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マイナスイオンマン

「うおおっ‼」


「何っ?」


 光に包まれる俺を見て、赤鬼は動きを止める。


『これぞネガティブヒーロー、マイナスイオンマンじゃ‼』


 また黒サンタの声がした。

 光が消えると、俺は全身を真っ白な服に包まれていた。青いマントは肩にくっついている。手袋と靴とベルトは青い。視界には何も影響がなかったため、触ってみて初めてヘルメットを装着していることに気付いた。そのときはわからなかったが、後から鏡で確認すると、ヘルメットは白く、ヘルメットの二つの目の部分にそれぞれ白いレンズが付いていて、二つのレンズのところを太めのV字の青いラインが通っていた。


「何これ?」


「なんだ貴様は!」


 赤鬼は金棒をいきなり振り回した。


「うわっと!」


 とっさに飛び上がると、なんと五メートル程飛び上がることができた。


『落下中に着地点を決めて前後左右に移動することもできるぞ!』


 着地した俺は、すかさず赤鬼の顎を思い切り殴った。


「ぐぎょ」


 吹っ飛ぶ赤鬼。我に返った俺は頭の中の黒サンタに語りかける。


『何がどうなって……』


『お前は今日から怪人や怪獣から平和を守るヒーローじゃ』


『いや、訳が分からない‼』


 いきなり昨日の夢に出てきた(と思われる)奴に頭の中からテレパシーかなんかでヒーローになれとか言われて訳が分かる方がおかしいだろう。夢の中でも黒いサンタがそんな感じのこと言ってたような気もするが。実は全部、幻覚と幻聴と妄想なんじゃないのか。割と本気で自身の心身の健康を心配した。


『お前にここがわかったのは昨日の晩に夢の中で危険察知能力をお前に授けてやったからだ。さっきの異常な身体能力はマントを着て変身したとき専用じゃな。わしの名はブラックサンタクロース。昨日わしのことを日本人と思ったかもしれんが、そもそもわしは地球人ですらない。わしが作ったスーツの適合者は、ネガティブでマイナス思考な人間じゃ。だから昨日はお前の夢の中に現れた』


 そういや夢の中で世界一のネガティブとか言われたんだっけ。冷静に考えてみると凄いよな。


『ちなみに、おまえの本来のクリスマスプレゼントはわしが貰っておいた。『エイリアンちゃん』とかいうシリーズものの小説だったっけな? 怪人や怪獣は、様々な理由で「普通の存在」が変異したものなんだが、マイナスイオンマンの必殺技“マイナスイオンビーム”を当てれば、元の「普通の存在」に戻るぞ』


「……なんだか、こっちの方が夢みたいだ。大体、怪人や怪獣が現実にいたらニュースになって……」


「いや、現実じゃぞ。ニュースにはなっておらんがな」


 と、さっき赤鬼に襲われていた若い男性が俺の隣で言った。


「わっ‼」


 驚く俺を見た男性はニヤニヤしながら黒い光に包まれる。すると男性は昨日の夢に出てきた黒いサンタクロースになっていた。


「なっ!?」


「わしが化けておったのじゃ。現に今でも怪人や怪獣に襲われたことがある人間は山程いる。しかし、怪人や怪獣に遭遇した経験の無い人間の方が遥かに多いため、世間からは信じられんだけじゃ。人目に付くところには怪人共はおらんしな。言っている内に鬼が復活したぞ。両手の平から“マイナスイオンビーム”を放つのじゃ」


 赤鬼は立ち上がる。


「俺様の邪魔をしおって……食い殺す‼」


 突っ込んでくる赤鬼。


「こうか? マ、“マイナスイオンビーム”‼」


 ちゅどーん‼


「ぐふぇえ!?」


 白いビームに撃ち抜かれた赤鬼は赤鬼のお面になって地面に落ちた。


「まさか元はお面だったとはな」


「あの、俺はこれから……」


 黒サンタは顔に嫌らしい笑みを浮かべる。

 キーン‼ と、頭痛が走る。


「ウガッ‼」


「お前に危険察知能力を与えたついでにお前とわしで互いにテレパシーできるようにしたのだが、それを応用してお前の頭の中に色々なものを流し込んだんじゃ。こうされたくなければヒーローとして頑張るんじゃな」


「ちょ……学校とかはどうすれば……」


 正直、世界の平和を守るヒーローになれるなんてかっこいい気もするけれど、学校生活に支障が出ては困る。当時の俺はもうすぐ中学生だったし、色々考えることもあった。


「心配しなくても学校に行っている間には呼び出さん。ヒーローは他にもたくさんおるしな」


「あ、そうなんだ。まあ、ですよね」


 俺は、心のどこかで自分が世界の救世主にでもなったような気でいたことが恥ずかしかった。そもそも世界なんて規模だったら俺が困るじゃないか。まだその頃は小学六年生なのに。勿論高校生でも困るけど。


「ちなみに、いつもお前の近所で怪人や怪獣が現れるとは限らん。というか、どちらかといったらほとんどの場合は遠い県まで行かないといけないだろう。しかし心配しなくてもいい。基本的には特別な移動手段を与えてやる。呼び出すときはプライベートもできるだけ考慮する。できるだけな」


「できるだけって……」


 本当に俺はどうなってしまうのだろう。そう思った俺だが、高校で落ちぶれた今思い返すと、当時にも増して今はそう思う。


「あと、危険察知能力を与えたから、お前のすぐ近くの場所で問題が発生した場合は、時間や場合を問わずにお前にはそれがわかる。まあ、今回はわしが鬼を見つけた後に一般人に化けてわざと鬼に見つかり、お前の危険察知能力が働く範囲に誘導したんだがな」


 それはご苦労様、となんとなく口には出さないでおいた。


「その危険察知能力もお前のマイナス思考に良く適合しておるようで何よりじゃ。能力で察知するものの中には、怪人や怪獣が関わらないものも含まれるが、まあ、そういうのはどうすべきかお前が自分で判断するんじゃな」


 黒サンタは軽く言った。


「自分で……? あのさ、俺がヒーローになるっつっても、ピストルで撃たれたりしたら普通に死ぬんじゃない? 防御力はよく考えたらわからないし……これからも今回みたいに簡単に勝てるの?」


 他のヒーローさん方とやらには悪いが、俺には命を賭ける気は無い。


「大丈夫大丈夫。基本的に今みたいな感じでやってもらってオーケーじゃ。死ぬことは絶対に無い。わしの与えたマントを甘く見るな。あったらそれこそニュースになってるって。怪物に遭遇しただけとか襲われながらも生き残るのとかと怪物に殺されるのとは訳が違う。そうじゃろうが。実を言うと、今時の化け物に殺傷を完遂した奴はおらん。ヒーローが誰かしら駆けつけるからな。ただ、歳が来て引退する者がいるからお前のような新人がいるのじゃよ」


 またもや黒サンタは軽く言う。


「いや、でも俺が死んだらあなたがそっくりな替え玉を俺の家に送るかもしれないだろ信用できないな事故死にされるかもしれないし待てよその気になればあなた俺のことどうにでもできるんでしょうさっきの頭痛みたいにいやどうすればいいんだ誰か助けてく…………」


「流石マイナスイオンマン。良いネガティブじゃ」


 俺がネガティブなのは認めるけど、そりゃ俺の状況なら皆程度の差はあれどこんな感じだろうと俺は思う。

 俺の心配は更に広がる。


「仮に俺にこれから命の危険はないとしても問題はあるでしょ。簡単に敵を倒せるとして、俺ってこれから周りの人が大変な目にあったらいつも駆けつけられるんでしょ? だったら俺は毎回事件を解決して、皆から称賛されて、まるで人の不幸を糧に生きてるみたいな……。それに毎回都合良く俺が現れたら皆俺を怪しむだろうし……。いや、そんなこと考えてる場合か! 結局自分の評価を気にしているだけで……困っている人を自分の都合で見捨てるなんて……ちょっとどうすればいいんだ?」


 そう言う俺の声が悲観的に聞こえたからだろう、このとき黒サンタは満足そうにこう言った。


「まさにマイナスイオンマンの適合者じゃな。なかなかのマイナス思考じゃ。もしお前がプラス思考の人間になったらヒーローはやめさせてやろう。まあ、しばらく頑張るんじゃな」


 それから黒サンタは口笛を吹きながらその場から去っていった。

 俺は、ただ落ちた赤鬼のお面を見つめていた。


「あ、俺の『エイリアンちゃん』返せよ……」


 そこで、変身していないときに怪物に襲われる可能性に気付いた。









 そしてマイナス思考を、ネガティブを改善できないまま、高二の今に至る。

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