6話 ~椎名の常識~
単位がもらえて、なおかつ何でも自由にできる部活というのは、物凄く憧れます。
ぼっちは嫌ですが...
「うわ...」
「う...今日もですの...?」
入室した俺に向かって、露骨に嫌そうな顔を向ける椎名とシェリル。
うん。今日も平常運転でひでぇなこいつら。
「さて、今日は週末だ。明日の部活をどうするか話し合おうではないか」
「え、明日土曜日なのに部活あるんですか?」
橘先生が放った一言が頭に引っかかる。
え、何。この部って休日も活動すんの?
「勿論だ。ただ、この教室は借りれないのでどっか適当な場所を決めて集合する。あと、学校で活動するわけではないからちゃんと私服で来るんだぞ?」
あ、明日も逃げられない系のあれか。なるほど。
もう大体この部における自分の立ち位置分かってきたわ。
「じゃあ、18時過ぎに私はここに来るから、それまでに予定を決めておいてくれ」
そう言い、この場を後にする橘先生。
あれ、これ先生いなくなったら俺、どうすんの...?
「...」
静かだ。物凄い静か。
友達を作る為の部って言ってたが、会話が全くないじゃないかっ...!
椎名さんは本を読んでおり、シェリルは編み物、黒崎さんにいたっては、机に突っ伏して寝ている。
「えっと、予定決めなくていい...んですか?」
「...」
無視られた。しかも3人全員に。
かつて、クラス内で「害虫王者無視キング」と呼ばれた俺も、これは堪える。
「あの~...」
「ああもううるさいですわね。そんなの先生が適当に決めてくれますわよ」
「どうせまたどっか映画とかに行くだけだろ。こっちは忙しいってのに」
「え、映画??」
部活動で映画を見に行くのか?
「友達作りの為の部活らしいからな。何をしても自由だ。ゲーム持込OKだし、お菓子持込OKだし、なんなら活動場所がゲーセンとかでも大丈夫だ」
...マジかよ。
ようするに、俺らが友達になれれば何をしてもOKってことかよ...
「まあ、学校側がどんなに手を尽くしたところで私達が友達になることなど絶対にないだろうがな。私も仲良しごっこなんて御免だ」
「それはわたくしもですわよ。ああ、家に帰りたいですわ...」
本当にこいつら外見はめちゃくちゃ良いのに...
性格がクズ過ぎるだろ...
「...寝ていた」
爆睡していた黒崎さんがようやく起きた。
ってか、授業中寝る奴とかいるけど、机で寝るってできなくね?
俺、硬くて全く寝れないんだが。
「黒崎さんもこの部活に望んで来てるわけじゃないんだよね?」
「...そんなの当たり前」
「黒崎さんも単位目当てだ。私と同じくらいバカだしな」
椎名さんが代わりに説明してくれた。
「あれ、椎名さんって頭良さそうに見えるけど?」
「私はバカだ。悪いか?」
「いや、別に...」
なんか凄い意外だ。
容姿から見て、勉強ができないとは全く思わないけどな...
「わたくしも単位目当てですわ。このままでは卒業できないかもしれませんし」
「皆、そんなレベルまで成績悪いのかよ...」
コミュ力なくて勉強できないって詰んでるだろ...
「単位目当てで部活やる時点で成績悪いに決まってるだろう? 貴様は一体何故来ている」
「いや、俺も単位目当てだけど...苦手科目の数学以外はほぼ4と5だけだぞ?」
「4と5だと!? 貴様はやはり人外レベルの化け物だったか...」
「4と5なんて、人間業じゃありませんわ...」
「......初めて男の人を尊敬した」
...あ、ここバカの集まりだわ。
5はともかく4で人間業じゃないって感覚ズレ過ぎだろ。
「じゃあ皆の成績はどうなんだよ」
「私は国語1、数学3、理科3、社会2、英語1だ」
「おい待て。週に4回ある英語と国語を落としてる時点ですでに8単位死んでるじゃねえか。普通にそれ進級できねえぞ」
もはや手の施しようがないレベルだった。
「国語は現代文がまるで分からん。文章などで人物の心情を答えろなど無理難題だ。英語はペアがいないからその時間ずーっとバックれていたら授業時間足りなくなって死んだ」
「わたくしも、国語と英語は1ですわ。No1に相応しい数字ですわね」
「......英語で2以上をとれるぼっちなんて、データになかった」
どうやら、ここの教室では通常の常識が通じないらしい。