田中前人
結局、俺はあの後帰って夕ごはんを食べるとすぐに寝てしまった。結局宿題はしていない。
そして、俺は夢の中で「あいつ」に会う。
「やっとるな、マイナスイオンマン」
「やっとるなじゃねえよ。アンタのせいだろが‼」
俺は、夢の中に現れた黒サンタに向かって言う。
そう、この、サンタクロースの髭の白と服の赤を全て黒にした不気味な爺さんが、俺をマイナスイオンマンにした張本人だ。
「アンタのせいでこっちは大変だ‼ 学校でもプライベートでも悪いことしか起きてないし‼」
「いやあ、それはお前さんのネガティブが原因じゃ。『病は気から』という言葉を知らんのか」
「いや、知ってるけど」
「まあ、だからこそワシはお前さんをマイナスイオンマンにしたのじゃが」
初めて会ったあの日、この爺さんは、俺のことをこの世で最もネガティブでマイナス思考な人間で、マイナスイオンマンの原動力はそのマイナスパワーだなんだと言い、成り行きで俺はヒーローに仕立て上げられたのだ。まあ、その時の詳しい話は省略する。
「とにかく、今日はお疲れ様。これからも頼んだぞ」
そう言って黒サンタは消えた。
「お前はこれで何度目だ。半年前は成績も良かったのに、たるんどるぞ‼」
宿題を出せなかった俺は、担任の藤邦人から説教を受けていた。
やめてくれ、過去の俺と比較しないでくれ。あの時のやる気があった俺と今の俺を比べるな。
わかっている。わかっているから言うな。別にヒーロー活動のせいじゃない。半年前も、忙しさは変わらなかった。
つまり、最近の俺はただ単に堕落しているのだ。
「もういい、席に戻れ」
周囲からの視線が痛い。成績が良く真面目だった頃の俺は別に自分を凄いなんて思ったりしなかったし、自分の成績に誇りを持ったりしていなかった。しかし、今の俺は、自分のプライドが傷付けられるのが耐えられない。
席に戻る途中、俺は「あの人」を見そうになりながらもなんとか見ないようにした。