認めてくれたわ!!》
それ、認めたくなかったんじゃないの?まあ、精霊界の事はよく知らないけど。
《それはおめでと。ってか、仕事は?ドロワ、ああみえて、自分に任された事しない人、大嫌いだけど?》
二人してハッとなる。下級や中級精霊に任せきってきたのだろう。ドロワが久々に怒るのだろうか?
《……浮かれてる場合じゃないわね》
《……仕事、片付けてくるわ》
二人はふわりと、空気にとけるように消えた。魔力を使って疲れた僕は、一眠りすることにした。だって、ここまで来たら、あの面倒くさがりだって、最後までするでしょ?